大事な発表やテストを前にすると、きまっておなかがキリキリ痛む。そんな経験はありませんか。
これは気のせいでも、心の弱さでもありません。脳と腸が、思っている以上に深くつながっているからです。

緊張で腹痛が起きる仕組み
まず、脳と腸の関係を要点から見ていきます。
| 問い | 答え |
|---|---|
| なぜ緊張で腹痛が起きるのか | 脳のストレスが神経を通じて腸に伝わるから |
| 脳と腸をつなぐものは | 自律神経、とくに迷走神経 |
| 「第二の脳」と呼ばれるわけ | 神経細胞が多く、セロトニンの約9割を作る |
| 痛みをやわらげるには | 深呼吸や規則的な生活で自律神経を整える |
ひとつずつ見ていきましょう。
脳と腸は「つながっている」
脳腸相関というしくみ
脳と腸は、神経やホルモンを通じて、たがいに連絡を取り合っています。このつながりこそ「脳腸相関」と呼ばれるしくみです。脳がストレスを感じればその影響は腸に届き、逆に腸の不調も脳へと伝わります。心とおなかは、別々のようでいて、じつは一本の線でつながっているのです。
橋渡し役は「迷走神経」
脳と腸をつなぐ主役が、迷走神経という長い神経です。これは脳から首やおなかへと伸び、腸の状態を脳へ、脳の指令を腸へと運びます。いわば、心とおなかをつなぐホットラインのような存在です。
なぜ緊張すると腸が乱れるのか
自律神経が消化を左右する
カギをにぎるのが、自律神経です。自律神経には、体を活動モードにする交感神経と、休息モードにする副交感神経があります。緊張すると交感神経が優位になり、体は「戦うか逃げるか」の態勢に入ります。このとき消化は後回しにされ、腸の動きが乱れて、痛みや下し腹につながるのです。

腸が刺激に過敏になる
ストレスがかかると、腸そのものも敏感になります。ふだんなら気にもとめない腸の動きを、痛みとして強く感じてしまうのです。緊張する場面でくり返しおなかが痛くなる人は、この過敏さが関係していると考えられています。
腸は「第二の脳」とも呼ばれる
腸にも神経のネットワークがある
腸には、脳に次ぐほど多くの神経細胞が集まっています。そのため、脳からの指令がなくても、ある程度は自分の判断で動けるのです。この独立したはたらきから、腸は「第二の脳」とも呼ばれています。
セロトニンの大半は腸で作られる
気分を安定させる「セロトニン」という物質をご存じでしょうか。幸せホルモンとも呼ばれるこのセロトニンは、実はその約9割が腸で作られています。腸でつくられたセロトニンは脳には直接届きませんが、腸の動きを整える役目をはたします。心の安定にかかわる物質が腸で多く作られているのは、なんとも興味深い事実です。
お腹の痛みをやわらげるには
深呼吸で副交感神経を働かせる
対策としてまず試せるのが、ゆっくりとした深呼吸です。深く長く息をすると、迷走神経を介して副交感神経が優位になり、高ぶった体が落ち着いていきます。緊張で痛むときほど、まず一度、息を整えてみるとよいでしょう。

生活のリズムを整える
ふだんの生活を整えておくことも、腸の安定につながります。睡眠や食事の時間をなるべく一定にし、適度に体を動かす。ストレスをためこみすぎないことが、おなかの調子を守るうえでも大切です。
痛みがとても強いとき、または長く続いてくり返すときは、がまんせず医療機関に相談してください。過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)など、治療でらくになる病気がかくれていることもあります。
豆知識——日本語にも残る「腹は心」
考えてみると、日本語には腹と心を結びつけた言葉がたくさんあります。腹が立つ・腹を決める・腹に落ちる・腹をわって話す。怒りも決意も納得も、昔の人は「腹」で表してきました。脳腸相関という言葉が生まれるずっと前から、人は感情とおなかのつながりを、肌で感じ取っていたのかもしれません。
緊張でおなかが痛くなるのは、気の弱さのせいではありません。脳と腸がきちんとつながっている証拠であり、体が発する正直なサインです。その声に耳をかたむけて少し休むことが、心と体の両方をいたわることにつながります。


