なぜ消費税は一律なのか?累進課税との違いを考える

雑学・教養

なぜ消費税は一律なのか?累進課税との違いを考える

税の基本:そもそも何のためにあるのか?

社会の仕組みを支える“みんなで払うコスト”

税金というと、なんとなく「取られるもの」「仕方なく払うもの」と感じる人も多いかもしれません。でも、そもそも税金は、道路や学校、病院、消防、警察など、私たちの生活に欠かせない公共サービスを支えるために、みんなで少しずつお金を出し合う仕組みです。

ただ、「みんなで出し合う」といっても、誰がどれだけ負担すべきなのか――そのルールには正解がありません。だからこそ、税の仕組みは時代ごとに変わってきましたし、今も議論が続いています。

でも、誰がどれだけ負担するかはずっと議論されてきた

収入が多い人も少ない人も、まったく同じ割合で税金を払うのが「公平」なのか。それとも、負担できる人に多めに払ってもらうのが「平等」なのか。どちらの考え方も一理ありますが、どちらか一方を完全に採用するのは難しく、現実の税制度はそのあいだで揺れ続けています。

消費税という制度の特性

「消費」に対して一律で課される税

日本の消費税は、1989年に導入されました。特徴はとてもシンプルで、「モノやサービスを買うときに、いくら使ったか」に応じて税金がかかる仕組みです。現在の税率は10%(一部食品などは軽減税率で8%)。1,000円の買い物をすれば100円の消費税がかかる――それだけの話です。

この「一律でかかる」という点が、消費税の最大の特徴でもあり、最大の問題点でもあります。

見た目はシンプル、でも中身はグレーな制度

消費税の仕組みは、一見するととてもわかりやすく、計算もしやすく、徴収する側(お店や企業)にとっても手間が少ないという利点があります。でも、同じ10%でも、収入が月100万円の人と、月10万円の人では、財布へのダメージがまったく違いますよね。

「見た目の平等」が「実質の不平等」になってしまう――そんな側面を、消費税は抱えています。

累進課税の考え方と限界

所得が高い人に多く負担を求める仕組み

これに対して、「累進課税(るいしんかぜい)」という考え方があります。これは、所得が多い人ほど高い税率がかかる仕組みです。日本の所得税では、年収が高くなるにつれて5%、10%、20%…と段階的に税率が上がっていきます。

この方法は、「お金をたくさん持っている人が、それに応じて多く払うのが自然」という考え方に基づいています。

「公平」と「逃げ道」のせめぎ合い

でも、現実には高所得者の中には「節税」や「所得分散」などの方法で、税負担を軽くする人も少なくありません。税率が高すぎると、所得を海外に移したり、法人化したりして、税を回避しようとする動きも出てきます。

つまり、累進課税は理想的に見えても、「逃げ道」が多くなりやすい仕組みでもあるのです。

一律課税で起きる問題:逆進性とは?

消費税は「収入が少ない人ほど重く感じる」

ここで出てくるのが「逆進性(ぎゃくしんせい)」という言葉です。これは、税率は一律でも、収入が少ない人ほど負担が重く感じられる現象のことを指します。

たとえば、月10万円の収入の人が毎月9万円使っているとしたら、消費税は約9,000円。一方、月100万円の人が50万円使っていたとしても、消費税は5万円。金額だけ見れば後者のほうが多いですが、収入に占める割合では前者の方が圧倒的に大きいですよね。

数字上は平等でも、実態は不平等に近い

「同じ10%」でも、生活に占める負担の重さがちがう。これが逆進性の本質です。そしてこの構造は、低所得層にとっての「見えにくい圧迫感」を生み出しているともいえます。

なぜそれでも一律が採用されているのか

徴収のしやすさと制度運営のコスト

では、なぜこんなに不公平感のある制度が「一律」のまま続いているのでしょうか。ひとつの理由は、徴収や運営がとにかく楽だからです。

所得税や法人税と違い、消費税は「何に使ったか」だけを見ればよく、収入や資産を調べたりしなくてすみます。脱税もしにくい。つまり、「取りっぱぐれが少ない」税金なんです。

財政が苦しいとき、政治家が“安定して取れる税”として頼りたくなるのも無理はありません。

本気で格差を減らす制度は、政治的に難しい

逆進性を改善しようと思えば、税率を変えるか、低所得層に還元する仕組みを入れるしかありません。でも、それを実現するには手間もコストもかかるし、何より「誰にどれだけ還元するか」で政治的な対立が起きやすくなります。

つまり、消費税の「一律」というシステムは、ある意味で「政治の都合」によって選ばれてきた妥協の形なのです。

妥協の産物としての「軽減税率」と「控除制度」

格差への対策が“中途半端”になりやすい理由

2019年から導入された「軽減税率制度」では、食品や新聞などの特定の商品について、消費税率が8%に抑えられています。これは逆進性への一応の対策ですが、対象や線引きがあいまいで、かえって制度が複雑になってしまったという声も多くあります。

また、「給付付き税額控除」のように、低所得層にお金を返す仕組みもありますが、手続きの煩雑さや実施の難しさから、広く浸透しているとは言いがたいのが現状です。

制度設計の歪みと、“複雑にして放置”の構図

本来なら、「負担と支援のバランスをとる」ためにあるべき制度が、政治的な都合や利害のからみによって、「とりあえず見た目だけ対応しておく」という形になってしまう。これは日本に限らず、多くの国で見られる問題です。

シンプルであることの裏には、「公平性をあきらめた結果」があるのかもしれません。

まとめ:なぜ税は「正しさ」ではなく「都合」で決まるのか

制度は常に“どこかを犠牲にして”成り立っている

税制度は、そもそも「誰もが納得する完璧な形」にはなりにくいものです。どこかでシンプルさを優先すれば、誰かに負担が寄る。逆に細かく調整すれば、複雑さやコストが増す。制度の選択には、必ず“どこかを切り捨てる”要素が含まれています。

完璧ではないからこそ、問い直す意味がある

消費税がなぜ一律なのかを考えると、その背後には「取る側の都合」と「配慮しきれない現実」が見えてきます。だからこそ、制度の背景を知ることは大事です。「一律=悪」でも「累進=正義」でもない。でも、その中にある“ひずみ”を見ようとする姿勢が、これからの社会に必要なのかもしれません。