ドローンを“自宅の上”で飛ばすのも許可がいる?—空の自由と法制度

雑学・教養

ドローンを“自宅の上”で飛ばすのも許可がいる?—空の自由と法制度

  1. 自宅の空は誰のもの?「空の所有権」の境界
    1. 民法の考え方:土地所有はどこまで上に及ぶ?
    2. 航空法との関係:「空」は誰のものかという議論
  2. ドローンは法律上どう扱われているのか
    1. 航空法における「無人航空機」の定義
    2. 電波法・道路交通法・民法などの関係法令
  3. 許可や申請が必要となる飛行エリアと条件
    1. 人口密集地(DID)・空港周辺・夜間飛行の扱い
    2. 国交省の「飛行許可・承認制度」の概要
  4. 「150m未満」でも気をつけたい落とし穴
    1. 150m未満ならOK?それでも許可が必要な例
    2. 「目視外飛行」「第三者の上空」などの注意点
  5. ドローンを飛ばす前に必要な手続き
    1. 機体登録制度:2022年以降の新ルール
    2. 飛行計画の通報義務とDIPSシステム
  6. カメラ・映像の取り扱いとプライバシーの壁
    1. 肖像権・プライバシー権との関係
    2. 録画や配信をする場合のリスクと責任
  7. 隣人トラブルと民事責任の可能性
    1. 「迷惑行為」と見なされた場合の法的対応
    2. 損害賠償や慰謝料の対象になることも
  8. 地方自治体のルールや条例の存在
    1. 国の法律以外に守るべきルールとは?
    2. 東京・大阪など都市部での規制例
  9. ドローン規制違反で科される罰則
    1. 航空法違反による罰金・懲役の具体例
    2. 実際の摘発事例とその理由
  10. ドローンを飛ばしたい人のためのチェックリスト
    1. 初心者が押さえるべき5つのポイント
    2. 飛ばしてよい場所・申請すべき場所の見極め方
  11. まとめ:空を使うには何が必要か
    1. 制度としての「空のルール」を振り返る
    2. 法制度と日常利用の接点を知る意義

自宅の空は誰のもの?「空の所有権」の境界

民法の考え方:土地所有はどこまで上に及ぶ?

日本の民法では、土地の所有者は「その土地の上下にも権利を持つ」と定められています(民法第207条)。つまり、ある程度までは「上空も自分のもの」と見なされるわけです。ただし、この権利は無制限ではありません。たとえば、旅客機が高度1万メートルを飛んでも、それを所有者が妨害することはできません。これは「通常の土地利用に支障がない範囲」でしか空の所有権が認められないという考え方によります。

航空法との関係:「空」は誰のものかという議論

空の上を飛ぶ物体が増えたことで、「空の使い方」には国の管理が必要になってきました。日本では航空法が空域のルールを定めており、一定の高さ以上は国が管理する「公共の空」として扱われます。つまり、たとえ自宅の上空であっても、一定以上の高さになると「国の管理下にある空」であり、勝手に物を飛ばすことができないのです。

ドローンは法律上どう扱われているのか

航空法における「無人航空機」の定義

ドローンは法律上「無人航空機」として位置づけられます。これは操縦者が乗っていない機体で、遠隔または自動で飛行するものを指します。重量が100g以上あるものは、航空法の適用対象となり、飛ばし方や場所によっては許可が必要になります。

電波法・道路交通法・民法などの関係法令

ドローンの利用には航空法だけでなく、複数の法律が関わってきます。たとえば、操作には無線通信を使うため、電波法の技適マーク(技術基準適合証明)が必要です。また、道路上で離着陸する場合は道路交通法も関係します。さらに、他人の土地や建物を勝手に撮影・侵入するような行為は、民法や刑法上の問題になる可能性があります。

許可や申請が必要となる飛行エリアと条件

人口密集地(DID)・空港周辺・夜間飛行の扱い

国が定める「飛行禁止エリア」では、ドローンを飛ばす前に国土交通省の許可が必要です。代表的なのは次の3つ:

  • 人口密集地(DID:Densely Inhabited District)
  • 空港周辺の一定距離内
  • 夜間飛行や目視外飛行

このようなエリアでの飛行は、たとえ自宅の上であっても、国の許可を得なければ違法行為となります。

国交省の「飛行許可・承認制度」の概要

許可や承認は、国土交通省の「DIPS(ドローン情報基盤システム)」を通じて申請します。申請には飛行計画、機体情報、操縦者のスキルなどを入力し、審査を受ける必要があります。審査には数日〜数週間かかることもあるため、計画的な準備が求められます。

