シフォンケーキの起源と歴史 — 誕生の背景と豆知識まとめ

雑学・教養

シフォンケーキの起源と歴史 — 誕生の背景と豆知識まとめ

はじめに

軽やかでしっとり、空気のようなケーキ

ふわふわとした食感にしっとりとした口どけ。シフォンケーキはその軽さと素朴さで、多くの人に愛されている焼き菓子です。ホールのまま贈り物にされたり、カフェで気軽に楽しめたりと、日常のさまざまな場面に寄り添う存在になっています。

その驚くほど新しい“発明菓子”としての出発点

見た目はクラシックでも、実はシフォンケーキは比較的新しいお菓子。1930年代にアメリカで生まれた“発明品”とも言える存在なのです。今回は、その誕生秘話から製法の特徴、ちょっとした雑学までをまとめてご紹介します。

名前の由来・語源

「シフォン」とは“絹のように軽い布地”の意味

「シフォン(chiffon)」はもともとフランス語で“薄くて柔らかな布”を意味し、主にドレスやスカーフに使われる絹のような素材のことを指します。その軽やかで空気を含んだような印象が、ケーキの食感と見事に重なったことから命名されました。

食感をそのまま言葉にしたネーミング

シフォンケーキは、ナイフを入れるとスッと沈み込み、口の中でほぐれていくようなやわらかさが魅力。こうした“空気のような軽さ”を伝えるために、布の名前をケーキ名にするという発想は、当時としてもユニークでした。

起源と発祥地

1930年代アメリカ・ハリウッドで生まれたケーキ

シフォンケーキの発祥は、1930年代のアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス。考案者はハリー・ベーカーという保険外交員から転身した料理好きの男性で、ハリウッドの社交界で提供されていた特製ケーキとして話題を呼びました。

発明者ハリー・ベーカーと“秘密のオイルレシピ”

彼が開発した独自のレシピは、バターではなく植物油を使い、さらに卵白のメレンゲでふくらみを出すという、当時としては非常に革新的なものでした。その軽さとしっとり感に多くの人が驚いたものの、彼は20年間そのレシピを秘密にし続けていました。

広まりと変化の歴史

20年間“門外不出”だった幻のレシピ

ベーカーは1940〜50年代にかけて、自らのシフォンケーキを高級ホテルやパーティーで提供する一方で、その製法を他人に明かすことはありませんでした。口コミだけで広がった「幻のケーキ」は、多くの料理家やパティシエの関心を集めることになります。

レシピ公開後、全米にブームが拡大

ついに1948年、ハリー・ベーカーはレシピの権利を大手食品会社「ジェネラル・ミルズ社」に売却。同社が「ベティ・クロッカー」ブランドを通じて家庭向けにレシピを公開すると、瞬く間にアメリカ中でシフォンケーキブームが起こります。

地域差・文化的背景

アメリカの「シフォン」と日本の「シフォン」の違い

アメリカではバニラやレモンフレーバーのシフォンが定番で、大きな型で焼き上げてシンプルに仕上げるのが主流です。一方、日本では抹茶、紅茶、チョコなど多彩なフレーバーが登場し、小ぶりなサイズやカット済み商品も増え、手土産スイーツとして独自に進化しています。

日本での広がりと“手土産文化”との融合

1970年代以降、日本でも家庭用レシピとして広まり、1990年代には専門店や百貨店でも販売が増加。しっとり感と上品な見た目が、和の贈答文化にもマッチし、「お中元」「手土産」としても重宝される存在になりました。

製法や材料の変遷

油とメレンゲでつくる独特の構造

シフォンケーキの最大の特徴は、植物油を使用する点と、メレンゲの気泡で膨らませる点にあります。油分はバターよりも軽く仕上がり、卵白の気泡がふくらみを支えることで、弾力がありながらふんわりとした独特の食感が生まれます。

ベーキングパウダー不要?泡の力だけで膨らむケーキ

実は本来のシフォンケーキは、ベーキングパウダーを使わなくても、メレンゲの力だけでふくらみます。ふわふわの秘密は「卵白の立て方」と「混ぜ方」にあり、繊細な工程がその品質を左右します。

意外な雑学・豆知識

「型から外さない」が前提の独特な焼き方

焼きあがった直後のシフォンケーキは、非常に柔らかく、すぐに潰れてしまうため、アルミ製の型からはすぐには外しません。冷めるまでそのままにしておくことで、生地の構造を安定させます。

なぜ“逆さにして冷ます”のか?

シフォンケーキは焼きあがったら“逆さにして冷ます”という独特の工程があります。これは自重でつぶれるのを防ぎ、ふくらんだ状態をキープするため。逆さにすることで生地が沈まず、ふわっとした高さを保てるのです。

バターなしでここまでしっとりできる理由

一般的なケーキではバターがしっとり感を出しますが、シフォンケーキでは油の分子がより細かいため、しっとり感が長く続きます。しかも冷めても固くなりにくいという利点もあり、お弁当やピクニックにも適しています。

アレンジ多彩!抹茶・紅茶・米粉・グルテンフリー版も

基本がシンプルなだけに、抹茶やココア、紅茶葉を加えたり、グルテンフリー用に米粉や大豆粉を使ったりと、アレンジの幅は非常に広いです。ヘルシー志向の人やアレルギー対応のレシピも増えてきました。

航空会社の機内食やカフェスイーツとしても人気

軽くて口当たりがよく、食後にもぴったりなシフォンケーキは、航空会社の機内食にも採用されたり、カフェチェーンのデザートとして提供されたりと、さまざまなシーンで愛されています。

現代における位置づけ

「ヘルシー系スイーツ」として再評価

近年では「ノンバター」「低糖質」「グルテンフリー」など、健康志向のスイーツとしてシフォンケーキが再評価されています。油脂が少なく、甘さ控えめなレシピも多いため、美容やダイエット中の“ごほうびスイーツ”としても人気です。

専門店・テイクアウト・SNS映えでも注目の的に

ふんわりとした断面や型からあふれるようなデコレーションはSNSでも“映え”やすく、シフォン専門店も増加中。手土産やギフト、カフェスイーツとして、改めてその魅力が広く認知されています。

まとめ

シフォンケーキは“空気と技術”の芸術品

バターを使わず、空気の力でふくらませるという発想は、まさに技術と工夫のたまもの。シフォンケーキは“レシピ”以上に、“製法”が味を決める繊細な焼き菓子です。

その軽さの中に隠された革新と物語を味わう

ふわっと軽い一口の中に詰まっているのは、発明者の情熱、隠されたレシピ、そして時代を超えて愛され続ける理由。次にシフォンケーキを味わうときは、その背景にも少し思いを馳せてみてください。

 

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