日本語の数え方が二つあるのは、もとからあった和語の「ひとつ・ふたつ」に、漢字とともに中国から来た「いち・に・さん」が重なったからです。漢語の数は形が簡単で、十進法のおかげで大きな数も言えたため、早くから主役になりました。和語が残ったのは十(とお)までの数え方と、「ふたり」「ふつか」のような決まった言葉の中。今は漢語を土台に、和語が混じる形で使い分けています。
「ひとつ」と「いち」は何が違う?

和語は日本に古くからある数え方
「ひとつ・ふたつ・みっつ」は、日本に古くからある和語(わご)の数え方です。国立国語研究所が1979年にまとめた日本語教育映画の解説書は、この系統を「1類」と呼んで和語系統のものと説明しています。会話では「ひ・ふ・み・よ」と、さらに短くして数えることもあります。
漢語は漢字の音で読む数え方
「いち・に・さん」は、中国から伝わった漢字の音で数える漢語(かんご)の系統。同じ解説書はこちらを「2類」とし、日常では両方が混ぜて使われるため、外国人の学習者がとまどいやすいと書いています。ただし無秩序ではありません。使う場所はだいたい法則的に決まっている、というのが解説書の見立てです。
1から10までの読み比べ
二つを並べると、音の長さも響きもかなり違います。
| 数 | 和語の読み | 漢語の読み |
|---|---|---|
| 一 | ひとつ | いち |
| 二 | ふたつ | に |
| 三 | みっつ | さん |
| 四 | よっつ | し |
| 五 | いつつ | ご |
| 六 | むっつ | ろく |
| 七 | ななつ | しち |
| 八 | やっつ | はち |
| 九 | ここのつ | く |
| 十 | とお | じゅう |
漢語の列にある「し」「しち」「く」は、ふだん耳にする「よん」「なな」「きゅう」とは別の音です。このずれにも理由があります。
なぜ二つの数え方が並んでいるのか?

漢語の数は早くから借りて使われた
『改訂新版 世界大百科事典』の「数詞」の項は、漢語系の数詞は早くから借用されたらしいと書いています。奈良時代(8世紀)には、すでに掛け算の九九の唱え方もあったそうです。数え方は、漢字や学問といっしょに入ってきた道具のひとつだったのでしょう。
十進法で大きな数まで言える便利さ
同じ項目が漢語系の強みとして挙げるのは、語形も字形も簡単なこと。そして十進法と万進法をそのまま使える便利さです。「じゅういち」「にじゅうさん」のように、十までの音を組み合わせればいくらでも先へ進めます。新しい形を覚えなくても、同じ仕組みで万の位まで数えられました。
和語の数は十から先が途切れた
『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると、大和ことばの数詞は「一つ」「二つ」と数えて「十(とお)」まで。その先は中国語からの借用語を使うようになりました。こうして大きな数は漢語に任され、和語は小さな数の側に残ったわけです。
どちらを使うかの決まりはある?

11から上は漢語だけ
いちばんはっきりした決まりは、数の大きさです。「ひとつ」から「とお」までは和語で数えられますが、11個目は「じゅういっこ」で、「とおあまりひとつ」とは言いません。国立国語研究所の解説書も、現代語では漢語系のほうが全体として優勢だとしています。漢語を基調にして和語が混じる、というのが実情です。
「枚」「本」「匹」には漢語の数
物の形に合わせて付ける助数詞(じょすうし)のうち、「枚」「本」「匹」のような漢語のものには漢語の数が付きます。「いちまい」「にほん」「さんびき」という具合です。このとき「いっぴき」「いっぽん」のように数の音が詰まることがあり、「ひき」自体も「ぴき」「びき」に変わります。先の解説書は、この変化も数ごとに一覧にして示していました。
日数の「か」は和語の数に付く
反対に、和語の助数詞には和語の数が付くものがあります。日数を数える「か(日)」がその代表で、「ふつか」「みっか」「とおか」はどれも和語の数に「か」が付いた形。二十日を「はつか」と読むのも、同じ和語の名残です。
人は「ふたり」まで和語で数える
人の数え方は、二つの系統が途中で入れ替わる珍しい例です。「ひとり」「ふたり」は和語の「ひと」「ふた」に「り」が付いた形で、三人からは「さんにん」「よにん」と漢語になります。解説書の見方では、もとは全部和語で言っていたものが漢語に置き換わってきました。そのなかで、「いちにん」「ににん」より言いやすい「ひとり」「ふたり」だけが根強く残ったのです。
「4」と「7」はなぜ「よん」「なな」と読む?

