「飲食店での無断撮影」は違法?—肖像権・営業妨害との関係
1. 飲食店での「撮影」、何が問題なのか?
・インフルエンサーやグルメブロガーが陥る落とし穴
飲食店の料理や内装をSNSにアップする――こうした行為は、インフルエンサーやグルメブロガーにとって日常的です。
実際、「この店、すごく映える!」と投稿して宣伝効果を生んでいる例もあります。
しかし一方で、「勝手に店内や他の客を撮られた」「無断で動画を撮影されていた」として、トラブルに発展するケースも増えています。
・なぜ“撮っただけ”がトラブルになるのか
多くの人が「撮影=悪いことではない」と考えがちですが、撮影には法律・マナー・空間のルールが複雑に絡んでいます。
特に飲食店は「公共のようで私的な空間」であり、無断撮影はお店の営業や他の客の権利にも影響を及ぼす可能性があります。
2. 「無断撮影」は違法?グレーゾーンの理由
・「盗撮」と「無断撮影」はどう違う?
「盗撮」は刑法や迷惑防止条例で明確に禁じられている行為であり、たとえばスカートの中を隠し撮りするような場合は完全にアウトです。
一方、「無断撮影」は法律上、撮影対象や状況によって合法とも違法とも言えない“グレーゾーン”です。
たとえば飲食店で料理の写真を撮る行為自体は違法ではありませんが、他の客が写っていた場合は話が変わってきます。
・プライバシーと施設の管理権の関係
飲食店は店主が管理する「私有地」であり、店側には施設管理権があります。
そのため、撮影禁止の店で無断撮影を行うことは、施設管理権の侵害とみなされることがあります。
たとえば「撮影禁止」と明示されたカフェで、無断で店内を撮影してSNSに投稿した場合、法律ではなく民事上の問題として訴えられる可能性があります。
3. 肖像権と撮影トラブルの関係
・他のお客さんが写り込んだ場合は?
店内を撮影したつもりでも、背景に他のお客さんの顔がくっきり写っていた――そんな写真をSNSに投稿すると、**肖像権の侵害**となる恐れがあります。
たとえばあるグルメ系TikTokユーザーが人気ラーメン店の様子を撮影してアップしたところ、背後にいた客から「勝手に映された」と苦情が入り、投稿を削除する騒ぎになりました。
・モザイク処理や写り込みはどこまで必要?
他人の顔が認識できるほど写り込んでいる場合には、原則としてモザイク処理やぼかし加工が必要です。
一方、背中だけや遠くからのシルエットなど、個人が特定されないレベルであれば、問題になることは少ないとされています。
4. 飲食店の“撮影OK”と“NG”はどこで決まる?
・店舗のルールが優先される理由
飲食店の中での行動は、基本的に店のルールが優先されます。
「撮影は自由です」としている店もあれば、「撮影禁止」「料理のみ撮影OK」「スタッフの撮影NG」など、細かいガイドラインを設けている店もあります。
店側が明示的に禁止しているにもかかわらず無断で撮影することは、ルール違反であるだけでなく、トラブルの火種にもなります。
・「無許可ユーチューバー」問題とは
無断で動画を撮影し、YouTubeに投稿するケースが増えています。
とくに問題になりやすいのが、「お店の許可を取らずに商品や対応をレビューする動画」です。
一例として、あるラーメン店に無断で来店・撮影したユーチューバーが、提供されたラーメンを「まずい」と言ってアップし、店が営業妨害として抗議した例も報告されています。
5. SNS投稿と「営業妨害」の境界線
・悪意のあるレビューや写真は違法になる?
SNSへの投稿は自由ですが、意図的に店の評判を下げるような内容は**名誉毀損**や**営業妨害**に問われる可能性があります。
たとえば「髪の毛が入っていた」「接客が最悪だった」などと過激な言葉で店名を明記して非難すると、トラブルに発展することがあります。
・批判的投稿と名誉毀損のあいだ
実体験をもとに感想を述べることは、基本的に表現の自由として守られます。
ただし、それが「事実無根」であったり、「社会的評価を不当に下げる」内容であった場合、法的責任を問われることもあります。
6. 食べログ・Googleレビューとの違いとは
・「投稿プラットフォーム」と個人SNSの責任範囲
食べログやGoogleレビューのような口コミサイトは、運営会社がガイドラインを設けており、悪質な投稿は削除される仕組みがあります。
一方、個人のSNS投稿はノーガードになりがちで、責任の所在があいまいです。
たとえばInstagramでの投稿が炎上した際、「誰に文句を言えばよいのか」が分かりづらくなることも。
・口コミサイトの運営側が取っている対策
大手の口コミサイトでは、店舗側からの通報によってレビューを非公開にしたり、ガイドライン違反と判断された投稿を削除することがあります。
一部では裁判にまで発展したケースもあり、たとえばある寿司店が「事実無根の低評価レビュー」をめぐって損害賠償を請求した事例もあります。
7. 法律以外に大事な“マナーと信頼関係”
・「撮ってもいいですか?」の一言が意味するもの
法律的には問題がなかったとしても、「一言確認する」ことが相手との信頼関係を築くうえで非常に重要です。
とくにカウンター形式の小規模店などでは、店主との距離が近いため、無言で撮影を始めると緊張が走ることもあります。
・店舗と客の信頼関係が損なわれる瞬間
あるカフェでは、無断撮影された動画がTikTokでバズったことで混雑が悪化し、常連客が離れてしまうという事態が起きました。
宣伝になったとしても、店にとって“望ましい宣伝”とは限らないのです。
8. 店舗側はどう対応すべきか
・撮影ガイドラインの明示と注意喚起
トラブルを防ぐために、店舗側が「撮影可」「料理のみOK」「動画NG」などのルールを明確に掲示することが効果的です。
英語・中国語で併記するなど、訪日客への配慮も重要になっています。
・「炎上リスク」への備えとしてできること
最近では、SNSでの炎上や風評被害に備えて、法的アドバイスを受けたり、広報担当を置く飲食店も出てきました。
小さな個人店でも、「ネットで何を言われても無力」ではなくなってきています。
9. 海外ではどうなっている?飲食店の撮影事情
・アメリカやフランスでの許可制文化
アメリカの高級レストランでは「撮影禁止」が明記されていることが多く、撮影したい場合は事前に許可を求めるのが一般的です。
フランスの一部では、静かな雰囲気を大切にするためにスマホ利用自体を控えるよう促されることもあります。
・“映える店”と“静かな店”の棲み分け
海外では、「写真映え」を前提に作られた店と、「あえて撮られないこと」を価値にする店が明確に分かれているケースもあります。
日本でもこうした棲み分けが広がりつつあります。
10. 結局、どこまでがOKでどこからがNGなのか
・法律・モラル・空気のあいだにある「線引き」
飲食店での撮影行為は、法律だけで判断できるものではありません。
許可がなくても違法とは限らない。許可があっても不快に感じる人がいる。
そうした“空気”を読むことが求められる場面でもあります。
・撮影する側・される側が考えるべきこと
「SNSに投稿するのが当たり前」の時代だからこそ、自分の行為が誰かにどう見られるかを考える必要があります。
撮影する人もされる側も、互いの立場を想像しながら過ごすことが、気持ちよい食事体験につながるのではないでしょうか。