「150m未満」でも気をつけたい落とし穴

150m未満ならOK?それでも許可が必要な例

航空法では「地表から150メートル以上の空域」は国が一括管理する空域とされており、それ以下であれば原則的に飛行が可能と誤解されがちです。しかし、たとえ高度が低くても、前述の人口密集地や目視外、夜間飛行などは例外で、別途許可が必要です。

「目視外飛行」「第三者の上空」などの注意点

操縦者の視界の外でドローンを飛ばす「目視外飛行」や、人が集まっているイベント会場の上空などを飛ばす場合も、必ず申請が必要になります。たとえ家の敷地内であっても、第三者の安全が脅かされる可能性があるためです。

ドローンを飛ばす前に必要な手続き

機体登録制度:2022年以降の新ルール

2022年からは、機体の登録が義務化されました。100g以上のドローンを飛ばす場合、国土交通省に登録し、機体に「リモートID」(位置情報の発信機能)を搭載する必要があります。登録されていない機体の飛行は、原則として禁止です。

飛行計画の通報義務とDIPSシステム

飛行する日時・場所などの情報は、飛行前に「DIPS-Flight Notification」システムに入力・通報する必要があります。これは万が一事故が起きた場合に備え、当局が即座に対応できるようにするための制度です。

カメラ・映像の取り扱いとプライバシーの壁

肖像権・プライバシー権との関係

ドローンにカメラが搭載されている場合、撮影対象にも注意が必要です。他人の顔や敷地を無断で撮影すると、「肖像権」や「プライバシー権」の侵害と見なされる可能性があります。とくに住宅街での飛行は慎重な配慮が求められます。

録画や配信をする場合のリスクと責任

映像をYouTubeなどに投稿する場合は、映り込んだ人や建物の扱いに注意しましょう。モザイク処理や撮影許可の取得など、事前の対策がトラブル防止に繋がります。

隣人トラブルと民事責任の可能性

「迷惑行為」と見なされた場合の法的対応

ドローンの飛行によって「うるさい」「怖い」といった苦情が出ることもあります。たとえ法令違反でなくても、民事上の不法行為(民法709条)に該当し、損害賠償の対象となるケースも存在します。

損害賠償や慰謝料の対象になることも

墜落や物損、プライバシーの侵害などが起これば、慰謝料の請求につながる可能性もあります。ドローン保険に加入することで、こうしたリスクへの備えもできます。

地方自治体のルールや条例の存在

国の法律以外に守るべきルールとは?

国の航空法などとは別に、地方自治体が独自にルールを設けていることがあります。たとえば、公園や河川敷での飛行を条例で禁止している自治体も多数存在します。

東京・大阪など都市部での規制例

東京都では多くの区で公共施設や公園内のドローン飛行を禁止しています。大阪市でも「都市公園条例」により原則禁止されています。違反すれば、罰金や退去命令の対象になることがあります。

ドローン規制違反で科される罰則

航空法違反による罰金・懲役の具体例

航空法に違反した場合、罰金(50万円以下)や、重い場合には懲役刑(1年以下)も科される可能性があります。とくに再三の警告を無視した場合や、危険な飛行を行った場合には厳罰が下されます。

実際の摘発事例とその理由

これまでにも、無許可でイベント会場の上を飛行した事例や、空港近くでの飛行によって逮捕された例が報道されています。法律に基づいた正しい運用が求められる背景です。

ドローンを飛ばしたい人のためのチェックリスト

初心者が押さえるべき5つのポイント

  1. 自分の機体は登録されているか?
  2. 飛ばす場所がDIDや空港近くでないか?
  3. 目視外・夜間飛行の予定はあるか?
  4. カメラ映像がプライバシーを侵していないか?
  5. 保険や緊急時の対応策はあるか?

飛ばしてよい場所・申請すべき場所の見極め方

国交省の「飛行マップ」や「SORAPASS」などのツールを活用すれば、飛行可能エリアを視覚的に確認できます。こうしたツールを日常的に使いこなすことが、安全運用への第一歩です。

まとめ:空を使うには何が必要か

制度としての「空のルール」を振り返る

ドローンが身近な存在になった今、空の利用にも明確な制度が必要とされています。航空法、民法、条例など、複数の法令が複雑に絡み合っていることが特徴です。

法制度と日常利用の接点を知る意義

「自宅の上だから自由に飛ばせる」という感覚と、実際の制度とのあいだにはギャップがあります。その違いを知ることが、トラブルを避ける上で重要な一歩と言えるでしょう。