駅前でギターを弾くのも、募金箱を持って呼びかけるのも、人が立ち止まって集まるような形なら警察署長の「道路使用許可」が必要です。いっぽうビラ配りは、通行のじゃまにならない程度に一人で手渡すだけなら、普通は許可の対象になりません。同じ「道路に立つ活動」でも、人を集めるかどうかで手続きが分かれます。
※ この記事は道路の使い方に関する制度を一般向けに紹介するものです。許可の要否は場所や規模で変わるため、実際に活動する前には管轄の警察署に確認してください。
道路使用許可は警察署長が出す

根拠は道路交通法77条
道路は本来、人や車が通るための場所です。そこで工事をしたり屋台を出したりと、通行以外の使い方をするときに必要になるのが道路交通法77条の許可です。出すのは市役所や区役所ではなく、その場所を管轄する警察署長。三つの活動のうち許可が問題になるのは、すべてこの条文です。
※ 道路使用許可とは、道路で工事・露店・催し物など通行以外のことをするときに、警察署長から受ける許可のことです。道路そのものに物を置き続ける「道路占用許可」(道路管理者が出す)とは別の手続きです。
許可が要るかの目安は「人が集まるか」
許可の対象を定めているのは77条1項の4号です。祭礼やロケのように一般の交通に著しい影響を与える使い方と、道路に人が集まって同じような影響が出る行為のうち、都道府県の公安委員会が決めたものが対象になります。中身は都道府県ごとの規則で決まり、細かな線引きは地域で少しずつ違うのが実情です。
申請先は警察署の交通課
警視庁の場合、申請は活動する場所を管轄する警察署の交通規制係で受け付けています。手数料は工事や作業以外の申請で2,100円です。これは審査の手数料で、道路の使用料ではありません。許可が下りなくても原則として返ってこない点は覚えておきたいところです。オンラインで申請できる手続きもありますが、手数料を納めるには警察署へ出向く必要があります。
路上ライブに許可はいる?

演奏で人を集めれば「人寄せ」にあたる
警視庁は、許可が必要な行為のひとつに「道路上で人寄せをする行為」を挙げています。歌や演奏で通行人を立ち止まらせ、輪ができるような路上ライブはこの典型です。アンプを通した大きな音は人を呼び寄せやすく、少人数の弾き語りより人寄せと見られやすいでしょう。
申請しても許可が出るとは限らない
許可は「出せば通る」ものではありません。77条2項によると、警察署長が許可しなければならないのは、交通のじゃまになるおそれがない場合などに限られます。人通りの多い駅前の歩道で毎晩演奏したいという申請は、通行への影響が大きいと判断されやすいでしょう。
ここで「届出」との違いが効いてきます。届出は書類が受理されれば活動できますが、許可は役所が内容を審査し、認められたときだけ活動できる仕組みです。道路使用は許可なので、申請が通らなければその場所では演奏できません。
ビラ配りは許可なしでできる?

一人で手渡す程度なら対象外
歩道の端に立って通行人にチラシを差し出すだけなら、人だかりはできず交通への影響もほとんどありません。そのため、普通のビラ配りは道路使用許可の対象にならないのが一般的です。ビラは意見や情報を伝える手段でもあり、表現の自由(憲法21条)との関係からも広く認められてきました。
人を集める配り方は許可の対象になる
警視庁は「物の販売、交付」も許可が必要な行為に含めています。対象になるのは、一般の交通に著しい影響を及ぼす場合です。試供品の配布で行列ができる、大勢で一斉に配って歩道が埋まるといった配り方は、ビラ配りでも許可が必要になりうる場面です。
道をふさげば許可とは別の違反になる
道路交通法76条4項は、交通のじゃまになるような方法で道路に寝そべったり座り込んだり、立ち止まったりすることを禁じています。配る人が横一列に並んで歩道をふさげば、許可の有無とは関係なくこの禁止に触れるおそれがあります。手渡しか通せんぼかの差は、配り方しだいです。
街頭募金の許可は誰が出す?

