本屋の「ジュンク堂」は、創業者の父親の名前『工藤淳(くどう じゅん)』を裏返したものだそうです。そう聞くと、ほかの会社の名前の裏にも、こんな物語が隠れているのではと気になってきます。私たちが毎日目にする社名やブランド名には、思わず人に話したくなる由来がぎっしり詰まっているのです。
創業者の名前が化けたもの、外国語や神話からとったもの、そしてまさかのスペルミスがそのまま定着したもの。この記事では、由来のタイプごとに、はっきり裏の取れた例だけを集めました。数が多いので、気になる見出しだけ拾い読みしてもらってもかまいません。
まず、意外な由来をいくつか

本編に入る前に、とくに驚きの大きいものを先に並べておきます。「へえ」と思ったものがあれば、そのタイプの見出しから読んでみてください。
| 名前 | 由来のひとこと |
|---|---|
| ジュンク堂 | 創業者の父「工藤淳」を裏返して「じゅんくどう」 |
| ブリヂストン | 創業者「石橋」を英語にして前後を逆に |
| グーグル | 巨大な数「googol」の打ち間違い |
| ハーゲンダッツ | 意味のない造語(北欧風の響きを狙った) |
| ヤクルト | 人工言語エスペラントで「ヨーグルト」 |
| 任天堂 | 「運を天に任せる」とされるが、根拠は諸説 |
創業者や家族の名前から生まれた名前

いちばん多いのが、創業者の名字や名前をもとにしたパターンです。ただし、そのまま使うとは限らず、ひとひねり加わっているところに面白さがあります。
カシオ・ヤマハ——姓がそのまま社名に
電卓や時計のカシオは、創業者の樫尾忠雄(かしお ただお)の姓がそのまま社名になりました。楽器のヤマハも同じで、明治期にオルガンを修理・製造した山葉寅楠(やまは とらくす)が名前の由来です。姓をそのまま掲げるのは、いちばん素直な名づけ方といえます。
ブリヂストン——「石橋」を英語にして逆さにした
タイヤのブリヂストンは、創業者・石橋正二郎の名字を英語にしたものです。「石=ストーン」「橋=ブリッジ」ですが、そのまま「ストーンブリッジ」では語呂が悪い。そこで前後をひっくり返して「ブリッヂストン」としました。濁点を減らした表記のこだわりも、実は創業当時からのものです。
トヨタ——「豊田」から濁点を消した
自動車のトヨタは、創業家の名字「豊田(とよだ)」が出発点です。ところが社名は、濁点のない「トヨタ」。カタカナだと画数が八画になり、末広がりで縁起がよい。清音のほうが響きもすっきりする。さらに、個人名から社会的な存在へ踏み出す意味もあったと説明されています。1936年に、この「トヨタ」マークが定められました。
ジュンク堂——父の名前を裏返した
冒頭でも触れた書店のジュンク堂。創業者の工藤恭孝(くどう やすたか)さんが、店名をいろいろ父親に提案したところ、ことごとく却下されてしまいます。苦しまぎれに、父の名「工藤淳」をひっくり返して「淳工藤(じゅんくどう)」としてみたら、意外にも気に入られて決定。1976年、神戸・三宮への移転がそのきっかけでした。
アディダス——創業者「アディ」の愛称と姓
スポーツ用品のアディダスは、ドイツの創業者アドルフ・ダスラーの愛称「アディ(Adi)」と姓「ダスラー(Dassler)」を縮めたものです。当初は「アダス(Addas)」にしようとしましたが、子ども靴メーカーの名前とかぶってしまう。そこで1949年の会社登記のとき、AdとDasのあいだに手書きで「i」を足し、「Adidas」が生まれました。
サントリー——「鳥井」に太陽をくっつけた
サントリーは、創業者・鳥井信治郎の姓「トリー(Torii)」に、太陽を意味する「サン(Sun)」を組み合わせた名前です。この「サン」は、看板商品だった「赤玉ポートワイン」の赤い丸=太陽から来ています。人の名前と商品イメージが、ひとつの造語に溶け込んだ好例といえるでしょう。
言葉を組み合わせた・略してつくった名前

