歳をとるとなぜ1年が早く感じるのか、子どもの夏休みが長かったわけ

砂時計のイラストと「体感時間」の文字 からだの話
スポンサーリンク

小学生のころの夏休みは、40日ほどなのに果てしなく長く感じられました。歳をとると1年が早く感じる理由として有力なのは、新しい出来事が減って記憶の目印が少なくなることです。生きてきた年月に対して1年の割合が小さくなることや、毎日の忙しさも関わっています。ただし調査を見ると、年齢による差がはっきり出るのは「この10年」をふり返るときで、1週間や1年の感じ方には意外なほど差がありません。

スポンサーリンク

ジャネーの法則は「割合」の考え方

卓上カレンダーのイラスト

19世紀フランスの哲学者が言い出した

「ジャネーの法則」のもとになったのは、フランスの哲学者ポール・ジャネ(1823〜1899年)が1877年に示した考えです。時間の長さの感じ方は、その期間がそれまでの人生に占める割合で決まるというものでした。日本では、この考えが「ジャネーの法則」という名前で広く知られています。

5歳の1年は人生の5分の1

5歳の子にとって1年は人生の20%にあたります。50歳の大人にとっては2%にすぎません。同じ365日でも、物差しになる「これまでの人生」が10倍長くなれば、1年の重みは10分の1に縮むという理屈です。

計算すると5〜20歳と20〜80歳が同じ長さ

この割合の考え方をそのまま当てはめて計算すると、少し驚く結果になります。体感の長さは年齢が何倍になったかで決まります。5歳から20歳(4倍)までの15年と20歳から80歳(同じく4倍)までの60年は、同じ長さに感じられる計算です。

もちろんこれは法則を文字どおりに受け取った場合の話です。それでも「子ども時代がやけに長かった」という実感とは、よく噛み合っています。

実験で確かめられた法則ではない

「法則」と呼ばれていますが、割合どおりに時間を感じることを実験で確かめた研究はありません。直感にぴったり合うので広まった、いわば経験則です。なぜ割合で感じるのかという仕組みも説明していないため、心理学では記憶や脳のはたらきから理由を探ってきました。

子どもの夏休みはなぜ長かった?

自転車の練習をする男の子のイラスト

40日は10歳の人生の約1%

小学校の夏休みはおよそ40日です。10歳の子にとっては、生まれてからの日数の約1.1%にあたります。50歳の大人が同じ40日の休みを取っても、割合は約0.2%です。ジャネーの物差しで測れば、子どもの夏休みは大人の5倍の重さを持っていたことになります。

毎日が「初めて」で埋まっていた

割合だけでなく、中身の濃さも違いました。補助輪を外した自転車、初めての虫捕り、親戚の家への遠出。子どもの夏は見るもの聞くものの多くが初体験で、一つひとつが別々の思い出として残ります。思い出の数が多い期間ほど、あとからふり返ったときに長く感じられるのです。

「退屈」もまた時間を長くする

夏休みの子どもは、しょっちゅう「ひま」「退屈」とこぼします。やることがない時間は、時計ばかりが気になって進みが遅く感じられるものです。大人は仕事や家事に追われ、時間そのものに目を向けるすきがあまりありません。時間を意識する回数の差も、長さの感じ方に響いていると考えられています。

時間の長さは記憶の量で決まる?

旅行に出かける家族のイラスト

長さが決まるのはふり返ったとき

時間の感じ方には2種類あります。いま過ごしている時間が速いか遅いかという感覚と、過ぎた期間をふり返って長かったか短かったかと見積もる感覚です。「1年が早かった」というのは後者で、そのとき頼りにしているのは、期間の中にどれだけ思い出が詰まっているかだとされます。

旅行は短く感じて、あとで長くなる

英国の心理学ライター、クローディア・ハモンドは、これを「ホリデー・パラドックス」と呼びました。旅行中は新しいことの連続で、時間はあっという間に過ぎます。ところが帰ってから思い出すと、数日の旅がずいぶん長い旅だったように感じられるのです。

