アンダーマイニング効果とは?ごほうびでやる気がなくなる心理の逆説
なぜ“やる気を出すための報酬”が逆効果になるのか
内発的動機づけと外発的動機づけの違い
子どもが夢中になって遊んでいたのに、「それをやったらお小遣いをあげるね」と言った瞬間、興味を失ってしまった――
そんな経験はないでしょうか。
これは心理学で**アンダーマイニング効果(undermining effect)**と呼ばれる現象で、
**内発的に動いていた行動が、報酬によって動機の性質が変わり、やる気が下がってしまう**という逆説的な効果です。
ここで重要なのは、「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の違いです。
– **内発的動機づけ**:楽しいから、知りたいから、自分でやりたいから
– **外発的動機づけ**:褒められるから、報酬がもらえるから、怒られたくないから
アンダーマイニング効果は、外からの動機が**内からの動機を“上書き”してしまう**ときに発生します。
「楽しいからやってたのに…」が起こる理由
本来、人は興味があることには自然と意欲をもって取り組みます。
しかしそこに、「評価」「報酬」「義務」といった外的要因が加わると、**もともと純粋だった動機が“管理されている”ように感じられる**ことがあります。
結果、「自分のためにやっていた」という感覚が薄れ、やる気そのものが低下してしまうのです。
デシとライアンによる報酬の実験
パズル課題と金銭報酬の影響
1971年、心理学者エドワード・デシ(Edward Deci)は、アンダーマイニング効果を実験的に検証しました。
大学生にパズル(ソマキューブ)を解かせ、途中で休憩時間を与えるという形式で行動を観察しました。
被験者のうち半数には報酬(現金)を与え、もう半数には報酬を与えず、「好きなように休憩してください」とだけ伝えました。
結果、**報酬を受け取っていたグループは、休憩時間にパズルに向かう割合が有意に低下**していました。
報酬を与えられていなかったグループのほうが、純粋に楽しんで課題を継続していたのです。
報酬をもらった後、やる気が下がるメカニズム
この実験から示唆されたのは、**報酬があることで「自分はやらされている」という意識が芽生える**という点です。
内発的な行動(自発的にやる)は、報酬が入ることで「外発的な理由(もらうためにやる)」にすり替わり、
報酬がなくなった時点で「やる理由がない」と感じてしまうようになるのです。
動機づけの移行と心理的リアクタンス
「やらされ感」がやる気を奪う理由
この効果は、単に報酬の有無だけではなく、**自律性の喪失**によっても引き起こされます。
「これは自分で選んだことだ」と感じていたのに、
外から「これをやったら〇〇してあげる」と言われると、
**自分の選択が外部のコントロール下にあるように感じる=心理的リアクタンス**が生まれます。
この心理的リアクタンスとは、「自由を脅かされたときに、それを取り戻そうとする心理的反発」です。
報酬が「やる気を引き出す仕掛け」であるはずが、逆に**反発や無気力を引き起こすことがある**のです。
コントロール感と自由意志の認知
アンダーマイニング効果は、人間が**「自分で決めている」という感覚(主体性・自己決定感)**にとても敏感であることを示しています。
報酬の存在が、この感覚を損なうとき、人はモチベーションを失いやすくなるのです。
教育・ビジネスでの応用と注意点
ほめ方・報酬の与え方で変わる行動維持
教育現場やビジネスの現場では、「ご褒美」や「インセンティブ」が動機づけの手段として用いられます。
しかしアンダーマイニング効果の観点から見ると、**その与え方やタイミングには注意が必要**です。
たとえば、「頑張ったから褒める」よりも、「自分の内側から工夫していたことを認める」ほうが、内発的動機づけを維持しやすいとされます。
一時的な刺激が長期的な意欲を下げる場合も
一度外発的報酬で動機づけされてしまうと、**報酬がなくなったときに継続する力が失われやすい**ことが指摘されています。
特に、「やってみたら面白い」と感じられるような活動には、**最初から過度な報酬を与えない方が良い**場合もあるのです。
まとめ:やる気はどこから来て、どこへ行くのか
動機の“質”と“起源”を考える心理的視点
アンダーマイニング効果は、「やる気」という目に見えない現象が、
**どこから来て、どのように損なわれるか**を明らかにしようとする試みです。
すべての報酬が悪いわけではありませんが、**報酬が“コントロール”として働いたときには、逆効果となる可能性**があることを示しています。
報酬を使うときに知っておきたいこと
やる気を引き出すには、**外発的な刺激と、内発的な満足感のバランス**が重要です。
アンダーマイニング効果は、私たちが「人を動かそうとするとき」に、
意図とは異なる作用が起こることを教えてくれる心理現象といえるでしょう。