指紋はなぜ人それぞれ違うのか、一卵性の双子でも一致しないわけ

指紋の模様が描かれた南京錠のイラスト からだの話
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指紋の大まかな型は親から受けつぐ性質に左右されますが、線の細かな流れや分かれ目は、おなかの中で指先の皮膚が育つときの偶然で決まります。遺伝子がほぼ同じ一卵性の双子でも指紋が一致しないのは、この偶然の部分までは同じにならないからです。指紋ができる時期と仕組みから遺伝の効く範囲、一生変わらない理由まで順にたどります。

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指紋はいつできる?

妊婦のイラスト

胎児期の10週ごろに最初の線が現れる

指紋のもとになる皮膚の線(隆線(りゅうせん))が作られるのは、胎児の時期です。米国の鑑識専門家による解説では、最初の線が現れるのは胎児期の10〜15週ごろ。この時点ではまだ表面に見えず、皮膚の内側へ溝のように伸びていきます。数週間たつと向きが変わり、皮膚を押し上げる帯になって表から見える凹凸に育つのです。

胎児期の6か月目までに完成する

米国国立医学図書館のMedlinePlusは「胎児期の3か月目に線ができ始め、6か月目までに完成する」と説明しています。「10週から16週ごろにできる」と書く解説も多いものの、それは線が現れて模様の型が定まるまでの期間のこと。線そのものはその後も育ち続け、完成と言えるのは6か月目ごろとされます。

いずれにしても、生まれたときには指紋はもう出来上がっています。赤ちゃんの小さな指先にも、大人になってから採るのと同じ模様がすでに刻まれているわけです。

模様の型を決めるのは指先のふくらみ

虫眼鏡でのぞく女の子のイラスト

渦・ループ・弓の3つの基本形

指紋の模様は、大きく3つの型に分けられます。中心でぐるぐると巻く渦の形、片側から入って同じ側へ戻るループ(蹄(ひづめ)のような形)、そして山なりに横切る弓の形です。この基本の型は人どうしで似ることがあっても、細部は一人ひとり違う。MedlinePlusもそう述べています。

ふくらみが大きいほど渦になりやすい

胎児の指先には、一時的に小さなふくらみができます。線が現れるのは、このふくらみが縮んでいく途中です。ふくらみがまだ大きく残っていれば渦、ほどほどならループ、ほとんど平らになっていれば弓になりやすいとされています。

つまり型を決めるのは「いつ線が出始めたか」というタイミング。このタイミングが親から受けつぐ性質に左右されるので、型は家族で似やすくなります。

線は指先の3か所から波のように広がる

お腹の中の赤ちゃん(胎児)のイラスト

爪の下・指の腹・関節のしわが出発点

2023年、英国エディンバラ大学などの研究チームが学術誌『Cell』に、指紋ができる仕組みを詳しく調べた論文を発表しました。それによると、線は指先の3か所から波のように広がっていくそうです。出発点は爪の下・指の腹の中央・指先に近い関節のしわの3か所。

3つの波がどこで、どんな角度でぶつかるかで、渦・ループ・弓の型が生まれます。研究チームのコンピューター模型では、指の腹からの波が遅れて始まると、残りの2つの波がぶつかって弓の形になりました。出発点の位置や始まる時刻は人によって少しずつずれるので、波の重なり方も人の数だけあるわけです。

毛が生える仕組みの「途中まで」を使っている

同じ研究によると、指紋の線は毛穴(毛包)を作るのと同じ仕組みを途中まで使ってできています。WNT・EDAR・BMPという3種類の信号物質が、互いに強め合ったり打ち消し合ったりして線と溝の間隔を決めるのです。BMPが多い場所は溝になります。

物質どうしのせめぎ合いで縞やまだらが生まれる、という考え方を唱えたのは数学者アラン・チューリングでした。1950年代の理論です。動物の体の模様の説明にも使われてきたこの理論が、私たちの指先にも当てはまっていたことになります。

遺伝で決まるのはどこまで?

両親と子どもの遺伝を表すイラスト

型・線の間隔・大きさは親に似やすい

指紋は、遺伝と環境の両方がかかわる性質です。MedlinePlusによれば、線の大きさ・形・間隔といった土台の部分は遺伝の影響を受け、そこには多くの遺伝子がかかわっています。とはいえ、指紋の形成にかかわる遺伝子のうち、はっきり特定されたものはまだ多くありません。

線の分かれ目や途切れ方は偶然

個人を見分ける決め手は、線が二つに分かれる点や途中で切れる点などの細かな特徴です。米国の鑑識専門家グレン・ランゲンバーグ氏は、こうした線の細部の並び方を「ランダム」だと説明しました。ふくらみの形という大枠は決まっていても、線が1本ずつどこを通るかまでは設計図に書かれていない。そんなイメージです。

一卵性の双子でも指紋が違うのはなぜ?