複数の単語をくっつけたり、長い名前を縮めたり。言葉づくりの工夫から生まれた名前も数多くあります。
コクヨ——「国の誉れ」という願い
文具のコクヨは、創業者・黒田善太郎が、故郷である富山県への思いを込めた名前です。「国(=故郷)の誉れになるように」という願いから「国誉(こくよ)」と名づけられました。姓の「黒田」を思わせつつ、願いも重ねた、二重の意味を持つネーミングです。
ドコモ——英語の頭文字と「どこも」
携帯電話のドコモ(docomo)は、「Do Communications over the Mobile network(移動体通信を通じて、いきいきと豊かに)」の頭文字をつないだ言葉です。同時に、日本語の「どこも(どこでも)」ともかけてある。英語の意味と日本語の語感を、ひとつの名前に両立させた工夫が光ります。
ニコン——「日本光学」を縮めて一文字足した
カメラのニコンは、もとの社名「日本光学工業」から来ています。その略称「ニッコー(NIKKO)」を生かし、語尾に「N」を足して口調を整え、「Nikon(ニコン)」というカメラ名が生まれました。ブランドが広く定着したため、1988年には会社名そのものも「ニコン」に変えられています。
イケア——名前・農場・村の頭文字
家具のイケア(IKEA)は、四つの頭文字を組み合わせた名前です。創業者イングヴァル・カンプラード(Ingvar Kamprad)の「I」と「K」、彼が育った農場エルムタリッド(Elmtaryd)の「E」、そして生まれ故郷の村アグナリッド(Agunnaryd)の「A」。自分のルーツをまるごと詰め込んだ、思い入れの深い社名です。
無印良品——「しるしの無い、良い品」
無印良品は、その名のとおり「印(ブランドのマーク)が無い、良い品」という意味です。1980年、スーパーの西友のプライベートブランドとして誕生しました。派手なブランド名で飾り立てる消費社会への、静かな問いかけがこもった名づけなのです。
外国語や神話からとった名前

遠い国の言葉や、神話の登場人物から名前をもらったブランドもたくさんあります。意味を知ると、そのブランドの願いまで見えてくるのが面白いところです。
ナイキ——ギリシャ神話の勝利の女神
スポーツブランドのナイキ(Nike)は、ギリシャ神話に登場する勝利の女神「ニケ(Nike)」に由来します。翼を持ち、戦いや競技に勝利をもたらす女神。スポーツ用品の名前として、これ以上ないほど縁起のよい選び方です。
スターバックス——小説『白鯨』の航海士
コーヒーのスターバックスは、アメリカの小説『白鯨(はくげい)』に登場する一等航海士「スターバック」から名づけられました。海の男の名前を選んだのは、コーヒー貿易の時代の航海ロマンを重ねたかったから、といわれています。ロゴの人魚(セイレーン)も、この海のイメージとつながっているのです。
ヤクルト——エスペラント語の「ヨーグルト」
乳酸菌飲料のヤクルトは、世界共通語をめざした人工言語「エスペラント」で、ヨーグルトを意味する「ヤフルト(Jahurto)」がもとになっています。それを言いやすく整えて「ヤクルト」に。世界じゅうの人に届けたいという創始者・代田稔(しろた みのる)の願いが、言語の選択にも表れています。
※ エスペラントとは、1887年に考案された、特定の国に属さない世界共通語をめざす人工言語のことです。中立的で覚えやすいことから、社名やブランド名の題材にも使われてきました。
レゴ——デンマーク語で「よく遊べ」
ブロック玩具のレゴ(LEGO)は、デンマーク語の「レグ・ゴット(leg godt)」=「よく遊べ」を縮めた言葉です。玩具メーカーにぴったりの名前ですが、面白いのはその後日談。あとになって、ラテン語に「組み立てる」を意味する「lego」があると判明したのです。偶然にしては、できすぎた一致でしょう。
フォルクスワーゲン——ドイツ語で「国民車」
ドイツの自動車フォルクスワーゲン(Volkswagen)は、そのまま「国民車」という意味です。「Volks(国民の)」と「Wagen(車)」を合わせた言葉で、多くの人が手にできる車をめざした思想が、名前に直接こめられています。意味を知ると、あのビートルの丸っこい親しみやすさにも納得がいくはずです。
サムスン——「三つの星」という意味
韓国のサムスン(Samsung)は、漢字で書くと「三星」、つまり「三つの星」を意味します。創業者によれば、「三」は大きく・多く・力強いことを、「星」は永遠に輝き続けることを表しているそうです。国は違っても、星に願いを重ねる感覚は共通しているのかもしれません。
古典や宗教にちなむ名前

