ういろうの起源と歴史 — 誕生の背景と豆知識まとめ
はじめに
もちもち、ぷるん。素朴なのにクセになる「ういろう」
ういろうは、日本を代表する蒸し菓子のひとつです。米粉と砂糖と水というシンプルな材料から作られ、むちっとした食感とほのかな甘さが特徴。名古屋名物として知られる一方で、小田原や山口など各地に根付く地域菓子でもあります。その素朴さゆえに、長年愛されてきました。
実は“薬”から来た名前?知られざる由来に迫る
「ういろう」という名前は聞いたことがあっても、その由来や歴史を知っている人は少ないかもしれません。実は、この名前のルーツには、かつて“万能薬”として知られた「外郎薬(ういろうやく)」が関係しているという説があります。本記事では、ういろうの不思議な名前の由来から始まり、その発祥、地域差、豆知識まで幅広く紹介します。
名前の由来・語源
「外郎(ういろう)」とはもともと何のこと?
「外郎(ういろう)」とは、もともと中国・元の時代にあった役職名や姓で、日本には南宋からの渡来人・陳宗敬(ちんそうけい)を祖とする「外郎家」が伝えたとされます。この外郎家が日本で販売していたのが、「外郎薬」と呼ばれる漢方薬であり、当時非常に有名な薬でした。
お菓子の名前として定着した背景とは
外郎家は薬だけでなく、接待用に供していた蒸し菓子も評判となり、次第に「外郎」といえばそのお菓子を指すようになりました。薬と菓子、両方に共通の名前がついていたというユニークな背景が、現代に残る“ういろう”という名前の源になったと考えられています。
起源と発祥地
中国からの薬とともに伝来?外郎家のルーツ
室町時代、明(みん)から渡来した外郎家は、日本で薬屋を開業しました。彼らが販売していた薬とともに、もてなし用の蒸し菓子(米粉と糖を蒸したもの)も人々の評判を集め、次第に庶民にも広がることになります。このときすでに“外郎=甘い蒸し菓子”というイメージが芽生えていたとされます。
菓子としての発祥は小田原?それとも名古屋?
現在「ういろう発祥の地」としてよく名前が挙がるのが神奈川県小田原市です。ここには今も「ういろう本舗」という老舗があり、薬と菓子の両方を伝統的に扱っています。一方、名古屋では大正から昭和初期にかけて、米菓としてのういろうが独自に発展し、“名古屋名物”として全国的に知られるようになりました。
広まりと変化の歴史
戦国時代〜江戸時代にかけて全国へと広がる
江戸時代には、外郎家の菓子は将軍家や大名への献上品としても知られるようになります。蒸し菓子としての製法が広まり、各地の和菓子店でも似たような製品が作られるようになりました。この時代から、ういろうは“上品なおもてなし菓子”として定着していきます。
明治・昭和に“名古屋名物”として定着した理由
名古屋で現在のような「ういろう」が人気となったのは、明治以降の交通網発展とともに駅売店などで販売されるようになったことが大きいです。さらに昭和期には観光土産として名古屋駅の定番商品となり、「ういろう=名古屋」のイメージが全国に広がっていきました。
地域差・文化的背景
名古屋、小田原、山口…各地に存在する“ういろう文化”
名古屋のういろうは、白・黒糖・抹茶・さくらなど豊富な味があり、棒状で切って食べるスタイルが主流。一方、小田原では薬との関係を意識した「外郎菓子」が伝統的に作られ、上品な小分けスタイルで提供されます。山口県にも外郎文化があり、わらび粉を使った独特のぷるぷる食感が特徴です。
外郎薬と外郎菓子、2つの「ういろう」の交差点
現在でも、小田原の「ういろう本舗」では、外郎薬と外郎菓子の両方を扱っています。これは非常に珍しい例で、ういろうが“医食同源”の考えに基づいた食品であった可能性も示しています。薬から派生した菓子が、地域文化と結びつきながら現代まで残っている点は、日本の食文化の奥深さを物語っています。