募金と署名は許可の対象に名指しされている
警視庁が77条1項4号の例として挙げる行為には、「募金、署名活動」がはっきり含まれています。募金箱を持って呼びかけ、人が足を止めて交通に著しい影響が出るような形なら、管轄の警察署で道路使用許可を受けることになります。窓口は自治体の福祉課ではありません。
公益の活動でも手続きは同じ
災害支援やチャリティーのための募金は目的こそ公益的ですが、道路の使い方としては路上ライブと変わりません。人が集まり、通行の流れが変わることに違いはないからです。「良いことだから許可はいらない」とはならず、交通への影響という同じ物差しで判断されます。
無許可で続けるとどうなる?

多くはまず警察官の指導から
許可を取らずに演奏や募金をしていても、いきなり逮捕されるとは限りません。通報や巡回で警察官が来て、許可の有無を聞かれたり「ここではやめてください」と言われたりするのが入り口になることが多いようです。指導に従わずに繰り返したり、交通や近所への影響が大きくなったりすると、問題が大きくなります。
罰則は3か月以下の拘禁刑か5万円以下の罰金
許可を受けずに道路を使うことは、道路交通法119条2項7号で3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金と定められています。2025年6月1日に懲役と禁錮が「拘禁刑」にまとめられ、この条文の表記も変わりました。許可に付いた条件(時間や場所など)を守らなかった場合も、同じ重さの罰則です。
音の大きさは別のルールで決まる

騒音規制法は路上ライブを直接の対象にしていない
「騒音」と聞くと騒音規制法を思い浮かべますが、この法律が直接規制するのは工場・建設作業・自動車の騒音です。路上ライブの音にそのまま適用されるわけではありません。かわりに同法28条は、拡声機を使う放送の騒音などについて、地方公共団体が必要な対策をとるよう求めています。
拡声機の音量は都道府県の条例が決める
この受け皿になっているのが、都道府県の生活環境に関する条例です。大阪府の条例は、商業宣伝のための拡声機に細かな基準を置いています。学校や病院の周囲30メートル以内では使えず、夜8時から翌朝9時(日曜・休日は10時)までも使用禁止。拡声機の真下から10メートル離れた地点で、住宅地なら55〜60デシベル、商業地域なら70デシベルという音量の上限もあります。
商業宣伝でない拡声機の使用にも、周りの生活環境を損なわないよう努める義務が課されています。アンプとスピーカーを使う路上ライブは、道路使用許可とは別に、この音の基準も気にする必要があるわけです。
街頭募金を装った詐欺は最高裁まで争われた

2か月で多数の活動員を街頭に立たせた事件
募金箱を持った人が本物かどうかは、外から見ても分かりません。それを悪用した事件として知られるのが、最高裁が2010年(平成22年)3月17日に決定を出した街頭募金詐欺です。犯人は人通りの多い複数の場所に約2か月間、事情を知らない募金活動員を大勢立たせました。立て看板で趣旨を掲げさせ、募金箱を手に呼びかけさせて、応じた通行人から現金をだまし取っていました。
被害者を一人ずつ特定しなくても罪になる
争点は、誰がいくら入れたか分からない募金でも詐欺罪を問えるかという点。最高裁が注目したのは、不特定多数に同じ呼びかけを続けていたことと、入れたお金がすぐ混ざって区別できないことです。この特徴から、全体をひとつの詐欺(包括一罪)とみてよいと判断しました。募金の方法・期間・場所・集めた総額を示せば足りる、という考え方です。
許可証は呼びかける側の信用にもなる
許可を得て活動している団体は、警察署で許可証の交付を受けています。許可には時間や場所などの条件が付くことがあり、守らなければ119条の罰則の対象です。手続きを踏んでいることは、呼びかける側にとっても信頼の裏付けになるといえそうです。
歌う、配る、呼びかける。三つの違いは活動の種類そのものより、そこに人だかりができるかどうかにあります。通る人の流れを止めない限り道は誰のものでもあり、止めるなら一言ことわりを入れる。道路使用許可は、その「ことわり」を形にした手続きなのかもしれません。
参考
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