「結婚届」はいつから提出するようになった?制度と慣習の歴史

雑学・教養

「結婚届」はいつから提出するようになった?制度と慣習の歴史

1. 結婚届ってそもそも何?

婚姻を国に届け出るという制度

結婚届とは、法律上の婚姻関係を成立させるために役所に提出する届け出のことです。現代日本では、婚姻届を出して受理されることで、法的に夫婦と認められます。これは単なる書類手続きではなく、戸籍や相続、税金などにも大きく影響する制度的な区切りでもあります。

法律婚・事実婚との違い

婚姻届を提出している夫婦は「法律婚」、提出していないが夫婦としての実態がある関係は「事実婚」と呼ばれます。法律婚では戸籍の変更や法的保護が得られる一方で、事実婚は柔軟性がある反面、法的な保障が限定的になる場合があります。

2. 昔の結婚は「届出」なしで成立していた

江戸時代以前の「結婚」は家と家の契約

江戸時代以前の日本では、「結婚=家と家との契約」という側面が強く、男女の合意よりも親同士の取り決めが重視されていました。結婚は儀式や婚礼の実施によって社会的に承認されるもので、役所に届け出るような制度は存在していませんでした。

夫婦の成立に必要だったのは「合意と生活」

この時代の婚姻成立に必要なのは、「一緒に暮らし始めること」と「周囲から夫婦として認識されること」でした。つまり、実態が先で制度は後。結婚は社会慣習の中で自然に成立するもので、国の管理の対象ではなかったのです。

3. 明治民法と戸籍制度の誕生

1898年の民法施行がもたらした転換

大きな転機となったのが、1898年(明治31年)の民法施行と戸籍制度の本格化です。このとき、結婚を公的に記録する仕組みとして「婚姻届」が導入されました。これにより、結婚は家族関係の一部として国家に記録されるものとなりました。

婚姻届け出が“公的記録”になる

婚姻届の導入により、夫婦関係は個人の合意だけでなく、国の制度の中で初めて「法律上の効力」を持つようになります。戸籍に記載されることで、相続や親権、扶養などの法律関係が明確にされるようになりました。

4. 初期の結婚届制度はどんなものだった?

結婚に「家長の許可」が必要だった時代

明治民法の下では、「戸主」(=家長)の権限が非常に強く、婚姻には戸主の同意が必要とされていました。本人たちの意思よりも、家の意向が優先される制度設計であり、「個人の結婚」ではなく「家の結婚」が重視されていました。

女性の意思が軽視されていた制度設計

特に女性は、父親や兄などの家族の許可がなければ結婚ができないとされており、実質的な意思決定権が大きく制限されていました。このような状況は、戦後の民法改正によって大きく変わることになります。

5. 戦後民法改正と個人の尊重

1947年、家制度の解体と平等な婚姻へ

日本国憲法の制定に伴い、1947年に民法が大幅に改正されました。これにより家制度は廃止され、婚姻は「両性の合意のみに基づく」と明記されるようになります。これが現在の婚姻制度のベースとなっています。

夫婦同姓の規定とその後の議論

改正民法では、夫婦は「同じ姓」を名乗ることが義務付けられました。これは現在も議論の対象であり、選択的夫婦別姓の導入をめぐっては賛否両論があります。結婚届制度のあり方そのものが、家族観の変化とともに問われているのです。

6. 婚姻届の提出手続きとその変化

役所に届ける形式と必要書類

現代の婚姻届は、夫婦となる2人が署名・捺印し、証人2名の記名を得て役所に提出します。特に決まった様式はなく、全国どの市区町村にも提出が可能です。受理されれば即日で法律婚が成立します。

オンライン提出やデザイン婚姻届の登場

最近では自治体によってはオンラインで提出予約ができるようになり、デザイン婚姻届(記念用の装飾された届書)も登場しました。婚姻届は法的な手続きであると同時に、人生の節目としての儀式的な意味も持つようになっています。

7. 事実婚や同性パートナーとの対比

届け出ない結婚の社会的位置づけ

婚姻届を出さずに共同生活を営む「事実婚」も広く認知されるようになりました。これは法的保護が限定されるものの、生活実態に基づく柔軟な関係として評価されています。姓の変更を避けたい場合などに選ばれることもあります。

自治体によるパートナーシップ制度とは

同性カップルなど、法的に婚姻が認められていない関係に対しては、一部自治体で「パートナーシップ制度」が導入されています。これは法律上の婚姻ではないものの、関係の公的な証明として使われるケースが増えています。

8. 海外の婚姻制度と届出のあり方

フランスのPACSや北欧のパートナー制度

フランスでは「PACS(市民連帯協約)」という婚姻に近い制度があり、法的保護を得ながらも婚姻とは異なる関係を築くことができます。北欧諸国でも同様のパートナー制度が広く整備され、多様な家族形態が尊重されています。

宗教婚・法律婚が分かれる国のケース

一部の国では、宗教上の婚姻と法律上の婚姻が別個に存在しており、どちらか一方の手続きのみで生活が成り立つ場合もあります。婚姻届が「制度上の起点」とされるのは、日本を含む限られた国のスタイルとも言えます。

9. 婚姻届が「文化」として根づいた背景

メディアと儀式化:提出日・記念日としての意味

近年では「いい夫婦の日(11月22日)」など、語呂合わせや記念日に合わせて婚姻届を提出するカップルも増えています。SNSやメディアが後押しし、「提出する日=特別な日」としての文化が根づきつつあります。

婚姻届を“デコレーション”する文化の登場

記念として保存できるデザイン婚姻届や、フォトスポット付きの提出所を設ける自治体も登場しています。婚姻届は今や「提出するだけの紙」ではなく、ふたりの門出を彩るセレモニー的な意味も持ち始めています。

10. これからの「結婚」のかたちと制度

多様化する家族観と法制度の今後

少子化・非婚化・同性婚などをめぐる議論が活発化する中、「結婚」の定義や制度そのものが見直されつつあります。婚姻届もまた、社会の価値観に合わせて変わっていく可能性を秘めています。

結婚届は未来も「必要」なのか?

将来的には、生体認証やデジタル登録による婚姻手続きが主流になるかもしれません。また、婚姻届という“紙の文化”そのものが過渡的な存在として位置づけられる可能性もあります。結婚届は制度であると同時に、時代の価値観を映す鏡なのです。