冷凍食品の販売には何が必要?—保健所・表示・保存の基本知識

雑学・教養

冷凍食品の販売には何が必要?—保健所・表示・保存の基本知識

  1. 1. 冷凍食品の“販売”は簡単じゃない
    1. ・自宅冷凍と「食品事業者」の冷凍は全く別物
    2. ・販売には法的許可・設備・記録管理が必要
  2. 2. 冷凍食品を作るために必要な許可とは?
    1. ・食品衛生法上の「食品製造業許可」とは
    2. ・「冷凍冷蔵業」「魚介加工」「惣菜製造業」など多業種連携も
  3. 3. 惣菜、スイーツ、魚介…商品ジャンルで難易度が変わる
    1. ・焼き菓子系は比較的ゆるい、魚系はめちゃくちゃ厳しい
    2. ・冷凍弁当・餃子・冷凍刺身…ジャンル別に見る許可のハードル
  4. 4. 保健所がチェックする「設備要件」とは?
    1. ・家庭用キッチンはNG!営業専用設備の必須条件
    2. ・急速冷凍機、金属探知機、防虫・動線・床壁材質…細かすぎる条件
  5. 5. 施設が用意できないとどうなる?委託とシェアキッチンの現実
    1. ・自前で工場持たなきゃできない?という誤解と現実
    2. ・委託製造(OEM)・シェアキッチンの対応可否と限界
  6. 6. 表示義務は超重要!冷凍ならではの表示とは
    1. ・食品表示法に基づく「名称」「保存温度」「加熱要否」など
    2. ・冷凍食品特有の落とし穴:賞味期限と解凍後の表示
  7. 7. 保存と配送のハードルも意外と高い
    1. ・「冷凍-18℃以下」は温度記録の義務あり
    2. ・クール便でもアウトになるケースとは?
  8. 8. 衛生管理・HACCP対応の現実
    1. ・中小でも義務化された「衛生管理計画」
    2. ・温度記録・製造日管理・異物混入対策…冷凍ならではの記録が必要
  9. 9. 通販・イベント販売のときの追加ルール
    1. ・「特定商取引法」や「臨時営業届出」なども確認
    2. ・返品不可表示、アレルゲン表示の落とし穴
  10. 10. 売る前に知っておきたい“やる・やらない”の判断材料
    1. ・製造許可・設備・配送の3つの壁を越えられるか
    2. ・自分でやる/委託する/諦める、それぞれの選択肢

1. 冷凍食品の“販売”は簡単じゃない

・自宅冷凍と「食品事業者」の冷凍は全く別物

家庭用冷凍庫で余った料理を保存する――それと“商品としての冷凍食品を販売する”ことは、全くの別物です。
個人の食事と違い、冷凍食品の販売には厳格な基準と法律が適用されます。

例えば「自宅で作ったカレーを冷凍して販売したい」と考えた場合、製造許可、表示義務、保存温度、配送インフラ、すべてにおいてクリアしなければならない条件があります。

・販売には法的許可・設備・記録管理が必要

冷凍食品の販売には「食品衛生法に基づく営業許可(製造業や冷蔵業など)」が必要です。
また、販売用施設は家庭用キッチンでは通用せず、保健所が定めた設備基準を満たした施設であることが前提です。
さらにHACCP対応の衛生管理や、記録の保存と提出も求められます。

2. 冷凍食品を作るために必要な許可とは?

・食品衛生法上の「食品製造業許可」とは

冷凍食品を製造・販売するには、まず「食品製造業」の営業許可が必要です。
この中でも、作る商品の種類によって取得する許可が変わります。たとえば:

– 冷凍弁当:惣菜製造業+冷凍冷蔵業
– 冷凍ケーキ:菓子製造業+冷凍冷蔵業
– 魚介類加工食品:魚介類販売業+冷凍冷蔵業

・「冷凍冷蔵業」「魚介加工」「惣菜製造業」など多業種連携も

たとえば「冷凍サバ味噌煮弁当」を販売するには、**魚介類を扱う施設基準+惣菜製造基準+冷凍保存の設備**すべてを備えなければなりません。
一つの許可だけで足りると思っていると、想定以上に大掛かりになることがあります。

3. 惣菜、スイーツ、魚介…商品ジャンルで難易度が変わる

・焼き菓子系は比較的ゆるい、魚系はめちゃくちゃ厳しい

たとえば冷凍クッキーや冷凍ケーキは、比較的基準が緩やかですが、魚介類や肉を含む商品は、腐敗や食中毒リスクが高いため、保健所の審査基準も非常に厳しくなります。

・冷凍弁当・餃子・冷凍刺身…ジャンル別に見る許可のハードル

例:
– 冷凍弁当 → 惣菜製造業+冷凍冷蔵業(設備多め)
– 冷凍餃子 → 食肉・野菜・調味の総合管理、金属探知機なども必要
– 冷凍刺身 → 生食用の衛生基準+瞬間冷凍技術と鮮度管理

このように、扱う商品によっては**個人で対応するのは現実的ではない**レベルの管理が求められます。

4. 保健所がチェックする「設備要件」とは?

