「カフェを開く夢」には何が必要?—保健所と消防と税務のリアル
1. カフェ開業は「物件契約」より先にやることがある
・いきなり契約すると“通らない物件”を掴むリスク
「空き店舗を見つけたから、すぐ契約して工事しよう」と思った人が、後から保健所や消防署に「この物件では営業許可が出せません」と言われるケースは少なくありません。
カフェはれっきとした「飲食店営業」に該当し、構造設備が法律で定められているため、**物件選びの前に制度を調べることが重要**です。
・保健所・消防・用途地域の確認をまず行う
営業を行うには、以下の3点を最低限チェックしておく必要があります:
– 保健所の営業許可が取れるか(設備構造)
– 消防法上の条件を満たすか(火気・通路)
– 用途地域として「飲食店可」か(都市計画上の制限)
2. 飲食店営業許可を取るにはどうすればいい?
・2槽シンク/手洗い場/冷蔵設備などの基本設備
飲食店営業許可を取るには、以下の設備が整っている必要があります:
– 2槽シンク(洗浄とすすぎ用)
– 手洗い専用シンク
– 冷蔵庫/冷凍庫(温度計付き)
– 防虫・防鼠対策済の窓や出入口
– 床や壁は水洗い可能な素材であること
・平面図・給排水・衛生動線など審査の視点を知る
「調理場とトイレが同じ動線になっていないか」「床材が吸水性でないか」など、保健所の視点は“衛生”がすべて。
店舗レイアウトを考える際には、**事前に保健所に図面を持ち込み、相談するのがベストです**。
3. 消防署への確認:火器使用・内装工事は要注意
・ガス台・コンロを使うなら“防火管理”の対象に
ガスコンロや電気調理器を使う場合、消防署への届け出が必要になります。
面積や席数によっては「防火管理者の選任」「火災報知器や誘導灯の設置」が求められるケースもあります。
・避難経路・消火器の設置・天井素材の制限など
– 消火器の設置(原則1台以上)
– 誘導灯の設置(10人以上の客席がある場合)
– 不燃材の内装材(天井・壁など)
とくに改装時に木材などを使っておしゃれに仕上げたい場合は、「不燃材でない」と指導が入る可能性があります。
4. 税務署への開業届出も忘れずに
・開業届と青色申告承認申請のタイミング
カフェを開業する場合は、開業日から1か月以内に税務署へ「個人事業の開業届出書」を提出します。
同時に「青色申告承認申請書」も出しておくと、後の税務処理で特典が受けられます。
・屋号をつける場合の注意点と帳簿管理の基本
開業届には「屋号」も記載可能です。これがそのまま領収書や契約書に使われることになるため、慎重に決めておきましょう。
また、開業後は**帳簿の保存義務が発生する**ため、収支の記録はきちんと管理する必要があります。
5. 工事・内装の前に「保健所へ図面を持ち込む」
・完成後にダメと言われる前に「事前相談」を
「工事がすべて終わってから保健所に見せたら、シンクの数が足りず再工事になった」…これは実際によくある話です。
図面や設計段階で一度保健所へ相談し、問題がないかチェックしてもらうことを強くおすすめします。
・【例】手洗いシンクの数が足りず再工事になったケース
客席側の手洗いをスタッフも使う設計にしていたところ、**「調理用と共用は不可」**とされ、シンクを1つ追加工事する羽目に。
小さなスペースでも、独立した手洗い設備が求められるのです。
6. 食品衛生責任者の講習を受ける
・資格がないと営業許可は出ない
カフェの開業には、店舗に最低1人「食品衛生責任者」が必要です。
資格がない場合は、1日講習(約6時間)を受けて修了証を取得します。
・調理師・栄養士などがあれば講習は不要
すでに調理師や管理栄養士の資格を持っている場合は、講習を受けなくても代替可能です。
証明書を提出すれば、そのまま「責任者」として登録できます。
7. 現地検査でよくあるチェックポイント
・排水の処理/衛生的な壁材/トイレの配置
保健所による立入検査では以下の点がチェックされます:
– シンクの数や位置
– 冷蔵庫の温度管理ができるか
– ゴミ置場が衛生的に管理されているか
– 調理場とトイレが明確に区分されているか
・【例】ゴミ置場の場所で指摘を受けた事例
調理場のすぐ外に設置したゴミ箱が「不衛生でニオイが流入する」と指摘され、**ゴミ収集エリアを再設計する必要に迫られた**例もあります。
8. 看板・外装・近隣トラブルの意外な盲点
・屋外広告物条例に違反すると撤去命令も
東京都では「屋外広告物条例」に基づき、**看板のサイズ・設置場所・デザイン**にも規制があります。
申請なしに大型看板や電飾を出すと、後に撤去命令が出ることも。
・住居密集地での営業時間・騒音対策の配慮
夜間営業や屋外BGMを流す場合は、近隣住民とのトラブルに配慮する必要があります。
「カフェだから静か」とは限らないため、**開業前に地域との調和も考えておくと安心です。**
9. カフェ開業にかかる費用の目安(東京都の場合)
・内装費/設備/申請費用/運転資金の基本ライン
東京都で10〜15坪ほどのカフェを開業する場合、おおまかな費用は以下のとおりです:
– 物件取得費(敷金・礼金・仲介料):80〜150万円
– 内装工事(厨房設備込み):150〜300万円
– 備品購入(家具・冷蔵庫・食器など):50〜100万円
– 申請費用(営業許可・講習費・消防申請など):2〜5万円
– 開業準備費(広告・試作・印刷物など):10〜30万円
– 運転資金(3か月分の家賃・仕入れなど):50〜100万円
💡**合計目安:350万〜600万円程度**
・【試算】400円のコーヒーで元を取るには?
仮に1杯400円のコーヒーで利益200円だとすると、
初期費用500万円を回収するには **25,000杯以上の販売が必要**。
開業は「勢い」だけでなく「継続できる収支計画」が鍵になります。
10. 好きな空間を実現するには「制度の理解」が近道
・法律を守ることは“自由に続ける”ための準備
制度に沿って開業することは、「面倒な手続き」ではなく、「安心して自由な店を続けるための準備」です。
好きなメニューや空間を安心して提供するためには、**最初に制度を味方につけることが不可欠**です。
・準備ができた人だけが「好きな店」を続けられる
カフェは「好き」を形にできる魅力的な仕事ですが、現実的な壁もたくさんあります。
でも、制度を理解していればそれらの壁は**越えられる準備になる**。
開業を考えているなら、まず一歩、調べることから始めてみてください。