キッチンカーで販売するには何がいる?—移動販売と保健所許可の話
1. キッチンカーって、思ったより簡単じゃない?
・「自由に移動して売れる」は誤解です
「キッチンカーなら初期費用が安いし、自由に場所を変えられて、気軽に始められそう」
そう思って、キッチンカーに興味を持つ人は少なくありません。
でも実は、キッチンカーは**移動できる飲食店そのもの**。
飲食物を提供する以上、保健所の営業許可が必要ですし、自治体ごとに異なるルールも多く、「気軽に始めたら営業できなかった」という例も。
・飲食を扱う=法律と衛生の責任がある
たとえば、自分で作ったおにぎりや焼きそばをキッチンカーで売ろうとする場合、**調理場の衛生基準、表示義務、保管温度、アレルゲン表示など**、飲食店と同じレベルの義務が課されます。
2. 昔の焼き鳥屋・焼き芋屋と、今のキッチンカーの違い
・【例】スーパー前の焼き芋屋はどうやって営業していた?
昔ながらの焼き芋屋や、スーパーの前で営業している焼き鳥屋などは、自治体の“慣習的な認可”で営業していたケースもあります。
当時は明確な設備基準が緩かったため、「屋台として見逃されていた」ような立ち位置のものも存在します。
・「慣習」でやってきた屋台と「制度」に則る現代キッチンカー
現在のキッチンカーは、明確に**保健所の営業許可対象**とされており、施設(=車両)自体が“店舗”として扱われます。
そのため、「水が使えない」「手を洗えない」「換気ができない」などの設備不足は、営業停止の対象になるのです。
3. キッチンカーには保健所の「営業許可」が必須です
・2槽シンク・給排水タンク・換気扇がなぜ必要?
保健所が定める車両基準には、たとえば次のような設備要件があります:
– 2槽シンク(洗浄・すすぎ用)
– 給水タンク(40L以上が目安)
– 排水タンク(給水より容量が大きいこと)
– 換気扇または通気口
– 床・壁が水洗い可能な素材であること
・【例】保健所に断られた“自作改造車”の落とし穴
ある人が軽バンをDIYで改造し、キッチンカーに仕上げて保健所に持ち込んだところ、「手洗い用のシンクが1槽だけ」「排水タンクがバケツ代用」でNGに。
見た目がどれだけ整っていても、**営業許可は設備基準が最優先**なのです。
4. しかも都道府県ごとにルールが違うって知ってた?
・【例】東京では通ったのに、千葉では営業できない現象
例えば東京都で営業許可を取った車両が、千葉県では**再度の確認申請が必要**というケースもあります。
基準が全国で統一されていると思いきや、自治体ごとの判断に委ねられている部分も多く、**“都道府県をまたいだ営業”は手続きに要注意**です。
・「営業ナンバー」だけでは不十分。営業区域の確認を
車両に営業用のナンバーが付いていても、それは運輸上の扱い。
実際に食べ物を販売するには、**保健所の管轄区域ごとに営業可能かを確認**する必要があります。
5. 何を売るかで求められる設備も変わります
・【比較】コーヒー販売車と揚げ物カーでこんなに違う!
たとえば「ドリップコーヒーを淹れて売るだけ」という営業と、「油を使ってその場で唐揚げを揚げる」営業では、設備基準がまったく異なります。
– ドリンクのみ → 比較的簡単な給排水と手洗い設備で許可が出やすい
– 揚げ物・焼き物 → 換気・火気対策・調理スペース・油処理まで審査される
・「火気使用・調理あり」は設備審査が一気に厳しくなる
特にガスボンベ使用や火を使う調理は、保健所だけでなく消防法の対象にもなり、**ガス遮断装置や火災報知器の搭載が必要**になることもあります。
6. 表示義務・衛生管理も避けて通れない
・アレルゲン・加熱表示・賞味期限など書くべき情報は?
提供するメニューには、以下の表示が必要です:
– 名称(たとえば「チキンカレー」)
– 原材料(一部省略可、義務表示項目あり)
– アレルゲン表示(卵・乳・小麦など)
– 保存方法(冷蔵か常温か)
– 調理の要不要(加熱済/要加熱 など)
・HACCP記録って何?温度記録と洗浄履歴の重要性
2021年以降、全事業者に**HACCP(衛生管理計画)への対応**が義務化されました。
簡略化された様式でOKですが、次のような記録は必要です:
– 食材の保管温度
– 冷蔵庫・保温機器の温度確認
– 洗浄・消毒の実施状況
– 食材の仕入れロット記録
7. 【昔はOKでも今はNG】になった具体例
・【事例】昭和からの焼き鳥屋が突然営業停止になった話
ある地域で20年以上営業していた焼き鳥屋台が、設備確認の強化によって**「手洗い設備なし」「排水が直排出」**と指摘され、営業停止になったケースがありました。
過去に黙認されていた形態が、制度整備とともに見直される流れが全国で加速しています。
・「昔は見逃されてた」営業が、なぜ今は許されないのか
背景には、**食中毒のリスクとSNS時代の影響**があります。
1件のトラブルが拡散され、保健所や自治体の責任が問われることもあるため、許可制度の運用が厳格化されているのです。
8. 開業に必要な資格・書類・初期対応まとめ
・食品衛生責任者ってどう取る?何日かかる?
キッチンカーで食品を扱う場合、最低でも1人が「食品衛生責任者」である必要があります。
これは1日(6~7時間)の講習で取得でき、費用は1万円前後。都道府県ごとに開催日が決まっています。
・【例】営業届・車両確認・消防届け出…やることリスト
ざっくり言えば、以下のステップが必要です:
1. 営業用の車両を基準に合わせて準備
2. 保健所に事前相談+図面提出+車両確認
3. 食品衛生責任者の取得
4. 営業許可申請+検査
5. 消防署や警察への届け出(火気・道路使用)
6. 営業許可証の発行後に実際の営業開始
9. フェス・イベント出店の裏側ルール
・臨時営業届は出した?提供エリアと搬入方法も確認
マルシェや音楽フェスなどのイベントに出店する場合、主催者が**「臨時営業」の枠で保健所に届出をしているか**が重要です。
これがないと、イベント当日に営業停止になる例も。
・【例】マルシェで出店トラブルになった失敗事例
「主催者が何も届け出しておらず、営業許可証の提示を求められて即退去になった」「電源がなく保温が保てず、商品をすべて廃棄する羽目に」など、**イベント出店では現場環境も重要**です。
10. キッチンカーを始めるなら「制度と準備」が最大の武器
・自由そうに見えるけど、実は“走る飲食店”なんです
見た目はおしゃれで、自由に場所を変えて営業できるキッチンカー。
でも中身は、衛生と法制度の上に成り立つ“移動型店舗”です。飲食店よりも手間が多い部分もあるのです。
・制度を理解すれば、営業も継続もずっとラクになる
必要な準備と制度を正しく理解していれば、キッチンカー営業は大きなチャンスにもなります。
最初にしっかり知識を入れておくことで、「出店できない」「営業できない」といった無駄なトラブルを防げるのです。