過ごしている最中の速さと、ふり返ったときの長さは、必ずしも一致しません。子どもの夏休みも同じで、その場では一瞬でも、思い出の中では長い季節として残っているのでしょう。

くり返しの毎日は記憶が縮む

同じ時刻に起きて同じ電車に乗り、同じ職場で過ごす毎日。一日ずつの区別は、どうしてもつきにくくなります。似た日が重なると記憶の中ではひとまとめにされ、何か月分がひとつの塊のように縮んでしまいます。目印の少ない1年は、ふり返ったときに薄く短く感じられるわけです。

調査では「1年」の差は小さかった

アンケート用紙に記入する女性のイラスト

ドイツの約500人の調査

年齢と時間の感じ方を幅広い世代で調べた最初の研究とされるのが、ドイツのミュンヘン大学のマーク・ウィットマンらが2005年に発表した調査です。14〜94歳の499人に、過去の1時間・1週間・1か月などが速く過ぎたか遅く過ぎたかを尋ねました。

結果は意外なものでした。1週間や1か月の感じ方には年齢による差がほとんどなく、どの世代も「時間は速く過ぎる」と答えていたのです。年齢とともに速く感じる傾向が出たのは「この10年」を尋ねたときで、それも50歳前後で頭打ちになっています。

ニュージーランドとオランダでも同じ結果

2010年にはウィリアム・フリードマンとスティーブ・ヤンセンが、ニュージーランドの大学生49人と平均68歳の50人を比べています。ここでも過去1週間・1か月・1年の感じ方にはほとんど差がなく、年配の人が速く感じたのは過去10年だけでした。

オランダで約2,000人(16〜80歳)を対象にしたネット調査でも、傾向は同じです。年齢で説明できたのは、過去10年の速さの感じ方のばらつきのうち4%ほどにとどまりました。

日本の調査では9割超が「早い」

日本でも、加藤孝義さんらが40〜80歳の111人に簡単なアンケートを行っています(2006年の日本心理学会で発表)。「時間の経過を早く感じる」と答えた人は93.7%にのぼりました。1年を短く感じる人は74.3%で、早く感じ始めた時期は「40歳ごろ」が33.0%、「30歳ごろ」が30.1%でした。

ただしこの調査には若い世代の比較がありません。若い人も同じように「早い」と答える可能性は残っており、海外の調査結果と合わせて読むと、「早く感じる」こと自体は年齢を問わない感覚なのかもしれません。

年齢より忙しさが効いている?

電話をしながら仕事に追われる会社員のイラスト

「せかされている感じ」のほうが強く関わる

オランダの調査で目立ったのは、年齢よりも「忙しくてせかされている感じ」でした。この感覚は、時間の速さの感じ方のばらつきの10%ほどを説明していました。年齢が説明できたのは、ふだんの時間の速さについては1%ほどです。

平均すると女性のほうが男性より「せかされている」と答える人が多く、時間も速く過ぎると感じていました。予定に追われる暮らしそのものが、時間を短く感じさせているようです。

「歳をとると早い」という思い込みも

研究者たちは、10年をふり返るときにだけ年齢差が出る理由の一つとして、文化的な思い込みの影響も挙げています。「歳をとれば時間は早くなるものだ」と聞かされて育つと、自分の10年も早かったと答えやすくなる、という見方です。この点はまだ確かめられておらず、研究者自身もさらに調べる必要があるとしています。

10年をふり返ると差がはっきりする

アルバムを見る老夫婦のイラスト

2026年のイタリアとドイツの調査

2026年に学術誌『Memory & Cognition』に載った研究では、20〜91歳の120人(イタリア語話者とドイツ語話者が60人ずつ)が、過去10年と過去1年の過ぎる速さを答えています。年齢が高いほど過去10年を速く感じる傾向があった一方、過去1年については年齢との関係が見られませんでした。

