冷凍食品の販売には何が必要?—保健所・表示・保存の基本知識
1. 冷凍食品の“販売”は簡単じゃない
・自宅冷凍と「食品事業者」の冷凍は全く別物
家庭用冷凍庫で余った料理を保存する――それと“商品としての冷凍食品を販売する”ことは、全くの別物です。
個人の食事と違い、冷凍食品の販売には厳格な基準と法律が適用されます。
例えば「自宅で作ったカレーを冷凍して販売したい」と考えた場合、製造許可、表示義務、保存温度、配送インフラ、すべてにおいてクリアしなければならない条件があります。
・販売には法的許可・設備・記録管理が必要
冷凍食品の販売には「食品衛生法に基づく営業許可(製造業や冷蔵業など)」が必要です。
また、販売用施設は家庭用キッチンでは通用せず、保健所が定めた設備基準を満たした施設であることが前提です。
さらにHACCP対応の衛生管理や、記録の保存と提出も求められます。
2. 冷凍食品を作るために必要な許可とは?
・食品衛生法上の「食品製造業許可」とは
冷凍食品を製造・販売するには、まず「食品製造業」の営業許可が必要です。
この中でも、作る商品の種類によって取得する許可が変わります。たとえば:
– 冷凍弁当:惣菜製造業+冷凍冷蔵業
– 冷凍ケーキ:菓子製造業+冷凍冷蔵業
– 魚介類加工食品:魚介類販売業+冷凍冷蔵業
・「冷凍冷蔵業」「魚介加工」「惣菜製造業」など多業種連携も
たとえば「冷凍サバ味噌煮弁当」を販売するには、**魚介類を扱う施設基準+惣菜製造基準+冷凍保存の設備**すべてを備えなければなりません。
一つの許可だけで足りると思っていると、想定以上に大掛かりになることがあります。
3. 惣菜、スイーツ、魚介…商品ジャンルで難易度が変わる
・焼き菓子系は比較的ゆるい、魚系はめちゃくちゃ厳しい
たとえば冷凍クッキーや冷凍ケーキは、比較的基準が緩やかですが、魚介類や肉を含む商品は、腐敗や食中毒リスクが高いため、保健所の審査基準も非常に厳しくなります。
・冷凍弁当・餃子・冷凍刺身…ジャンル別に見る許可のハードル
例:
– 冷凍弁当 → 惣菜製造業+冷凍冷蔵業(設備多め)
– 冷凍餃子 → 食肉・野菜・調味の総合管理、金属探知機なども必要
– 冷凍刺身 → 生食用の衛生基準+瞬間冷凍技術と鮮度管理
このように、扱う商品によっては**個人で対応するのは現実的ではない**レベルの管理が求められます。
4. 保健所がチェックする「設備要件」とは?
・家庭用キッチンはNG!営業専用設備の必須条件
営業許可を得るには、調理場が専用であることが前提。
家庭と共用のキッチンでは許可が下りません。さらに以下のような条件が求められます:
– ステンレス製シンク(2槽以上)
– 換気扇や防虫ネットの設置
– 害虫・動物侵入防止の扉構造
– 食品別の冷凍庫・冷蔵庫
– 手洗い専用の設備と消毒液
・急速冷凍機、金属探知機、防虫・動線・床壁材質…細かすぎる条件
特に魚や肉を扱う場合、**急速冷凍機**の導入や**金属探知機の設置**が求められることもあります。
保健所の審査では、「動線に無駄がないか」「交差汚染のリスクはないか」といった観点でかなり細かく確認されます。
5. 施設が用意できないとどうなる?委託とシェアキッチンの現実
・自前で工場持たなきゃできない?という誤解と現実
確かに施設要件のハードルは高いですが、必ずしも自前で工場を持つ必要はありません。
近年は「許可付きシェアキッチン」や「OEM製造(委託生産)」を活用する人も増えています。
・委託製造(OEM)・シェアキッチンの対応可否と限界
ただし、OEMに出す場合も、「自社の表示で販売する=責任は自社にある」ことを忘れてはいけません。
また、シェアキッチンでも冷凍設備がない、配送不可などの制限がある場合も多く、必ず事前に設備や許可内容を確認する必要があります。
6. 表示義務は超重要!冷凍ならではの表示とは
・食品表示法に基づく「名称」「保存温度」「加熱要否」など
冷凍食品には以下のような表示が義務付けられています:
– 名称(例:冷凍ピラフ)
– 原材料名(添加物含む)
– アレルゲン(義務7品目+推奨21品目)
– 内容量
– 賞味期限
– 保存方法(-18℃以下で保存)
– 製造者情報
– 加熱の有無と調理方法
・冷凍食品特有の落とし穴:賞味期限と解凍後の表示
冷凍状態での賞味期限だけでなく、「解凍後は●時間以内にお召し上がりください」といった注意喚起も重要です。
誤解を招く表示は**食品表示法違反**に問われるリスクもあるため、慎重な設計が必要です。
7. 保存と配送のハードルも意外と高い
・「冷凍-18℃以下」は温度記録の義務あり
冷凍庫はただ冷えていればいいわけではありません。-18℃以下を常時維持できることが求められ、**温度管理の記録(ログ)**も保管義務があります。
・クール便でもアウトになるケースとは?
「ヤマトのクール便を使えば大丈夫」――これは半分正解で半分誤解です。
クール便でも、梱包が不十分だったり、発送直前に冷凍が甘かったりすると、輸送中に温度逸脱が起きるケースがあります。
また、**常温で一時保管された瞬間に賞味期限は保証できなくなる**という点にも注意が必要です。
8. 衛生管理・HACCP対応の現実
・中小でも義務化された「衛生管理計画」
2021年から、HACCPに基づいた衛生管理が原則義務化され、小規模事業者でも「簡易HACCP」の導入が必要です。
手書きの記録帳でも構いませんが、製造日・原材料ロット・温度記録などを継続して残す体制が求められます。
・温度記録・製造日管理・異物混入対策…冷凍ならではの記録が必要
「冷凍だから大丈夫」という考えは危険です。
凍結不足や解凍状態での雑菌繁殖、誤って加熱用を未加熱で食べてしまう事故など、冷凍食品特有の事故も想定し、明確な記録と管理が必要になります。
9. 通販・イベント販売のときの追加ルール
・「特定商取引法」や「臨時営業届出」なども確認
ネット販売をする場合、「特定商取引法」に基づいて、販売者の氏名・住所・返品ポリシーなどを明記する必要があります。
また、マルシェやイベントで販売する際には、自治体に「臨時営業届出」が必要になるケースもあります。
・返品不可表示、アレルゲン表示の落とし穴
冷凍食品は一度配送すると返品不可が原則ですが、「返品不可」と記載していないとトラブルになることも。
またアレルゲン表示のミスは命に関わる事故につながるため、非常に慎重に扱うべきポイントです。
10. 売る前に知っておきたい“やる・やらない”の判断材料
・製造許可・設備・配送の3つの壁を越えられるか
冷凍食品の販売には、以下の3つの壁があります:
1. 保健所の製造許可
2. 設備と衛生管理体制
3. 適切な配送インフラと表示管理
このすべてを自力で対応するには、相当な知識と資金、継続力が必要です。
・自分でやる/委託する/諦める、それぞれの選択肢
すべて自前でやるのが難しければ、OEM委託やキッチンレンタルなどの選択肢を検討してみましょう。
最初から“事業化”を目指すのではなく、**「本当にやるべきか?」を冷静に判断する視点**も大切です。
制度と現実を知ってこそ、リスクを回避し、正しく販売できる一歩が始まります。