双子の赤ちゃんと家族のイラスト

型はそっくりでも細部は別物

一卵性の双子は同じDNAを持ち、指先のふくらみが縮むタイミングもほぼそろっていると考えられます。そのため指紋の大きさや型はよく似ることが多いものの、線の分かれ目や途切れ方といった特徴は別々です。同じDNAを持つ一卵性の双子でも指紋は異なる、とMedlinePlusも明記しています。

同じおなかの中でも環境は少しずつ違う

細部に影響するものとしてMedlinePlusが挙げるのは、妊娠中に体に取り込まれた物質や子宮の中の環境です。双子は同じ子宮で育ちますが、位置も栄養の届き方もまったく同じにはなりません。そこへ「3つの波のぶつかり方」というゆらぎも加わる。遺伝子が同じでも指紋が一致しない理由は、ここにあります。

そもそも同じ人でも、右手と左手、親指と人さし指で模様はふつう違います。同じ体の中でさえ一致しないのですから、別々の体で育つ双子が一致しないのも自然なことでしょう。

指紋は一生ほとんど変わらない

スマートフォンの指紋認証のイラスト

表面がすりむけても同じ模様に戻る

指紋は生まれる前にでき、その後は一生同じまま。MedlinePlusはそう説明しています。体が大きくなれば模様も一緒に大きくなりますが、線のつながり方は変わりません。指先の表面を少しすりむいても、模様のもとは皮膚の深いところにあるので、治ればまた同じ線が戻ってきます。

スマートフォンの鍵にも使われる

人によって違い、しかも一生変わらない。この2つの性質がそろっているからこそ、指紋は本人かどうかを確かめる手がかりになります。スマートフォンやパソコンのロック解除は、その身近な例です。暗証番号と違って忘れることがなく、人に教えることもできない鍵といえます。

日本の警察は明治44年から指紋を使っている

現場で証拠を集める鑑識の警察官のイラスト

「万人不同」「終生不変」という二つの性質

警察庁の『平成23年版 警察白書』は、指紋と手のひらの紋(掌紋(しょうもん))について「万人不同」「終生不変」の性質を持ち、個人を見分ける資料としてきわめて役に立つと書いています。誰とも同じでなく、一生変わらないという意味。胎児期の仕組みが、そのまま捜査の土台になっているのです。

2011年に指紋制度が100周年を迎えた

同じ白書によれば、日本の警察で初めて指紋の事務を扱う鑑識係が置かれたのは1911年(明治44年)4月1日。場所は警視庁の刑事課でした。指紋制度は2011年4月1日に創設100周年を迎えています。事件現場に残された指紋をデータベースと自動で照らし合わせる仕組みも、いまの捜査には欠かせません。

指紋がない人と、指紋がある動物

コアラの親子のイラスト

生まれつき指紋をもたない体質もある

ごくまれに、指紋の線が生まれつき無い人がいます。MedlinePlusはこの体質を「アダーマトグリフィア」と呼び、SMARCAD1という遺伝子の変化が原因だと紹介しています。ただし、この遺伝子が指紋づくりの中でどんな役目を果たしているのかは、まだよく分かっていません。

コアラの指紋は人間そっくり

指紋を持つのは人間だけではありません。チンパンジーなどの霊長類に加えて、オーストラリアのコアラにも指紋があります。アデレード大学の研究者たちは1997年に学術誌『Natural Science』で、コアラの指紋が肉眼でも顕微鏡でも人間のものとよく似ていると報告しました。

7000万年離れても似た指紋にたどり着いた

人間とコアラの祖先は、少なくとも7000万年前に別々の道を歩み始めました。それでも、木に登り枝をつかむ暮らしに合わせて、よく似た指紋を手に入れています。研究者たちはこれを、似た暮らしが似た体のつくりを生む例だと考えました。

指紋の型は家族から受けつぎ、細部はおなかの中の偶然が描く。設計図と偶然の合作なので、双子どうしでも自分の10本の指どうしでも同じ模様は現れません。指先の小さな渦は、生まれる前の数か月を記録した自分だけの署名なのかもしれません。

参考

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