思い出の数より「新しく覚える力」

研究チームは、この10年の出来事をいくつ思い出せるかも調べています。ところが思い出せた数や、その思い出の鮮やかさは、速さの感じ方と関係がありませんでした。関係していたのは、少し前に覚えた内容を、時間をおいて思い出すテストの成績です。

研究チームの見立てでは、10年を速く感じさせる要因は昔の思い出を呼び出す力ではありません。新しい情報を記憶に刻む力が弱まることのほうが、より有力だといいます。新しい経験が記憶に残りにくくなる、という説明とも重なる結果です。

20代が「遅く」感じているだけという面も

もっとも、20代のグループを除いて計算し直すと、年齢との関係は消えてしまいました。年配の人が10年を早く感じるというより、20代が10年を長く感じていた分が差を生んでいた可能性があります。20代の10年は進学や就職、引っ越しなど変化の連続で、まさに「初めて」の多い時期です。

脳が受け取る映像の数が減る説

脳のイラスト

目は1秒に3〜5回動いている

記憶とは別の角度からの説明もあります。私たちの目は、ものを見ているあいだも1秒に3〜5回ほど素早く動き、そのたびに0.2〜0.3秒ほど止まって像を拾っています。この素早い目の動きが「サッカード」です。

拾える像が減ると時間が速く流れる

米デューク大学の工学者エイドリアン・ベジャンは2019年の論文で、歳をとると神経の伝わる速さが落ち、同じ時間に脳が受け取る像の数が減ると論じました。映像のコマ数が少ないぶん、外の世界の時間が速く進んだように感じる、という説明です。

ただしこれは既存の研究をつなぎ合わせた理論的な提案で、体感時間を直接測った実験ではありません。有力な仮説のひとつ、と受け止めておくのがよさそうです。

体の中の「時計」がゆっくりになる説

呼吸や体温、ホルモンの分泌など、体の中ではさまざまなリズムが刻まれています。加藤さんらの発表では、歳をとって体のリズムがゆっくりになると、それと比べて外の時間が速く過ぎるように感じるという説明が紹介されています。結論では、記憶と体のリズムの二つを有力な説明として挙げていました。

体感の1年を長くする方法はある?

日記と写真のイラスト

小さな「初めて」を足す

記憶の目印が減ると時間が縮むなら、目印を増やせばよいことになります。行ったことのない店に入る、帰り道を一本変える、新しい趣味に手を出してみる。大がかりな旅行でなくても、ほかの日と区別できる出来事があれば、その日は記憶の中で独立した1日として残ります。

予定を詰め込みすぎない

調査で年齢より強く効いていたのは、せかされている感覚でした。予定をぎっしり詰めた日々は、それだけで速く過ぎたように感じられます。何もしない時間をあえて残しておくことも、時間をゆったり感じるための一つの手です。

書き留めて目印を残す

日記を数行つける、その日の写真を1枚選んでおく。こうした記録は、似たような日々を一日ずつ見分ける手がかりになります。年末に1年分を見返したとき、「意外といろいろあった」と思えれば、その1年はふり返りの中で少し長くなっているはずです。

同じ1年の長さを決めているのは、カレンダーではなく、その1年に何が詰まっていたかのようです。子どもの夏休みが長かったのは、時間が多かったからではなく、初めてのことが多かったから。大人の1年も、中身しだいで少しは長くできるのかもしれません。

参考

関連記事

夏休みの長さは地域でどう違うのか、北海道が短いのはどうして?
夏休みの長さは全国一律ではなく、地域によって最大で2週間近く差があります。誰がどうやって決めているのか、北海道や沖縄を例に背景を解説します。
緊張するとなぜお腹が痛くなるのか、腸が第二の脳と呼ばれるわけ
緊張するとなぜお腹が痛くなるのか。脳と腸は迷走神経でつながり、双方向に影響し合っています(脳腸相関)。自律神経の働きやセロトニンと腸の関係、痛みをやわらげる深呼吸まで解説します。