電車の「優先席」はいつからある?制度の始まりと考え方

雑学・教養

電車の「優先席」はいつからある?制度の始まりと考え方

優先席っていつからあるの?名称の変遷と歴史

最初は「シルバーシート」だった?誕生は1973年

「優先席」という言葉は今やおなじみですが、この制度が始まったのは意外と最近です。初めて導入されたのは1973年(昭和48年)、国鉄(現在のJR)が東京や大阪などの都市圏で「シルバーシート」という名前で設定したのが始まりでした。

当時の日本では高齢化社会が本格的に始まる直前で、「高齢者に席を譲る文化」を形にする試みとしてスタートしたのです。「シルバー」は高齢者を意味する表現として用いられました。

なぜ「優先席」と呼ぶようになったのか

「シルバーシート」という名称は当初一定の普及を見せたものの、対象が高齢者だけに限定されていたため、時代の変化とともに違和感を抱かれるようになりました。

1990年代になると、妊婦や障害者、けが人など、「援助が必要なすべての人」に配慮するという考え方が広がり、より包括的な意味合いを持つ「優先席」という表現へと変化していきました。鉄道会社によっては、このタイミングで呼称の切り替えを行っています。

導入の背景にあった“社会事情”とは

高齢化・バリアフリーの概念とともに広がった

1970年代から80年代にかけて、日本では高齢化が社会問題として注目され始め、都市の公共交通機関にもバリアフリーの概念が導入され始めました。駅のエレベーター設置、ホームの段差解消などと並行して、「座席のバリアフリー」として優先席の考え方が浸透していったのです。

この動きは鉄道だけでなく、バスや空港など他の公共交通機関にも波及し、座席の配慮が「サービスの質」として評価されるようになっていきました。

障害者・妊婦・けが人などの「対象」が拡張された理由

当初は「高齢者のみ」を想定していた優先席ですが、1990年代以降、障害者や妊婦、体調不良者、けが人などへの配慮が求められるようになりました。

背景には、障害者基本法(1993年)や交通バリアフリー法(2000年)といった法整備の影響もあり、「援助を必要とする人」という定義がより広く、柔軟にとらえられるようになったことが挙げられます。

鉄道会社によって違う?優先席の呼び方とデザイン

「ゆずりあいシート」「思いやりゾーン」などのバリエーション

「優先席」という言葉は標準的ですが、鉄道会社によってはユニークな呼び方をしているところもあります。

たとえば、京王電鉄では「思いやりゾーン」、大阪メトロでは「ゆずりあいシート」、西鉄では「やさしさシート」といった名称が使われています。どれも、「譲ることの大切さ」よりも、「その意識を共有すること」に重点が置かれている点が特徴です。

関東・関西・地方での表示や案内の違い

関東では比較的「優先席」という表記が一般的で、案内放送やステッカーも統一感があります。一方、関西では駅構内や車両によって表示が異なることもあり、ユーモラスなデザインやイラストを用いたものも目立ちます。

また、地方のローカル線では「優先席」が明確に分けられていない車両もあり、乗客の数や地域の慣習に応じた運用がされている点も興味深いポイントです。

意外と知られていない?優先席に関する豆知識

法律では定められていない?「制度」ではなく「慣習」

実は、優先席に関する法律は日本には存在しません。つまり、座ってはいけないという法的根拠はなく、あくまで鉄道会社や利用者の「マナー」や「自主的な判断」に委ねられているのです。

そのため、優先席に座っていても法的に罰せられることはなく、声をかけて譲る・譲られるという行動もあくまで任意となっています。

優先席の位置はどう決まっている?車両構造との関係

優先席は、原則として出入り口付近、または車いすスペースに近い場所に設けられることが多いです。これは、援助が必要な人がスムーズに移動できるよう、車両構造上の配慮が反映されているためです。

また、ドアのそばに設置されることで、視覚的にも目に入りやすく、「ここが優先席ですよ」というサインとしての役割も果たしています。

世界の「優先席」事情を比べてみよう

英語では“Priority Seat”が定番表記

日本では「優先席」と訳されていますが、英語圏では“Priority Seat”や“Reserved Seating for the Elderly and Disabled”などの表記が一般的です。シンガポールや香港などアジアの国々でもこの表現が浸透しています。

また、イラストやピクトグラムによって、言葉が分からない旅行者にも意味が伝わるように設計されています。

譲らないと罰金の国も?海外の取り締まりスタイル

国によっては、優先席に座って譲らないことが罰則の対象になるケースもあります。たとえば韓国では、専用席を妊婦や高齢者に譲らなかった場合に罰金が科される場合があります。

また、ロンドン地下鉄などでは、譲らなかった場合に係員が声をかける運用があるなど、「マナー」ではなく「ルール」として扱われることも。日本との違いが表れていて興味深い点です。

まとめ:優先席の歴史から見える社会の変化

呼び方も変わる、価値観も変わる

「シルバーシート」から「優先席」へ──名称の変化は、社会の価値観の変化と連動しています。かつては高齢者だけに向けられていた配慮が、今では多様な人々を対象にした“共感の場”として再定義されつつあります。

制度ではなく文化としての優先席

優先席は法律で義務づけられている制度ではなく、互いの気配りによって成り立っている「文化」だと言えるでしょう。交通インフラに組み込まれたこの小さなゾーンから、社会全体の「やさしさのカタチ」が見えてくるのかもしれません。