・家庭用キッチンはNG!営業専用設備の必須条件

営業許可を得るには、調理場が専用であることが前提。
家庭と共用のキッチンでは許可が下りません。さらに以下のような条件が求められます:

– ステンレス製シンク(2槽以上)
– 換気扇や防虫ネットの設置
– 害虫・動物侵入防止の扉構造
– 食品別の冷凍庫・冷蔵庫
– 手洗い専用の設備と消毒液

・急速冷凍機、金属探知機、防虫・動線・床壁材質…細かすぎる条件

特に魚や肉を扱う場合、**急速冷凍機**の導入や**金属探知機の設置**が求められることもあります。
保健所の審査では、「動線に無駄がないか」「交差汚染のリスクはないか」といった観点でかなり細かく確認されます。

5. 施設が用意できないとどうなる?委託とシェアキッチンの現実

・自前で工場持たなきゃできない?という誤解と現実

確かに施設要件のハードルは高いですが、必ずしも自前で工場を持つ必要はありません。
近年は「許可付きシェアキッチン」や「OEM製造(委託生産)」を活用する人も増えています。

・委託製造(OEM)・シェアキッチンの対応可否と限界

ただし、OEMに出す場合も、「自社の表示で販売する=責任は自社にある」ことを忘れてはいけません。
また、シェアキッチンでも冷凍設備がない、配送不可などの制限がある場合も多く、必ず事前に設備や許可内容を確認する必要があります。

6. 表示義務は超重要!冷凍ならではの表示とは

・食品表示法に基づく「名称」「保存温度」「加熱要否」など

冷凍食品には以下のような表示が義務付けられています:

– 名称(例:冷凍ピラフ)
– 原材料名(添加物含む)
– アレルゲン(義務7品目+推奨21品目)
– 内容量
– 賞味期限
– 保存方法(-18℃以下で保存)
– 製造者情報
– 加熱の有無と調理方法

・冷凍食品特有の落とし穴:賞味期限と解凍後の表示

冷凍状態での賞味期限だけでなく、「解凍後は●時間以内にお召し上がりください」といった注意喚起も重要です。
誤解を招く表示は**食品表示法違反**に問われるリスクもあるため、慎重な設計が必要です。

7. 保存と配送のハードルも意外と高い

・「冷凍-18℃以下」は温度記録の義務あり

冷凍庫はただ冷えていればいいわけではありません。-18℃以下を常時維持できることが求められ、**温度管理の記録(ログ)**も保管義務があります。

・クール便でもアウトになるケースとは?

「ヤマトのクール便を使えば大丈夫」――これは半分正解で半分誤解です。
クール便でも、梱包が不十分だったり、発送直前に冷凍が甘かったりすると、輸送中に温度逸脱が起きるケースがあります。
また、**常温で一時保管された瞬間に賞味期限は保証できなくなる**という点にも注意が必要です。

8. 衛生管理・HACCP対応の現実

・中小でも義務化された「衛生管理計画」

2021年から、HACCPに基づいた衛生管理が原則義務化され、小規模事業者でも「簡易HACCP」の導入が必要です。
手書きの記録帳でも構いませんが、製造日・原材料ロット・温度記録などを継続して残す体制が求められます。

・温度記録・製造日管理・異物混入対策…冷凍ならではの記録が必要

「冷凍だから大丈夫」という考えは危険です。
凍結不足や解凍状態での雑菌繁殖、誤って加熱用を未加熱で食べてしまう事故など、冷凍食品特有の事故も想定し、明確な記録と管理が必要になります。

9. 通販・イベント販売のときの追加ルール

・「特定商取引法」や「臨時営業届出」なども確認

ネット販売をする場合、「特定商取引法」に基づいて、販売者の氏名・住所・返品ポリシーなどを明記する必要があります。
また、マルシェやイベントで販売する際には、自治体に「臨時営業届出」が必要になるケースもあります。

・返品不可表示、アレルゲン表示の落とし穴

冷凍食品は一度配送すると返品不可が原則ですが、「返品不可」と記載していないとトラブルになることも。
またアレルゲン表示のミスは命に関わる事故につながるため、非常に慎重に扱うべきポイントです。

10. 売る前に知っておきたい“やる・やらない”の判断材料

・製造許可・設備・配送の3つの壁を越えられるか

冷凍食品の販売には、以下の3つの壁があります:

1. 保健所の製造許可
2. 設備と衛生管理体制
3. 適切な配送インフラと表示管理

このすべてを自力で対応するには、相当な知識と資金、継続力が必要です。

・自分でやる/委託する/諦める、それぞれの選択肢

すべて自前でやるのが難しければ、OEM委託やキッチンレンタルなどの選択肢を検討してみましょう。
最初から“事業化”を目指すのではなく、**「本当にやるべきか?」を冷静に判断する視点**も大切です。
制度と現実を知ってこそ、リスクを回避し、正しく販売できる一歩が始まります。