「分散学習」と「集中学習」、どちらが効率的?—記憶の保持と忘却のメカニズム
「分散学習」と「集中学習」って何が違う?
短時間×複数回の分散学習
分散学習とは、学習時間を1回にまとめず、短いセッションに分けて何日かにわたって繰り返す学習法です。たとえば1日30分の学習を5日間行うといった形式です。時間を空けて学ぶことで、記憶を何度も引き出し、徐々に定着させていく効果が期待されます。
長時間×一気集中の集中学習
一方、集中学習は、短期間にまとまった時間を使って一気に学ぶ方法です。テスト前日に何時間もぶっ通しで勉強したり、1日で参考書1冊を詰め込むといったやり方がこれにあたります。即効性はある一方で、記憶が長く残らないことも指摘されています。
脳が情報を記憶するしくみ
記憶の種類(短期・長期)と脳内処理
記憶には大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」があります。短期記憶は数秒から数分しか保たれない一時的なもの。学習内容を長く保持するには、情報を脳内で再構成し、「長期記憶」として保存する必要があります。
記憶の固定化に必要な「繰り返しと休息」
脳は、繰り返し同じ情報に触れることで、その情報を「重要なもの」と認識し、長期記憶に移行させやすくなります。また、学習後の休息や睡眠も、記憶を定着させるうえで重要な役割を果たしています。
なぜ分散学習は記憶に残りやすいのか
時間を空けることで復習効果が高まる
分散学習の最大の強みは、時間を空けることで復習の効果が高まることです。記憶が薄れかけたタイミングで再び学ぶことで、「思い出す」行為が強化され、記憶がより定着しやすくなります。
忘れかけた頃に学び直すと記憶が強化される
記憶が完全に消える前にもう一度触れることで、脳は「これは重要な情報だ」と判断し、保持しようとします。この「適度に忘れかけたタイミング」での学習が、記憶の強化には最も効果的だとされています。
集中学習が“効果的な場面”もある
直前対策や短期集中に向くケース
集中学習は、短期的な目標や試験直前の対策には効果的です。たとえば、語句の暗記や重要ポイントの確認など、短時間で成果を求められる場合には有効です。
集中力が高いときのブースト効果
また、集中して学習できる環境が整っている場合や、モチベーションが高いときには、集中学習の効率が高まることもあります。すべてを否定するわけではなく、目的に応じた使い分けが重要です。
「エビングハウスの忘却曲線」から見る学習効率

エビングハウスの忘却曲線
時間経過によって記憶がどう減るか
エビングハウスの忘却曲線によると、人は学習した直後から急速に内容を忘れはじめ、1日後には約70%を忘れてしまうと言われています。つまり、学習した内容を放置すると、すぐに記憶が薄れていくのです。
復習のタイミングがもたらす記憶の強化
この「忘れの進行」を前提にすると、1日後・数日後といったタイミングでの復習が効果的であることがわかります。分散学習は、この忘却カーブに合わせて学習機会を配置するため、効率よく記憶を補強できるのです。
「間隔効果」とは何か
間隔をあけるほど記憶が定着する現象
「間隔効果」とは、学習の間に時間的な間隔をあけることで、記憶の保持率が高まる現象のことです。これは心理学の実験でも繰り返し確認されており、あえて“間をあけること”が記憶にとって有利であることを示しています。
認知心理学での研究と応用例
間隔効果は、語学学習や楽器の練習など、さまざまな分野で応用されています。連続で学ぶよりも、一晩おいて翌日に学ぶほうが記憶に残るという結果も数多く報告されています。
学習における“再生練習”の重要性
読むだけでなく思い出す行為が鍵
分散学習と相性が良いのが「再生練習」です。これは単に読み返すだけでなく、自分で思い出そうとする行為のこと。思い出すたびに、記憶の回路が強化されるため、より長く記憶にとどまります。
分散+再生練習の組み合わせが最強?
短時間の分散学習の中で、思い出す練習(小テストや自問自答など)を取り入れることで、記憶の保持率はさらに向上します。復習の際には、ただ読むのではなく、できるだけ「引き出す」ことを意識するのが効果的です。
集中学習の「落とし穴」とは
長時間学習による疲労と効率低下
集中学習では、長時間机に向かい続けることが多いため、疲労が蓄積し、集中力や理解力が低下してしまうことがあります。最初の1時間は理解できていても、後半には頭に入らない…という経験をした人も多いはずです。
詰め込み学習が記憶に残らない理由
詰め込み型の学習では、情報は一時的に頭に入っても、復習がなければ数日で消えてしまいます。記憶が短期記憶にとどまり、長期記憶に移行しないことが主な原因です。
学習スタイルに合った戦略を立てよう
目的や期間によって使い分ける
分散学習と集中学習は、どちらかが絶対に優れているというものではありません。短期決戦であれば集中学習が向いていますし、長期的に知識を維持する必要があるなら分散学習が効果的です。目的に応じて使い分けることがポイントです。
集中と分散を“組み合わせる”発想
集中して学習した内容を、後日分散学習で復習するというように、両者を組み合わせる方法も有効です。たとえば、授業直後に集中して復習し、数日後に再確認することで、記憶の定着がさらに促されます。
効果的な分散学習の設計例
1日10分×5日と1日50分×1日の比較
同じ50分の学習でも、1日10分ずつ5日間に分ける方が、記憶への定着率は高いことが多いです。理由は繰り返しと間隔の効果が働くため。学習が「一度きり」にならないことが重要なのです。
“忘れる前に復習”を仕組みにするコツ
スケジュール帳や学習アプリを使って、学んだ内容を数日後に自動で復習できるように設定するなど、仕組み化することで分散学習は継続しやすくなります。習慣にしてしまえば、自然と記憶の効率も高まります。
日常生活や学校教育での応用
学校の宿題や試験対策の設計
たとえば、1週間分の宿題を1日でやるのではなく、毎日少しずつ取り組むことで、記憶の保持と理解が深まります。学校教育でも、分散的な復習の時間を意識的に取り入れることで、効果的な学習環境をつくることができます。
語学学習・技能練習への応用も
英単語、漢字、楽器の演奏、スポーツのフォーム…。反復が必要な学習分野では、分散学習が特に効果を発揮します。短時間でも継続的に練習することで、身体や脳にその動きがしみ込んでいくのです。
まとめ:効率のカギは“時間”ではなく“間隔”
記憶は「やり方次第」で伸びる
記憶の定着において、ただ長く学べばよいわけではありません。どれだけ適切な間隔で繰り返せるか、どれだけ「思い出す」機会を持てるかが、効率を大きく左右します。
学びを長く活かす工夫を考える
集中学習も分散学習も、適材適所で使い分けることが鍵です。忘却のメカニズムを理解し、それに合わせた学習スタイルを設計することで、知識はより確かに、そして長く自分のものになるでしょう。