「楽して稼げる」はほんと?—投げ銭と申告と法律の落とし穴
1. 「楽して稼げる」の幻想から始まる
・スマホ1台でお金がもらえる時代?
「配信で稼げる」「投げ銭で生活できる」――そんな夢のような話、SNSで一度は見かけたことがあるかもしれません。
スマホ1台で部屋にいながら人と話し、応援の“投げ銭”でお金が入る。まるでゲーム感覚。でもそれ、実際はどれくらい現実的なんでしょうか?
・“見えてる世界”はほんの一部
フォロワー数万、収益月100万円。そうした「成功者の投稿」は確かに存在しますが、それが平均ではありません。むしろ、収益ゼロ・数百円という人が大半です。
見えているのは“稼げている人”の一部だけ。そこに自分もすぐ行けると思ったら、ちょっと注意が必要です。
2. 投げ銭アプリの仕組み、実はけっこう複雑
・コイン→アイテム→収益化…三転方式って何?
多くの配信アプリでは、視聴者は「コイン」や「ポイント」を購入し、それを「アイテム」という形で配信者に送ります。
配信者はそのアイテムを、さらに「換金可能な報酬」として受け取る…という構造になっており、直接の送金ではなく“ワンクッション”“ツークッション”が挟まれています。
・「もらったお金」はどこから来てるのか
この構造によって、法律上は「プレゼントを受け取った」のではなく、「アプリ経由で収益を得た」ことになります。つまり、金銭のやり取りに見えないようにした仕組み――これが「三転方式」と呼ばれるスタイルです。
3. 「楽に稼ぎたい」人が知らずに踏む地雷
・実はほとんどの人は“ほぼ無収益”
実際、配信を始めたばかりの人がいきなり投げ銭で収益を得られることは稀です。配信アプリの上位ランカーたちは、毎日何時間も配信し、ファンとの関係性を築きながら運営しています。
・継続・戦略・トーク力…必要なのは意外と多い
「しゃべるだけ」ではありません。コメント対応、話題の準備、視聴者分析、配信時間の工夫…。
むしろ普通の副業より手間も時間もかかる場合すらあります。つまり、思っていたより「楽じゃない」。
4. 稼げたら稼げたで、税金の壁が立ちはだかる
・「雑所得」になるってどういうこと?
実は、配信で得た収益(投げ銭など)は、基本的に**雑所得**として申告が必要です。
給与でも事業でもない“その他の収入”として扱われ、年間20万円を超えると確定申告の義務が発生します(副業の場合)。
・確定申告しないと、あとから痛い目に
「たいした額じゃないからバレないだろう」と思って申告しないままでいると、数年後に税務署から通知が届く…なんてことも。
延滞金や無申告加算税など、追加で支払う金額に驚く人も少なくありません。
5. 知識がなければ“無意識の脱税”まっしぐら
・よくある「知らなかったから」は通用しない
残念ながら、税金の世界では「知らなかった」は免罪符になりません。
むしろ「稼いでいたのに申告していない」という事実だけで、脱税とみなされる可能性があります。
・副業でも5万10万超えたら注意ライン?
副業感覚でも、収入が月5万、10万と増えていくと、気づけば年間20万円は超えます。
雑所得には経費も差し引けますが、それを計算するにも領収書や帳簿が必要。「ノリでやってたら義務が増えてた」ということも起きがちです。
6. アプリ側は守ってくれない—責任はあなたに
・利用規約に小さく書かれた「自己責任」
配信アプリの利用規約には「税務申告などの義務はユーザー自身が負う」と明記されています。
つまり「このアプリで稼げる!」という顔をしていても、裏側では「税金のことは知りませんよ」となっているのです。
・トラブルが起きても基本的に“運営ノータッチ”
仮にファンとの間でお金を巡る問題が起きたり、報酬の支払いで不明点があったとしても、アプリ運営が親身に対応してくれるとは限りません。
個人間のやり取りは“自己責任”で片付けられるのが基本です。
7. 三転方式のスキマと、その“悪用例”
・なぜ「アイテム式」が主流なのか
直接お金のやりとりをさせないのは、金融関連の法律やサービス提供者責任の回避といった背景があります。
ただし、「直接送金ではないからセーフ」といった安心感を持ちすぎるのも危険です。
・マネーロンダリングに使われる可能性も?
実際、一部では「複数アカウントを使って高額アイテムを投げ合う」ことで、資金の出所を曖昧にするマネーロンダリング的な使われ方も懸念されています。
この点は各国の金融当局も注視しており、今後規制が厳しくなる可能性もあります。
8. 税務署は見ている?摘発された実例
・“無申告”配信者に届いたお知らせ
実際に、配信アプリでの収益を申告していなかったことで、数年後に税務署から「お尋ね文書」が届いた例もあります。
マイナンバー制度や銀行口座との連携が進む中、収入の“見えない化”は通用しにくくなっています。
・数年後に追徴課税+延滞金のコンボ
申告漏れが発覚した場合、数年分の税金を一括で請求されるだけでなく、最大20%以上の加算税や延滞金が上乗せされることも。
「あの時ちゃんとやっていれば…」と後悔しても、時間は戻りません。
9. 海外ではどう管理されているのか
・Twitch、TikTok、YouTube…国による違い
アメリカでは収益化を行う際に「税務書類(W-9等)」の提出が求められ、収益データも国税庁と共有される仕組みがあります。
一方、日本ではそこまでの連携は進んでおらず、“自己申告制”が中心です。
・日本はまだ「ルーズ」と言われる理由
この緩さが「自己責任=自由」の感覚を生んでいますが、裏を返せば「制度が追いついていないだけ」。
将来的には日本でも、自動的に課税対象になるような制度が導入される可能性があります。
10. 「ラクに稼げる」の裏には、責任とリスクがある
・本当に稼ぎたいなら、“学び”と“備え”は必要
「誰でも稼げる」「楽にお金がもらえる」という話ほど、落とし穴も深くなります。
それでも本気で稼ぎたいなら、税金や契約、仕組みの勉強も避けて通れません。
・知らずに始めて、知らずに損する人を減らすために
配信や投げ銭は、うまく使えば魅力的な表現と収益の場になります。
でも“稼げる未来”を目指すなら、目をそらさずリスクと義務に向き合うことからスタートです。