手作り石けんの販売に許可が必要な理由—安心と自己責任の考え方
1. 石けんを「売る」ことは自由じゃない?
手作り品でも販売にはルールがある
手作りのアクセサリーや焼き菓子と同じように、石けんも自分で作って販売できそうに思えるかもしれません。しかし、石けんには特有の規制があり、「売る」という行為が法的な枠組みの中に入ります。個人制作であっても、販売目的がある時点で法の対象になります。
「個人利用」と「販売目的」のちがい
自宅で自分用に作るぶんには問題ありませんが、第三者に提供し対価を得る場合、それは「製品の流通」とみなされます。販売目的であるかどうかが、規制の有無を大きく分けるポイントです。
2. なぜ石けんは規制されているのか
薬機法の対象となる「化粧品」としての石けん
石けんは、洗顔・洗体といった用途を持つため、薬機法(旧・薬事法)において「化粧品」に分類されることがあります。薬機法の定義では、「身体を清潔にし、健やかに保つために使用されるもの」は化粧品に含まれます。
誇大広告や成分トラブルを防ぐ目的
薬機法の目的は、製品の安全性を確保し、消費者を誤解させる表現や成分トラブルを防ぐことです。たとえば「美白に効く」などの効能を表示するには、科学的根拠とともに法的な審査が必要になります。安全性の保証がないまま販売が行われると、消費者被害につながるリスクがあるため、一定の制度的管理が求められています。
3. 許可を取らずに販売するとどうなる?
無許可販売のリスクと処罰
許可を得ずに石けんを化粧品として販売すると、薬機法違反にあたります。違反が発覚した場合は、行政指導や罰金などの行政処分の対象となるほか、重大な場合には刑事罰もあり得ます。
過去に問題になった事例
実際に、ハンドメイドイベントやネットショップで無許可販売を行っていた個人が、販売停止や指導を受けた事例があります。SNSで拡散された製品が問題視されることもあり、販売経路を問わずチェックされる可能性があります。
4. 「雑貨石けん」として売ることは可能か?
使用目的を示さなければOK?の仕組み
薬機法の適用を回避するために「雑貨」として販売するケースも見られます。たとえば「洗顔用」などと明記せず、「インテリア用」「観賞用」として売る方法です。この場合、あくまで使用目的が「化粧品」でないことが前提になります。
販売者の意図と購入者の期待のズレ
「雑貨」と書かれていても、見た目や香りから購入者が「肌に使える」と判断することもあります。販売者がどのような意図で商品説明をしているか、表現や文脈次第では薬機法の対象とみなされる可能性もあり、判断は一様ではありません。
5. 石けん販売に必要な手続きと条件
化粧品製造販売業・製造業の許可とは
正式に化粧品として石けんを販売するには、「化粧品製造販売業許可」と「化粧品製造業許可」の2つが必要になります。これは都道府県ごとに申請する制度で、施設の衛生基準や製造体制が審査されます。
許可を得るには何が必要?設備と管理
許可を取るには、製造のための専用施設や保管庫、清潔な作業環境などが求められます。また、製品の記録や品質管理体制、責任者の配置といった要件も必要です。一般的な自宅のキッチンでは許可が下りないことがほとんどです。
6. ラベルや表記にもルールがある
成分表示・効能表記・責任の明記
化粧品として販売する場合、製品のラベルには成分の表示、製造元、使用期限などの情報を記載する義務があります。曖昧な表現や根拠のない効能をうたうことは禁止されており、誤解を招く表記は行政指導の対象になります。
違反すると問題になるケース
たとえば「肌にやさしい」「敏感肌にも使える」などの表現も、裏付けがなければ違反とされることがあります。使用者が肌トラブルを起こした場合、販売者の責任が問われることもあり、表示内容には慎重さが求められます。
7. 自分の肌に使うなら自由?その限界
個人利用と自己責任の範囲
自宅で自分のために作った石けんを使うことは、制度上制限されていません。個人利用の範囲であれば、薬機法の適用はありません。しかし、「誰かにあげる」「ネットで紹介する」など、使用者が他人になると、制度の枠組みが変わることがあります。
第三者への譲渡がどこから違法になるか
無償でも、継続的に第三者に配る、または宣伝目的で配布する場合、それが事実上の「販売活動」とみなされることがあります。とくに、SNS等で宣伝しながら配布する行為は、販売と区別されない可能性があります。
8. 小さな商いと制度のあいだで
「ハンドメイド」の信頼性と制度の意義
手作りの石けんには独自性や魅力があり、個人作家による商品への関心も高まっています。ただし、品質や衛生、安全性が十分に担保されていない場合、消費者が被害を受けるリスクも存在します。制度の存在は、一定の安全基準を保証するために設けられています。
違反しない範囲で活動を続けるには
石けんを販売したいと考える場合は、まず販売目的であるかどうかを明確にし、必要に応じて所管の保健所や自治体に確認を取ることが推奨されます。制度を理解したうえで、適切な方法で活動を行うことが、安全性や信頼性を保つことにもつながります。