なぜ「薬局」には必ず登録販売者がいるのか?—制度と安全の裏側

雑学・教養

なぜ「薬局」には必ず登録販売者がいるのか?—制度と安全の裏側

「登録販売者」とは何者か

薬剤師との違いと担う領域

「登録販売者」とは、薬剤師ではないものの、一定範囲の医薬品(主にOTC医薬品:一般用医薬品)の販売が許可された国家資格保有者のことです。薬剤師はすべての医薬品を扱えるのに対し、登録販売者が販売できるのは第2類・第3類医薬品に限定され、第1類医薬品や処方薬は取り扱えません。
ただし、日常的によく使われる風邪薬、鎮痛剤、胃薬などの多くは第2・第3類に分類されており、登録販売者がいれば大半の市販薬は購入できます。

OTC医薬品(一般用医薬品)の販売資格

OTC医薬品は、医師の処方箋なしで購入できる薬です。消費者が自ら判断して購入することができる一方で、副作用リスクや飲み合わせなどに関する知識も求められます。そのため、対面販売には最低1名の登録販売者または薬剤師の常駐が義務づけられています。

薬局における「有資格者配置」の法的根拠

医薬品医療機器等法に基づく配置義務

登録販売者の配置は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」によって定められています。医薬品を扱う店舗は、一定の資格者が営業時間中に常駐している必要があります。
この制度によって、購入時に副作用の説明や使用上の注意点を尋ねられるようになっています。

第1類〜第3類のリスク区分と対応責任

一般用医薬品は、リスクの高さに応じて第1類・第2類・第3類に分類されており、それぞれに販売できる資格者が異なります。

  • 第1類:薬剤師のみ
  • 第2類・第3類:登録販売者または薬剤師

この分類により、症状の重さや副作用リスクに応じて対応できる体制が求められています。

制度が生まれた背景と目的

2009年導入:薬剤師依存からの脱却

登録販売者制度は2009年に新設されました。それまで、医薬品販売は基本的に薬剤師のみが行える業務でしたが、ドラッグストアの拡大や人手不足により、薬剤師だけでは対応しきれなくなっていました。この制度は、薬剤師の代替ではなく、限定的な業務範囲で補完するために設けられたものです。

セルフメディケーションと人員確保の事情

また、政府はセルフメディケーション(自分で自分の健康管理を行う)を推進しており、その一環として市販薬の利便性向上が課題となっていました。登録販売者制度の導入は、こうした医療費抑制や地域医療の補完という政策的背景ともリンクしています。

「2分の1ルール」とその廃止

研修中販売員の扱いと現場での混乱

制度初期には「2分の1ルール」と呼ばれる制限が存在しました。これは、登録販売者の資格を取得しても、実務経験が2年未満の者は1人では販売に従事できず、必ず経験者との「2名体制」で勤務しなければならないというものでした。
このルールは理想的には指導目的でしたが、現場では人手不足との板挟みとなり、配置が困難になるケースが相次ぎました。

2021年改正で何が変わったのか?

2021年の制度改正により、2分の1ルールは廃止され、一定の条件下であれば実務経験の浅い登録販売者1名でも店舗対応が可能となりました。これにより、事実上「1人体制」での営業が認められ、特に夜間や郊外店舗での運用が現実的になった一方、経験値の浅い販売員だけの対応に不安を抱く声も残っています。

登録販売者になるには

受験資格・試験内容と合格率

登録販売者試験は、年に一度都道府県ごとに実施されています。受験資格に学歴や実務経験の制限はなく、誰でも受けることが可能です。
試験は6科目(医薬品に共通する特性・人体の仕組み/薬の分類/法律など)で構成され、合格率は平均40〜50%程度。決して簡単ではありませんが、独学でも挑戦可能な国家資格といえます。

実務経験と「管理者要件」の壁

資格取得後すぐに「管理者」にはなれません。2年以上の実務経験が必要であり、これは制度上、勤務記録や雇用形態なども含めて細かく審査されます。副業的な勤務やスポット雇用では、この要件を満たせないケースもあります。

資格者がいないと販売できない薬

夜間営業や無人販売機の制約

深夜営業や早朝開店の店舗では、「登録販売者がその時間帯にいない」ことが問題になります。実際には資格者が常駐していないのに営業を続けるケースもあり、形式上の違反状態が見逃されていることもあります。また、自動販売機や無人店舗では、そもそも医薬品の販売は原則として認められていません。

薬剤師不在時間帯の運営と限界

一部の店舗では、薬剤師が常駐していない時間帯には第1類医薬品を販売できません。店頭に掲示されている「この時間は第1類医薬品の販売を行いません」という案内は、そのことを意味しています。こうした制限のために、薬を買いに来たのに「販売できません」と言われるケースもあり、利用者の混乱につながっています。

薬局以外の売り場にも広がる登録販売者

コンビニ・スーパーでの配置義務

登録販売者が活躍するのは薬局だけではありません。近年では、コンビニやスーパーでも医薬品売り場が設けられるようになり、それに伴い登録販売者の需要が高まっています。
ただし、これらの業態でも「営業時間中は常に1名以上配置」が条件であり、日中だけ登録販売者が勤務しているという状態では違反になります。

形式的な常駐と実態のズレ

一部では、名義上だけ登録販売者が勤務しているように見せかける「名義貸し」や、「配置時間にだけ出勤し、すぐ退勤する」といった実質的に無意味な勤務形態も問題視されています。現場と制度のズレが浮き彫りになっている領域です。

店舗側の実情と制度的ひずみ

人手不足と「名義貸し」問題

地方や深夜営業のドラッグストアでは、有資格者の確保が難しくなっており、資格者の名義だけを借りて営業する違法事例が後を絶ちません。これは「薬機法違反」にあたり、登録販売者側にも罰則が科される可能性があります。

常勤配置の負担とフランチャイズ事情

チェーン店のフランチャイズ経営では、「登録販売者がいないと店が開けられない」という事態も発生しています。これにより、資格保有者が過重労働を強いられるケースや、採用単価が極端に高騰している現場もあります。

医薬品販売の制度が抱える課題

安全性と利便性のトレードオフ

医薬品販売における制度は、安全を重視する一方で、利便性とのバランスが常に求められます。登録販売者がいなければ販売できないというルールは、「誰でも買えてしまうリスク」を減らす反面、「必要なときに手に入らない不便さ」も生み出しています。

登録販売者制度の「穴」をどう見るか

本来、医薬品の販売には十分な知識と責任が必要ですが、制度の枠組みだけで完璧な管理は難しいのが現実です。資格の有無だけで販売の質が保証されるわけではなく、現場での実務経験や運営方針の差が大きく影響します。

まとめ:制度の形と運用のリアル

ルールはあるが、それで十分とは限らない

薬局や医薬品売り場には法律によって資格者の配置が義務づけられていますが、その運用は一律ではなく、現場ごとにばらつきがあるのが実情です。制度が整っていても、実際の販売現場にどれだけ反映されているかはまた別の問題です。

利用者として知っておける最低限の視点

私たちが医薬品を購入するとき、相手が薬剤師か登録販売者かを意識する機会は少ないかもしれません。ですが、その制度的な違いや制約を知っておくことで、不意のトラブルや誤解を防ぐことにもつながります。制度の存在は、知ることで意味を持ち始めるものです。