製法や材料の変遷
米粉・砂糖・水だけ。シンプルな素材が生む奥深さ
ういろうの基本材料は米粉(上新粉など)・砂糖・水という極めてシンプルな構成です。これを混ぜて型に流し入れ、じっくり蒸すだけという工程ながら、出来上がりには職人の技術が大きく影響します。しっとり、もっちり、ぷるんとした絶妙な食感を出すには、材料の配合と蒸し時間が鍵になります。
蒸し時間や型の違いが食感と見た目を変える
ういろうは型の形状や厚みによっても大きく印象が変わります。薄く作ればぷるぷるとした食感が際立ち、厚めに作ればもっちりとした食べ応えが生まれます。また、近年では電子レンジを使って手軽に作る「レンチンういろう」なども登場し、家庭でのアレンジも楽しまれています。
意外な雑学・豆知識
「ういろう売り」は実在の職業?歌舞伎との関係
「ういろう売り」といえば、歌舞伎の有名な演目を思い浮かべる人もいるでしょう。これは、外郎家の薬売りが全国を行商していた時代の姿をもとにしたものとされ、早口言葉のような台詞で知られています。演劇と商いが結びついたユニークな文化です。
あの有名な早口言葉も“外郎”が元ネタだった
「隣の客はよく柿食う客だ」などと並び、「拙者親方と申すは…」から始まる歌舞伎演目「外郎売り」の台詞は、日本最古級の早口言葉ともいわれています。子どもの発声練習や落語の導入部でも引用されることがあり、外郎の名は菓子以外にも文化的な足跡を残しています。
チョコ・抹茶・コーヒー味…進化系ういろうが続々登場
ういろうは、最近では洋風アレンジも多く登場しています。チョコレート味やコーヒー味、チーズ入りのものまでバリエーション豊か。名古屋では「ういろモナカ」や「ういろうアイス」といったコラボ商品も展開されており、伝統と革新のバランスが楽しめます。
「ういろう=名古屋」じゃない?全国展開されていた時代
かつては東京や大阪でも地元のういろうが販売されていましたが、現在では名古屋ブランドが圧倒的に知られるようになりました。とはいえ、各地で独自の製法や味を守り続けている和菓子店も存在し、「地域のういろう」としてひそかにファンを集めています。
冷やして食べる?常温?意外と知らない食べ方のマナー
ういろうは常温で食べるのが基本ですが、夏場には冷蔵庫で冷やして食べると、よりさっぱりとした味わいになります。ただし、冷やしすぎると固くなってしまうこともあるため、食べる30分ほど前に常温に戻すと食感がベストになります。
現代における位置づけ
“レトロ和菓子”としての再評価と若年層へのアプローチ
ういろうは現在、“昭和レトロ”和菓子としての再評価が進んでいます。シンプルな材料・素朴な味わい・安心感などが、ナチュラル志向の若い世代にも受け入れられやすくなってきました。インスタ映えするパッケージや色とりどりのカット販売も増えています。
お土産菓子から“普段のおやつ”へ広がる可能性
これまで“観光地のお土産”という印象が強かったういろうですが、最近ではスーパーやネット通販でも手軽に購入できるようになり、“日常のおやつ”としてのポジションも確立しつつあります。今後はさらに家庭用や冷凍保存対応など、利便性の面でも進化が期待されています。
まとめ
ういろうは、シンプルさのなかに歴史が詰まった味
ういろうは、米粉・砂糖・水というシンプルな素材で作られながらも、何世代にもわたって受け継がれてきた日本の伝統菓子。その見た目と食感には、地域文化や季節感、そして人々の知恵がぎゅっと詰まっています。
薬から始まり、菓子へと進化した日本文化のユニークなかたち
「外郎」という名前に始まり、薬から菓子へと変化しながら今に続くういろう。そのストーリーは、日本文化の柔軟さと創造力の象徴でもあります。古くて新しい、懐かしくて新鮮。ういろうは、まさにそんな存在なのです。