とくに歴史ある日本企業には、中国の古典や仏教から名前をとった、格調高いものが目立ちます。
資生堂——中国古典『易経』の一節
化粧品の資生堂の名は、中国の古典『易経(えききょう)』の一節から取られました。もとになった「万物資生(ばんぶつとりてしょうず)」は、すべてのものは大地から生まれる、という意味。美しさを育む会社に、これ以上ふさわしい言葉はないでしょう。
キヤノン——観音さまにあやかった
カメラのキヤノンは、前身の会社が試作した初のカメラ「KWANON(カンノン)」が出発点です。世界一のカメラをつくる夢を、慈悲の仏である観音菩薩に重ねたのです。のちに商標として、英語で「規範・標準」を意味する「Canon」に整えました。発音が「観音(カンノン)」に近いため、切り替えにも違和感がなかったといいます。なお表記は小さい「ャ」ではなく大きい「ヤ」で「キヤノン」が正式です。
楽天——戦国時代の「楽市楽座」から
ネット通販の楽天は、安土桃山時代の経済政策「楽市楽座(らくいちらくざ)」に由来します。誰もが自由に商売できてにぎわう市場を、ネット上にもつくりたい。その思いに、前向きで明るい「楽天的」のイメージを重ねて「楽天市場」の名が生まれました。
※ 楽市楽座(らくいちらくざ)とは、戦国〜安土桃山時代に織田信長らが行った経済政策です。市場の税や特権を廃し、誰でも自由に商売できるようにしました。
グンゼ——「郡の方針」を意味する「郡是」
下着や靴下で知られるグンゼは、もともと「郡是(ぐんぜ)」と書きました。「郡(こおり)の是(=方針、めざすべき道)」という意味で、地元・京都の何鹿郡(いかるがぐん)の産業を盛り上げようという志から生まれた名前です。地域とともに歩む会社の姿勢が、社名にそのまま刻まれています。
カルピス——カルシウムとサンスクリット語
乳酸菌飲料のカルピスは、二つの言葉の合わせ技です。栄養素の「カルシウム(Cal)」と、古代インドのサンスクリット語で最上の味を表す「サルピス(sarpis)」を組み合わせました。健康と、この上ないおいしさ。その両方への願いが、短い名前に凝縮されています。
偶然やミスから生まれた名前

ここからは、狙ったわけではないのに定着してしまった名前です。うっかりや行き違いが、かえって唯一無二の名前を生みました。
グーグル——巨大な数の「打ち間違い」
検索大手のグーグル(Google)は、もともと「googol(グーゴル)」という言葉を使うつもりでした。1のあとに0が100個も続く、とてつもなく大きな数のことです。ところが、ドメイン名を登録する際にスペルを「Google」と打ち間違えてしまう。この綴りのほうが気に入られ、そのまま社名になりました。世界一の会社の名前が、じつはタイプミスから始まっているのです。
ユニクロ——香港での登記ミスがそのまま
ユニクロ(UNIQLO)のもとは「ユニーク・クロージング・ウエアハウス(Unique Clothing Warehouse)」、直訳すれば「個性的な服の倉庫」です。当初の略は「UNI-CLO(ユニクロ)」でした。ところが1988年、香港に現地法人をつくるとき、登記の書類に「UNI-QLO」と誤って書かれてしまう。この「C」が「Q」になった綴りを創業者が気に入り、正式なブランド名になったのです。
アマゾン——聞き間違いで名前を変えた
通販のアマゾン(Amazon)は、創業時には「Cadabra(カダブラ)」という名前でした。呪文の「アブラカダブラ」から取ったものです。ところが弁護士がこれを「Cadaver(死体)」と聞き間違えたことで、縁起の悪さに気づきます。そこで、世界最大の川アマゾンにちなんだ、雄大で個性的な名前へと変えました。
eBay——ドメインを取られて短くした
ネットオークションのeBayも、行き違いから生まれた名前です。創業者が営んでいた会社「Echo Bay(エコー・ベイ)」の名でドメインを取ろうとしたところ、すでに金鉱会社に使われていました。やむなく縮めて「eBay.com」にしたところ、これが世界的なブランド名として定着したのです。
意味は「後づけ」か「なし」——そして、まだまだある

