郵便ポストはなぜ「赤」になった?—はじまりから現代までの色と役割の変遷
1. 街角で目を引く「赤いポスト」
日常に溶け込んだ存在
日本全国どこに行っても見かける赤い郵便ポスト。特別なものではないけれど、視界に入ると「ここにある」と意識させられる存在です。街中の景色に溶け込んでいながら、はっきりと目立つ色と形は、公共インフラとしてのデザインが長年にわたり工夫されてきた結果です。
色が記憶に残る理由
「赤いポスト」と言えば、誰もが共通のイメージを持てるほどに定着しているのは、色が持つ記憶への強さによるものです。とくに子どもでも認識しやすく、信号や消火栓などとも共通する「赤=目立つ・重要」の感覚が影響しています。
2. 日本で最初の郵便ポストは「黒」だった
明治初期のポスト事情
1871年(明治4年)、日本で郵便制度が本格的にスタートした際に設置されたポストの色は「黒」でした。当時はガス灯などの街灯も限られており、目立つ色よりも「目立たなくても整っている」ことが重視されていた背景があります。
黒から赤への転換が始まった背景
徐々に都市の人口が増え、ポストの位置がわかりづらいという声が寄せられるようになり、明治20年代以降、視認性を高めるための色変更が検討されはじめました。そこで浮上したのが「赤」という色でした。
3. なぜ赤が採用されたのか?
視認性と防火意識の観点
赤は遠くからでも認識しやすく、黒や茶色に比べて街中で埋もれにくいという視覚的メリットがあります。また、当時の日本では「火の用心」や「緊急対応」といった文脈で赤がよく使われており、注意喚起や公共サインとしても自然な選択でした。
明治政府が採用した「赤系統の官庁色」
明治期の日本では、警察や郵便、鉄道といった近代的制度において、赤系統のマークや装飾が採用される例が増えていました。ポストもその延長線上で、公共性を感じさせる色として「赤」が選ばれたと考えられています。
イギリスの赤ポストを参考にしたという説
イギリスでは1850年代から「pillar box」と呼ばれる赤いポストが全国に広がっており、日本の近代郵便制度も英国の制度を参考に整備されていたことから、「赤いポスト」もその影響を受けたとする説があります。ただし、日本では日本独自の色文化や防災意識と組み合わさって採用された可能性が高いとされています。
導入当初に起きた混乱と地域差
赤いポストが初めて導入された明治後期、地域によっては「目立ちすぎる」「落ち着きがない」などの否定的な意見もありました。地方によって導入のタイミングが異なり、しばらくは黒や茶色のポストが混在していた時期も存在します。
4. 赤ポストは全国にどう広がった?
地方導入の時期と変遷
全国への統一的な導入は、大正期から昭和初期にかけて段階的に進められました。郵便制度の普及とともに、視認性と統一感を重視した赤いポストが全国標準となっていきます。
規格化されたデザインと材質
赤いポストのデザインは、初期には丸型が主流でしたが、戦後の物資不足や製造効率を受けて角型が採用されるようになりました。材質も鋳鉄から軽量のスチールへと移行し、維持管理の観点からも工夫が重ねられています。
5. 昭和〜平成期に見られた変化
丸型から角型へ:形の進化
丸型ポストは現在でも観光地などに残っていますが、一般的には角型ポストが主流となりました。郵便物のサイズや量の変化に対応し、構造的にも実用性が高まった結果です。
ポストの数と役割の広がり
高度経済成長期には住宅地やオフィス街に多数設置され、手紙・はがきに加えて小包や書留など複数の機能を担うようになりました。設置場所や回収時間も標準化され、インフラとしての信頼性が強化されていきます。
6. 特別な色のポストもある?
観光地や記念ポストの多様性
最近では、赤以外の色をしたポストも各地で見られるようになりました。観光地ではその地域の特色を活かしたカラーポストが登場し、地域活性や観光資源として活用されています。
ピンク・金色・青いポストの例
宮崎県都城市の「ピンクポスト」、山形県米沢市の「金色ポスト」、東京都墨田区の「青いポスト」などが代表的です。これらは郵便局本体と連携して設置され、通常のポストとしても機能します。
7. 現代のポストの役割とは
デジタル時代とポストの存在意義
SNSやメールが主流となった現代においても、ポストは完全に役割を終えたわけではありません。特に高齢者層や公的機関とのやりとりでは、紙媒体の郵便が今も使われています。
防災・地域のシンボルとしての活用
一部地域では、ポストに災害時の案内表示や簡易通信機能を備える試みもなされています。また、赤ポストは視覚的にも象徴性が高く、地域のランドマークや集合目印としても使われています。
8. 色の歴史から見る公共物のデザイン思想
公共設備と「赤」の関係性
赤は注意・警告・緊急といったサインとして公共物に使われやすい色です。消防車や消火栓と同様、郵便ポストも「人の目に入る必要がある存在」として、赤が採用されてきた経緯があります。
なぜ色が重要視されるのか
形や場所だけではなく、色は即座に認識される情報です。とくに情報量の多い都市空間では、色によって機能を直感的に理解させる役割が求められます。赤ポストはその代表的な例です。
9. 海外のポストは何色?
イギリス・アメリカ・フランスなどとの比較
イギリスのポストは赤、アメリカでは青、フランスは黄色など、国によってポストの色はさまざまです。それぞれの国のデザイン哲学や色彩文化、郵便制度の歴史に基づいて決められています。
色と文化の関係
「赤=郵便」というイメージは日本やイギリスでは強いものの、他国では別の色が主流であり、公共物の色には文化的背景が反映されることが多いです。こうした違いは、その国の「公共性に対する視覚的な考え方」を垣間見せてくれます。
10. 郵便ポストのこれから
郵便制度の変化と共に
メール便や電子的な連絡手段の台頭により、郵便ポストの利用頻度は減少しています。一方で、行政手続きや公文書送付などの分野では依然として重要な役割を担っており、完全になくなる兆しはありません。
色と形が問い直される時代へ
今後、郵便ポストがどのような形で残るのかは不透明ですが、公共物としての象徴性や視認性は引き続き重視されると考えられます。赤いポストが私たちの記憶に残る限り、それは単なる設備以上の意味を持ち続けるのかもしれません。