2025年12月、お笑い芸人のマヂカルラブリー・野田クリスタルさんが、GoogleのAI「Gemini」にプログラミングを丸投げする形で作ったアプリ「ペットカードジェネレーター」を公開しました。ペットの写真をアップロードすると、トレーディングカード風の画像をAIが生成してくれるというものです。公開直後からSNSで爆発的に拡散し、1日で130万アクセスを記録、アクセスが集中しすぎて一時的にサービスが止まるという出来事になりました。
このニュースは「AIに頼むだけでアプリが作れる時代になった」という夢のある話として広まりました。それは事実です。ただ、このエピソードにはもう一つの側面があります。アプリが人気になった分だけ、裏側で動いているAIへの問い合わせ回数も増え、その利用料は基本的に「使った分だけ」発生する仕組みになっているということです。今回は、その仕組みと、個人が同じようなアプリを作って公開するときに知っておきたいことを整理します。
結論からいうと、「人気が出ること」と「請求額」は直結している
まずは全体の構造を表で見てみましょう。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 作り方 | チャットでAIに指示するだけで、動くアプリのコードを作れる |
| 裏側の仕組み | 画像生成や文章生成などは、外部のAI(Gemini・ChatGPTなど)のAPIに都度問い合わせている |
| 課金のルール | 多くのAPIは「使った回数・データ量に応じて」費用が発生する従量課金制 |
| 人気が出ると | アクセスが増えるほどAPIへの問い合わせ回数も増え、利用料が比例して増える |
| 上限を決めていないと | 開発者本人に、想定をはるかに超える金額の請求が届く可能性がある |
そもそも「API」とは何なのか
「外部の機能を借りるための窓口」のようなもの
API(エーピーアイ)とは、あるサービスが持っている機能を、別のアプリから呼び出して使えるようにする「窓口」のようなものです。画像生成AIをゼロから自分で作るのは大変ですが、GoogleやOpenAIが用意している画像生成AIの窓口(API)に「この写真でカード風の画像を作って」とお願いすれば、結果だけを受け取ることができます。
※ API(Application Programming Interface)とは、ソフトウェアやサービスが持つ機能を、別のプログラムから呼び出して利用できるようにする仕組みのことです。アプリ開発者は、複雑な処理を自分でゼロから作る代わりに、用意されたAPIに「お願い」を送ることで、その処理結果を受け取れます。
「使用者⇄アプリ⇄外部API」の間で、データと請求が流れている
ペットカードジェネレーターのような仕組みを図にすると、次のような関係になります。

使用者がアプリを使うたびに、アプリは外部APIに「この処理をお願い」とデータを送り、結果を受け取って使用者に返します。このやりとり1回ごとに、外部API側では「アプリ開発者のアカウントが1回使った」という記録が積み重なっていきます。使用者が増えるほど、アプリと外部APIの間でやりとりされる回数も増えます。その分の請求は、最終的にアプリ開発者へ向かうという流れです。
この仕組みを踏まえて、「ペットカードジェネレーター」では実際に何が起きていたのか見てみましょう。
「ペットカードジェネレーター」で実際に起きたこと
Geminiに「プログラミングを丸投げ」して作られたアプリ
ペットカードジェネレーターは、ペットの写真と名前・性別・推しポイントなどを入力すると、まるでゲームのトレーディングカードのような1枚の画像をAIが自動生成してくれるWebアプリです。インストールは不要で、ブラウザから専用ページを開くだけで利用できました。野田クリスタルさんはこのアプリを、コードのほとんどをGeminiに考えてもらう形で開発したと紹介しています。
1日で130万アクセス、そして一時停止・復活
2025年12月16日の公開後、SNSで話題が広がり、1日で130万アクセスを記録したと報じられています。あまりの反響に「Googleもびっくり」というコメントも出るほどでしたが、その分アクセスが集中しすぎてサービスは一時停止に。12月23日には野田クリスタルさん本人が復活を予告し、12月25日正午にサービスが再開されました。
