「食品の通販」をするなら届出が必要?—ネット販売と保健所の関係
1. 「ネットで売るだけ」にも責任がある
・SNSやBASEで食品を売る時代に増える勘違い
InstagramやBASE、メルカリなどで「手作りのお菓子」「自家製ジャム」などを販売する個人が増えています。
しかし、たとえ小規模でも、**人に食品を販売する行為=食品営業**に該当します。
つまり、「ネットだけだから」「少量だから」「趣味の範囲だから」といった理由で、無届で販売することは法律上NGです。
・「店舗がない=自由に売れる」ではない理由
実店舗がなくても、製造・保管・発送のいずれかを行う場所があれば、それが「営業施設」とみなされます。
その施設が保健所の基準を満たしているか、届け出が出されているかが大きなポイントになります。
2. 食品を販売するには「営業届出」が必要
・2021年以降、許可制から“届出制”に変わった背景
食品衛生法の改正により、2021年6月から全国的に**「営業届出制度」**が導入されました。
それまで営業許可が必要だったものの一部は届出制に移行し、**届け出なしの販売=違法営業**という枠組みがより明確になりました。
・飲食店と違って“製造業・販売業”が対象になる
たとえば飲食店は「飲食店営業許可」が必要ですが、
通販を中心とする食品販売では「食品製造業」や「食品販売業」といった区分で**営業届出が必要**になります。
3. どんな商品でも届出が必要?不要なケースもある?
・届出が必要な食品(具体例)
以下のような商品は「食品の製造・加工・販売」とみなされ、保健所への**営業届出が必要**です:
– 手作りの焼き菓子(クッキー、パウンドケーキなど)
– ジャム、ピクルス、シロップなどの瓶詰め加工品
– 冷凍弁当、冷凍惣菜(宅配形式でも)
– おにぎり、パン、サンドイッチなどの軽食類
– 自家焙煎したコーヒー豆
– 出汁パック、乾物、米などの小分けパッケージ
– オリジナル調味料やスパイスミックス
– 常温保存の焼き菓子セット(ギフト用含む)
– イベント等で調理・製造した食品を後日通販する場合
また、以下のように「加工はしないが再包装して販売」する行為も対象になります:
– 袋詰めや瓶詰めなどを自分で行う商品
– 複数の食品を詰め合わせて販売するギフトボックス
・届出が不要なケース(例外や委託含む)
一方で、以下のような販売形態は届出不要または別の扱いになるケースがあります:
– すでに届出済の製造業者が作った商品を、そのまま転売するだけ(例:仕入れたお菓子の再販売)
– アフィリエイトやリンク形式で自分が販売に直接関与しない場合
– 製造・包装・発送すべてを外部業者(OEM等)に委託し、自分はネットショップ運営のみを行う場合(※条件付き)
– 単なる「レシピ紹介」や調理動画配信などで、食品の物販を伴わない場合
ただし、届出不要なパターンであっても、**食品表示法・景品表示法などの別ルールに従う必要がある**点には注意が必要です。
4. ネット販売ならではの注意点とは
・発送=食品の輸送管理も責任の一部
通販で販売するということは、食品の品質が輸送中にも保たれているかという点も責任の範囲に含まれます。
「冷蔵保存が必要なのに常温で発送された」「梱包が不十分で破損・漏れが発生した」などのトラブルは、販売者の責任となります。
・【例】「クール便を使わなかった」ことで返品が殺到した例
冷凍ケーキを販売したある事業者が、「送料を安くしたい」という理由で常温便を選択。
到着した商品はすでに解凍されており、SNSで拡散されたことで**信頼失墜と大量返金に発展した**事例があります。
5. 表示義務を怠るとどうなる?
・名称・原材料・賞味期限・保存方法の表示ルール
販売する商品には、パッケージや商品ページ上で以下の情報を**正確に表示**する必要があります:
– 商品名(例:はちみつレモンジャム)
– 原材料名(多い順に記載)
– アレルゲン表示(7品目+21品目推奨)
– 内容量
– 賞味期限または消費期限
– 保存方法(常温/冷蔵/冷凍など)
– 製造者の氏名または名称と所在地
・アレルゲンや加熱表示はネット上でも必要
商品に小麦・卵・乳成分などが含まれている場合、**購入ページにもわかりやすく表示**しておくことが推奨されます。
また「加熱が必要」な食品はその旨を記載しないと、**誤食や事故につながるリスクがあります**。
6. 自宅での製造販売はどこまで可能か
・家庭用キッチンで製造したらダメ?
基本的に、自宅キッチンは「営業施設」としては認められません。
家庭用キッチンで作ったものを販売するのは原則NGであり、許可や届出の対象になりません。
・「許可施設を借りる」か「製造委託」が現実的
自宅営業を目指すなら、以下のような選択肢が現実的です:
– シェアキッチンやレンタル施設で製造し、そこを施設として届出する
– 保健所の基準を満たす営業専用キッチンを自宅に増設する
– OEM(委託製造業者)を利用して商品を作ってもらう
7. 通販開始までのステップを整理しよう
・営業届出 → 設備確認 → 表示設計 → 販売開始
1. 販売する食品の種類を決定
2. 保健所に相談し、届出の要否を確認
3. 届出可能な施設(シェアキッチン等)を確保
4. 必要な営業届出を提出
5. パッケージと商品情報に表示内容を明記
6. 通販サイトで公開・販売開始
・保健所相談は“申請前”がカギ
「販売ページを作ってから相談したら、施設がNGでやり直し」
というトラブルは多いため、**必ず販売前に保健所へ相談しましょう。**
8. メルカリやBASE、STORESで売るときの注意点
・プラットフォーム側の規約も要確認
主要なECプラットフォームでは、食品販売を行う場合に**営業許可証や届出番号の記載を求めることがあります**。
– BASE:食品販売は許可証提出と商品登録制限あり
– STORES:冷蔵/冷凍品には条件付き許可が必要
– メルカリ:手作り食品は原則禁止(市販品・未開封のみOK)
・【例】STORESで許可証を求められたケース
瓶詰めジャムをSTORESで販売しようとした人が、「施設名と届出番号の記載がないため審査通過せず」→**出品停止になった**という例があります。
9. 食品通販で起きたトラブル事例
・ラベルなしの弁当を販売→保健所から指導
SNS経由で弁当を受注・宅配していた個人が、「商品に名称・期限が記載されていなかった」ことから**保健所の立入調査と指導**を受けた事例があります。
・冷蔵発送ミス→体調不良で返金騒動に発展
冷蔵保存が必要な総菜を常温発送し、**食中毒のような症状を訴える人が続出**。ネットで拡散され、返品・返金対応に追われたケースも。
10. 「個人でもできる」が「何を守るか」で差が出る
・届出があることで信頼につながる
個人で食品を販売すること自体は可能です。
しかし「届出がある」「表示が正しい」「梱包が適切」な人の商品は、**消費者の信頼を得やすく、継続して売れます。**
・制度を知れば、継続的に売れる通販になる
せっかくの商品を「無知」で台無しにしないために、**制度を先に理解してスタートを切る**ことが成功への近道です。
ネットでもリアルでも、食品を売る責任は同じなのです。