最後に、そもそも深い意味を持たない名前や、由来がはっきりしない名前を紹介します。響きやゴロだけで選ばれた名前が、世界的ブランドになっているのも面白いところです。
コダック——「K」が好きなだけの造語
写真フィルムのコダック(Kodak)は、じつは何の意味もない造語です。創業者のイーストマンは、力強い響きの「K」の文字が好きで、「Kで始まりKで終わる」短い言葉をいくつも試作しました。どの国でも一通りにしか読めず、ほかに似た名前もない。使い勝手だけを突き詰めた結果が「Kodak」でした。
ハーゲンダッツ——北欧風に見せた無意味な言葉
高級アイスのハーゲンダッツ(Häagen-Dazs)も、意味のない造語です。じつはアメリカ生まれですが、高品質な乳製品の産地を思わせたかったのでしょう。北欧デンマークの首都「コペンハーゲン」風の響きに、それらしい「ダッツ」を組み合わせました。デンマーク語には、そもそも「ä」の文字も「zs」の綴りも存在しません。とことん雰囲気で作られた名前なのです。
ソニー——「損」に聞こえないように一文字削った
ソニー(SONY)は、音を意味するラテン語「sonus(ソヌス)」と、坊やを意味する英語「sonny(サニー)」を掛け合わせた造語です。ただし「sonny」のままでは、日本語で読むと「ソンニー」となり、「損」を連想させてしまう。それを嫌って「n」を一つ削り、「Sony」にしたという逸話が残っています。
任天堂——「運を天に任せる」は諸説あり
ゲームの任天堂は、1889年に花札の製造で創業した、130年以上の歴史を持つ会社です。社名は一般に「運を天に任せる」という意味だと語られます。ただし、これは歴史的な裏づけがはっきりせず、諸説あるのが実際のところ。長い年月のあいだに、由来そのものが伝説めいてしまった一例といえます。
ひとことで言える、名前のタネいろいろ
紙幅の都合で駆け足になりますが、ほかにも面白い由来はたくさんあります。ひとことで言えるものを、まとめて並べておきましょう。
| 名前 | 由来 |
|---|---|
| グリコ | 牡蠣に含まれる栄養素「グリコーゲン」から |
| シャープ | 創業者が発明した「シャープペンシル」から |
| 花王 | 「顔(かお)を洗う石鹸」の「かお」に良い字を当てた |
| スバル | 星団「昴(すばる)」=六連星。前身の5社が集った意味も |
| 三菱 | 岩崎家と山内家、二つの家紋を組み合わせたマーク |
| キユーピー | キューピッド人形から。「ユ」が大文字なのはデザイン上の理由 |
| セブン-イレブン | 開店当初の営業時間「朝7時〜夜11時」から |
| ゼロックス | 複写技術「ゼログラフィ」(ギリシャ語で「乾いた+書く」)から |
| ペプシ | 消化酵素「ペプシン」から |
| ヤフー | 『ガリバー旅行記』の一種族名+こじつけの頭文字語 |
| アップル | 創業者が働いていたリンゴ農園から。親しみやすさも狙い |
| アドビ | 創業者の自宅裏を流れていた「アドビ川」から |
こうして並べてみると、名前のつけ方にはさまざまな背景があるのがわかります。会社の願い・時代の空気、そして時にはちょっとした偶然までが、そこに刻まれているのです。神話に願いを託した会社もあれば、打ち間違いをそのまま受け入れた会社もある。次に見慣れた看板やロゴを目にしたら、その名前がどこから来たのか、ちょっと思い出してみるのも一興です。ありふれたロゴの一つひとつが、誰かの願いや時にはうっかりを、今日も静かに掲げているのですから。


