「アクティブラーニング」とは?能動的学習の実践方法
アクティブラーニングとはどういう学びか
受け身ではなく「学習に関わる」学び方
アクティブラーニングとは、学習者が自ら考え、話し合い、表現しながら学びを進める能動的な学習法のことです。従来の講義型授業のように教師の話を聞くだけではなく、生徒や学生が課題の解決に向けて参加・行動することが重視されます。
たとえば、グループディスカッション、ディベート、グループワーク、問題解決型学習(PBL)、ピアレビュー(互いの評価)などが代表的な手法に含まれます。
文部科学省が定義する3つの類型
文部科学省では、アクティブラーニングを次の3つの視点から整理しています:
- ① 主体的な学び(自分で考え、問いを立て、判断する)
- ② 対話的な学び(他者との協働・議論・説明など)
- ③ 深い学び(知識の応用・関連づけ・構造理解)
これらの要素を組み込んだ授業設計が、アクティブラーニングの実践とみなされます。
なぜアクティブラーニングが求められているのか
知識偏重から「思考力・判断力・表現力」重視へ
社会の変化により、単に知識を記憶するだけではなく、それを活用して問題を解決したり、新しい価値を生み出す力が求められるようになっています。アクティブラーニングは、そうした「思考力・判断力・表現力」の育成に適した方法として注目されてきました。
また、学習者自身が主体的に関わることで、学びが「自分ごと」として定着しやすくなることも背景にあります。
社会や入試の変化との連動
大学入試改革では、「知識・技能」に加え、「思考力・判断力・表現力」や「主体性・多様性・協働性」といった要素の評価が強調されています。高校や中学校では、こうした能力を育てるための手段として、アクティブラーニングが導入されるようになりました。
探究学習やプロジェクト型学習との違い
アクティブラーニングは「方法論」の一種
探究学習やプロジェクト型学習(PBL)は、いずれもアクティブラーニングの手法を取り入れて実施されることが多いですが、厳密には異なる概念です。アクティブラーニングは「授業のやり方」を指すのに対し、探究学習やPBLは「学習の構造や枠組み」を指します。
つまり、アクティブラーニングはそれ自体が目的ではなく、「どうやって学ぶか」に関する実践的なアプローチです。
構造的な違いを整理する
たとえば、「歴史の授業で討論を取り入れる」のはアクティブラーニング的手法ですが、「地域の歴史を調査して発表するプロジェクト」を企画するのは探究学習です。両者は相補的に活用されることが多く、線引きは流動的です。
教育現場での導入状況
高校・中学・大学での取り組み例
高校では「主体的・対話的で深い学び」というキーワードのもと、授業の中でアクティブラーニング型の活動を取り入れる指導が求められています。例えば、英語でのロールプレイや社会科での模擬選挙、数学でのプレゼン発表などが挙げられます。
大学では以前からゼミ形式やグループディスカッションが広く行われており、アクティブラーニングは比較的根付いています。一方で中学校では、教科や教員のスタイルにより導入の度合いが大きく異なっているのが現状です。
一部にとどまる導入と課題意識
アクティブラーニングはその理念の広がりに比べ、実践は限定的なケースも多く見られます。「話し合いをさせれば良い」「グループで作業させれば良い」といった形だけの導入もあり、学習効果とのズレが課題とされています。
具体的な実践方法にはどんなものがあるか
ディスカッション・グループワーク・ピアレビュー
代表的な手法には以下のようなものがあります:
- グループディスカッション:あるテーマに関して話し合い、意見をまとめる
- ピアレビュー:他者の発表やレポートに対して評価やフィードバックを行う
- ジグソー法:グループ内でそれぞれ異なる内容を調べ、持ち寄って全体を完成させる
これらは単に話し合いをするのではなく、「目的」「役割」「振り返り」などを明確にすることで効果が高まります。
ICTを活用したアクティブラーニング例
デジタルツールもアクティブラーニングに活用されています。Googleフォームによるアンケート、JamboardやPadletでの意見交換、動画教材の視聴後にグループで議論するなど、ICTは学習の可視化と共有に役立っています。
アクティブラーニングのメリット
理解の深化・コミュニケーション能力の育成
学習者が自分の言葉で説明したり、他者と意見を交わすことで、理解が深まるとされています。また、発表や話し合いを通じて、表現力やコミュニケーション能力が養われることもメリットの一つです。
知識を受け取るだけでなく、自ら使って「考える」ことが学びの中心になるため、記憶の定着率も高まるという研究もあります。
「主体的に学ぶ姿勢」が自然に育つ可能性
授業に対する参加意識が高まることで、「学びに関わる意識」が育まれやすくなります。単に答えを求めるのではなく、自分の立場を考え、他者と調整しながら学習する姿勢が育つという点でも注目されています。
アクティブラーニングのデメリット・課題
学力格差の拡大リスクと活動の“形骸化”
アクティブラーニングは学習者の積極性に依存する側面があるため、自信のある生徒ばかりが発言し、消極的な生徒が取り残されるケースもあります。また、活動の目的が曖昧なまま手法だけ導入されると、形だけの話し合いで終わってしまうこともあります。
教員の負担・評価困難・時間不足
準備・設計・評価に手間がかかることも大きな課題です。グループ活動の成果をどう評価するか、個々の思考の深さをどう把握するかといった点で、従来の一斉指導よりも難易度が上がります。また、時間配分の工夫も必要です。
今後の展望と改善に向けた動き
大学入試改革との接続と制度的支援
大学入試改革では、プレゼンテーションや記述式問題の導入、ポートフォリオ評価などが検討されており、アクティブラーニングと関連する能力が評価対象になりつつあります。これに合わせて、高校での指導内容や評価体制も整備が進められています。
「やってみる」だけに終わらない設計の必要性
アクティブラーニングの有効性を高めるには、「なぜその活動を行うのか」「学習のどの部分につながるのか」という設計意図が重要です。ツールや活動の導入が目的化しないよう、学びの本質との接続を意識した運用が求められています。
まとめ:アクティブラーニングは“形式”より“意図”が問われる
手法の導入ではなく「学びの本質」への接続
アクティブラーニングは単なる“新しいやり方”ではなく、「学ぶとは何か」という問いへの再定義を迫る教育手法です。授業に参加する、意見を持つ、他者と協働する——それらの行動を通じて、生徒は自らの学びを主体的に形づくっていきます。
変化する教育の中で活用される柔軟な方法論
理想と現実のギャップはあるものの、アクティブラーニングは柔軟に形を変えながら、これからの教育の中で生かされていく方法論のひとつといえるでしょう。大切なのは、手法そのものよりも、それを通じてどんな力を育てたいのかという「教育の意図」です。