「し」が「死」に通じるのを避けた
漢語で数えているのに、4だけは「よん」「よ」と読むことがよくあります。「よんまい」「よにん」がその例です。国立国語研究所の解説書が挙げる理由のひとつは、「し」の音が「死」に通じ、縁起の悪い音を使わない習慣があること。世界大百科事典も、シが〈死〉に通じるとする禁忌に触れています。
「し」と「しち」は聞き分けにくい
もうひとつの理由は聞き取りやすさです。4の「し」と7の「しち」は音が似ていて、数を読み上げると取り違えやすくなります。解説書も世界大百科事典も、この聞き分けにくさを「死」の禁忌と並べて挙げていました。
漢語の列に和語がまぎれこんだ形
「よん」と「なな」は、もともと和語の「よ」「なな」です。世界大百科事典によると、漢語系の発音の不都合から、漢語の唱えの間に和語のヨ(ヨン)とナナを代用することが多くなりました。私たちは「いち・に・さん・よん」と数えるたびに、二つの系統を一続きの中で混ぜているわけです。
「9」が「く」と「きゅう」に分かれるのはなぜ?

「く」も「きゅう」も漢語の読み
9の読み分けは、4や7とは事情が違います。『デジタル大辞泉』によれば、「九」の音読みは漢音がキュウ、呉音(ごおん)がク。どちらも中国から来た漢語の読みで、和語は「ここの」「ここのつ」のほうです。9時の「くじ」と九回の「きゅうかい」の違いは、和語と漢語の入れ替わりではありません。漢語の中の、古い読みと新しい読みの違いです。
呉音と漢音は伝わった時代が違う
呉音は、漢音より古く日本に入った漢字音です。『百科事典マイペディア』は、中国の呉と交流のあった百済(くだら)を通じて伝わったとし、7世紀ごろまでに早く日本語に取り込まれたと説明しています。その後に入った漢音と少しずつ入れ替わりましたが、仏教の言葉には呉音が根強く残りました。
読みは単語ごとに決まっている
どちらの音を使うかは、単語ごとに慣用で決まっています。デジタル大辞泉の用例でいえば、「九月」「九九」「九分九厘」がクの読み、「九回」がキュウの読み。規則で割り切れるものではなく、言葉ひとつひとつが覚えどころになっています。
和語で大きな数は数えられた?

百は「もも」、千は「ち」、万は「よろず」
和語の数が十で終わっていたわけではありません。世界大百科事典は、ソ・モモ・ホ・チ・ヨロヅが、それぞれ十・百・百・千・万にあたるとしています。ホは「イホ(五百)」「ヤホ(八百)」のように数と組んで使われました。日常で使わなくなっただけで、大きな数の言い方も和語にはあったのです。
八百屋と八百万の「八百」は多さのしるし
和語で八百を言う「ヤホ」は、今も「八百(やお)」の形で身近に残っています。世界大百科事典とニッポニカの「八百屋」の項によると、昔の八百屋はあらゆる精進の副食物や乾物を扱っていたので八百屋といいました。海藻や木の実まで並んでいたそうです。「八百万(やおよろず)の神」の八百万も、辞書では数の限りなく多いことを指す言葉。どちらも正確な個数ではなく、たくさんあることを表しています。
「はたち」「みそか」も和語の数
ニッポニカは、和語の数詞が十までで終わった中の例外として「二十歳(はたち)」と「三十日(みそか)」を挙げています。三十日と書いて「みそか」と読み、月末の日を指す「晦日」の読みにもなりました。国立国語研究所の解説書も、はたち・はつかを和語の言い方が残った例としています。
「ついたち」は数ではなく「月立ち」
月の初めの「ついたち」も和語ですが、こちらは数の名残ではありません。ニッポニカによると「つきたち(月立)」が変化した語で、新しい月が立つ日という意味です。ふつか・みっかと並んでいても、一日だけは成り立ちの違う言葉が入っています。
3と6、4と8は音が対になっている
和語の数をよく見ると、「み(3)」と「む(6)」、「よ(4)」と「や(8)」は母音を変えると倍の数になる組み合わせです。世界大百科事典は、こうした対立を両手を使った倍数法による命名と説く見方を紹介しています。「ここの(9)」を指の屈伸に結びつける説もあり、和語の数には指で数えた時代の手ざわりが残っているのかもしれません。
何気なく数える「いち・に・さん・よん」の中には、二つの系統と、さらに二つの時代の漢字音が混ざっています。りんごは「ふたつ」、皿は「にまい」。そう言い分けるたびに、千年以上かけて積み重なった言葉の層から、私たちは毎日ひとつずつ選んでいるのです。
参考
- コトバンク「数詞」(改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書ほか)
- 国立国語研究所『日本語教育映画解説 基礎篇第七課 さあ,かぞえましょう―助数詞―』(1979年)
- コトバンク「九」(デジタル大辞泉)
- コトバンク「呉音」(百科事典マイペディア・世界大百科事典ほか)
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