なぜ一時停止することになったのか(API)
報じられているところでは、一時停止の理由は「Gemini APIの利用量が、契約していた上限に達したこと」とされています。アクセスが集中するほど、裏側で動くAIへの問い合わせ回数も増えるため、想定よりずっと早く上限に到達してしまったと考えられます。
Google公式の技術協力があったから「特例」で済んだ
このケースでは、開発の段階からGoogle側の公式な技術協力があったとされています。だからこそ、想定を超えるアクセスが集中しても、大きなトラブルに発展せずに「一時停止→復活」という形で収まったと考えられます。もし同じ規模のアクセスが、何の準備もないまま個人の作ったアプリに集中した場合は、事情が変わってくるかもしれません。

同じことを個人が真似すると、何が起きるか
「とにかく作って」「細かいところは任せる」という指示の落とし穴
AIにアプリ開発を頼むとき、「とにかく動くものを作って」「細かい設定はAIに任せる」という頼み方は、初心者ほど取りがちなやり方です。AIは指示された通りに、まず動くものを優先して作ります。外部APIを呼び出す回数を制限する仕組みや、同じ処理を繰り返さない工夫は、はっきり頼まない限り入らないことが多いのです。
※ 従量課金(じゅうりょうかさん)制とは、サービスの利用量に応じて料金が変わる仕組みのことです。AI関連のAPIの多くは、「1回の問い合わせ(リクエスト)ごと」や「処理した文字数・画像数ごと」に料金が計算されます。利用量に上限を設定していない場合、リクエストが来るたびに料金が発生し続けます。
「APIキー」は、上限を決めない限りどこまでも使われ続ける
外部のAIを呼び出すアプリには、本人確認や課金のための「APIキー」という鍵が必要です。このAPIキーに利用上限を設定していない場合、リクエストが来る限り、システムはそのまま処理を続けます。普段は1日数十件のアクセスしかないアプリでも、SNSで紹介されて急に数万件のアクセスが集まれば、その分だけAPIへの問い合わせも一気に増えます。
趣味で公開した個人開発のアプリが、数日のうちに想定の何倍もの利用料を生み出してしまう。これは特別な話ではなく、「上限を決めていないAPIキー」と「予想以上のアクセス」が重なれば、誰にでも起こり得る構造だといえます。
安全に「AIでアプリ開発」を始めるには
まずは外部のAI・APIを呼ばないアプリから
すべてのアプリが外部APIを使っているわけではありません。入力された文字を加工するだけのツール・単位変換や計算をするツール・自分専用のメモやToDoリストのようなアプリは、外部のAIサービスや有料APIを一切呼び出さずに作れます。この種類のアプリは、公開して人気が出ても追加の利用料が発生しないため、最初の一歩として向いています。
外部のAIや地図サービスと連携する場合は、上限設定をセットで頼む
画像生成・文章生成などのAI機能や、地図表示・経路検索のようなサービスを組み込みたい場合、それ自体は悪いことではありません。大切なのは、「とにかく作って」で終わらせず、利用回数の上限設定までセットでAIに伝えることです。多くのAI・クラウドサービスには、利用量の上限(クォータ)や、一定額に達したら知らせてくれる予算アラートの機能が用意されています。
- 外部API・外部サービスとの連携なし → リスクはほぼゼロ。まずはここから練習する
- 外部のAI・地図・検索などのAPIを使う → 利用回数の上限や予算アラートを必ず設定する
- 「とにかく作って」だけで終わらせず、「上限を設定して」までを1つの指示として伝える
AIに「作って」と伝えるだけでアプリが動く時代になったことは、間違いなく大きな変化です。ただ、そのアプリが世の中に公開された瞬間、利用料の請求書も同じタイミングで動き始めています。「ペットカードジェネレーター」が大きなトラブルにならずに済んだのは、開発の背景にGoogleとの連携があったという、いわば特別な条件があったからかもしれません。同じ仕組みを自分で使うときは、その特別な条件がない前提で考える必要があります。最初に上限を決めておくことが、安心してAI開発を楽しむための準備になります。


