「バイオマス」という考え方はどこから来た?再資源化思想の歴史をたどる

雑学・教養

「バイオマス」という考え方はどこから来た?再資源化思想の歴史をたどる

そもそもバイオマスとは何か?

定義:再生可能な生物由来資源とは

バイオマス(biomass)とは、生物(bio)と量(mass)を組み合わせた言葉で、植物や動物などの生物由来の資源を指します。具体的には、木材、藁、食品廃棄物、動物の排せつ物、藻類、さらには生ごみや下水汚泥までを含む広い概念です。

特徴的なのは、バイオマスが“再生可能資源”であるという点です。化石燃料のように有限ではなく、適切に循環させることで持続的に利用できるとされています。

バイオマスと「カーボンニュートラル」の関係性

バイオマスが環境対策の文脈で注目される理由の一つに、「カーボンニュートラル」があります。植物は成長の過程で二酸化炭素(CO₂)を吸収し、燃焼や分解時に同量のCO₂を排出するため、大気中のCO₂を実質的に増やさないとされます。

この性質により、バイオマスは“地球にやさしい”エネルギー源として、再生可能エネルギーの一角を担う存在となっています。

人類の暮らしはもともと“バイオマス的”だった

薪・草木・糞尿…自然素材を活かす前近代の暮らし

化石燃料に依存する前の人類社会では、エネルギーも肥料も資材も、身の回りの自然素材から得ていました。薪や炭は燃料に、藁は屋根や敷物に、動物の糞尿は農業用肥料として再利用され、地域ごとの循環が当たり前のように機能していたのです。

つまり、“使い終わったら捨てる”のではなく、“次の用途に回す”という考え方は、本来の暮らしの中に根づいていたとも言えます。

江戸時代のリサイクル社会と「資源ゼロ廃棄」の思想

特に江戸時代の日本は、「循環型社会」としてしばしば注目されます。紙や布は古紙屋・古着屋を通じて再利用され、人糞尿は肥料として買い取られるなど、廃棄物という概念そのものが希薄でした。

これらの仕組みは、経済的必然だけでなく、「もったいない」「資源は巡るもの」といった文化的価値観にも支えられていました。現代のバイオマス的発想のルーツは、こうした過去の暮らしの中にも見ることができます。

産業革命と「ごみ社会」の登場

化石燃料と“廃棄前提”の構造が生んだ断絶

18世紀以降の産業革命は、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料の大量利用を可能にし、生産と消費の爆発的な加速をもたらしました。その一方で、エネルギーもモノも“使い捨て”が当たり前となり、廃棄という行為が常態化しました。

この時代に“自然に還る”という発想は後景に追いやられ、「ゴミを出すこと」自体が社会の構造に組み込まれていきます。

20世紀に失われた「回す文化」

高度経済成長と大量消費社会の波は、資源の再利用や回収といった発想を“面倒なこと”へと変えていきました。プラスチックや合成繊維など、自然に分解されない素材の普及もそれに拍車をかけました。

しかし、環境汚染や気候変動の深刻化とともに、「このままでいいのか?」という反省が生まれ、再び“回す”という思想が必要とされるようになってきたのです。

現代のバイオマス活用:どこで何に使われている?

バイオマス発電・バイオ燃料の仕組みと導入例

現在のバイオマス活用の代表格は、「バイオマス発電」です。これは木くずや食品廃棄物などを燃やして蒸気をつくり、タービンを回して電力を生み出す仕組みで、既存の火力発電設備に近い形式をとれるのが特徴です。

また、サトウキビやトウモロコシから作られる「バイオエタノール」や、動植物油から生成される「バイオディーゼル燃料」など、液体燃料としての応用も進んでおり、自動車や航空業界での利用が模索されています。

プラスチック代替:バイオマス素材による包装・文具・建材など

非エネルギー分野では、バイオマス由来の素材が注目されています。たとえば「バイオポリエチレン」は、サトウキビを原料とするプラスチックで、容器やレジ袋に使われています。また、トウモロコシ由来の「PLA(ポリ乳酸)」は、生分解性があり、カトラリーや包装材などに応用されています。

さらに、建材やインテリア素材として、木材加工残渣を圧縮した合板、藁や竹を利用したボード材などが、サステナブル素材として再評価されています。

日本と世界の取り組みの違い

日本のバイオマス政策と地域再生との接点

日本では「バイオマス活用推進基本法」が2009年に制定され、農林水産業の廃棄物や食品残渣を地域単位で資源化する試みが進められています。たとえば、畜産地域では糞尿を発酵させてバイオガスを生産する施設が整備され、地元の発電や温浴施設の燃料に使われる事例もあります。

また、過疎地においてバイオマス産業を起点とした雇用創出が試みられるなど、単なる環境施策を超えた地域振興の文脈でも活用が模索されています。

北欧・アジア諸国に見る「分散型エネルギー」としての位置づけ

ヨーロッパでは、特に北欧諸国でバイオマス発電が地域熱供給システム(地域暖房)と組み合わされ、冬季の暖房や温水に広く利用されています。

一方、アジアや中南米の農村部では、家庭用バイオガス装置が導入され、調理や照明のためのエネルギー源として機能しています。これにより森林伐採の抑制や女性の労働負担軽減といった社会的インパクトも生まれています。

現代バイオマスの課題と議論点

コスト・収集効率・食品との競合問題

バイオマス活用にはいくつかの課題もあります。第一に、素材の収集や加工にコストがかかること。特に日本のように森林が山間部に多い国では、木材チップの回収・輸送が非効率になるケースがあります。

また、トウモロコシや大豆などを燃料用に転用することで、食料との競合が生まれる「フード・バイオ燃料問題」も指摘されており、安易な推進には慎重な判断が求められています。

「エコ」であることの定義と、その曖昧さ

“バイオマス=環境にやさしい”という単純な図式にも注意が必要です。たとえば、バイオマス発電でも燃焼すればCO₂は排出されますし、生分解性プラスチックも適切な条件が揃わなければ分解されないことがあります。

「本当に環境負荷が低いかどうか」は、ライフサイクル全体を見ないと判断できず、“エコの定義”自体が問われているのです。

思想としての「バイオマス」に立ち返る

自然と共に生きるとはどういうことか

バイオマスをめぐる話題は、単なる資源技術の問題にとどまりません。そこには「自然の一部として人間がどう暮らすか」という根源的な問いが含まれています。

古来より私たちは、生き物の命や痕跡をエネルギーや素材として利用しつつ、それを再び自然に返す循環の中で暮らしてきました。その知恵を現代社会にどう活かすかが問われています。

技術だけではなく、“視点の転換”としての再資源化文化

バイオマスという言葉には、単に新しい技術を導入するだけでなく、モノの見方そのものを変える力があります。不要と見なしていたものに価値を見出す、捨てる前提ではなく使い続ける前提で考える——その視点の転換が、これからの社会を支える思想として重要なのかもしれません。

バイオマスは、再利用の技術であると同時に、「巡りを取り戻す文化」でもあるのです。