教室の前にある「黒板」。今ではほとんどが緑色なのに、なぜ今も「黒板」と呼ばれているのでしょうか。実はこの名前は明治時代にアメリカから伝わった言葉をそのまま訳したもので、緑色になったのはそれよりずっと後、戦争の影響がきっかけでした。
黒板の名前と色、答えはこの3つ
まずは、この記事で分かることを表にまとめておきます。
| なぜ「黒板」という名前なのか | 1872年に伝わった「blackboard」を直訳したから |
|---|---|
| いつ緑色になったのか | 昭和初期から緑色のものがあり、1954年にJIS規格で緑と定められた |
| 緑になっても名前が変わらなかったのはなぜか | 「黒板」という名前が、色が変わる前から定着していたため |
ここから、それぞれの背景を詳しく見ていきます。
「黒板」という名前は、明治時代の直訳だった
1872年、アメリカ人教師が持ち込んだ「blackboard」
黒板が日本の学校に登場したのは、明治5年(1872年)のことだといわれています。東京の師範学校に招かれたアメリカ人教師が、授業で使う「blackboard」を持ち込んだのが最初とされ、木の板に黒い塗料を塗った、文字どおり「黒い板」でした。
「ブラックボード」が、そのまま「黒板」になった
このとき、英語の「blackboard」は「black(黒い)」と「board(板)」を分けて訳され、「黒板」という言葉が生まれました。見た目どおりの直訳だったため、特に違和感もなく学校用語として定着していきます。以後、教育の現場が広がるにつれて、「黒板」は教室を象徴する言葉になっていきました。

黒板が緑色になったのは、戦争による塗料不足がきっかけ
戦前の黒板は、中国産の「黒漆(くろうるし)」で塗られていた
明治から戦前にかけて、黒板の表面には中国から輸入した「黒漆」という塗料が使われていました。黒漆は丈夫で書きやすく、黒板用の塗料としては定番の存在だったとされています。
輸入が止まり、代わりの塗料を探すことになった
ところが日中戦争が始まると、中国からの黒漆の輸入が難しくなってしまいます。全国黒板工業会の記録によると、黒板メーカー各社は黒漆に代わる塗料を国内で探すことになり、その過程で緑色の塗料が使われるようになっていきました。これが、黒板に緑色のものが登場するきっかけだったと伝えられています。
1954年、JIS規格で緑色の黒板が標準になった
緑色の黒板は昭和初期から少しずつ使われ始めていましたが、全国的に広がったのは戦後のことです。1954年(昭和29年)には、黒板の規格を定めるJIS(日本産業規格)で緑色が標準として定められました。目の疲れにくさなども考慮されたとされ、これ以降、緑色の黒板が学校の主流になっていきます。

名前だけが昔のまま残った、「青信号」と同じ現象
色が変わっても、呼び方は変わらない
「黒板」という名前が定着したのは明治、緑色になったのは戦後と、名前と色が決まった時期には80年近い差があります。すでに広く使われていた「黒板」という言葉を、色の変化に合わせて言い換える機会はなく、そのまま使われ続けたというのが実情のようです。
実は、こうした「名前が先に定着し、実物の色が後から変わっても呼び方は変わらない」という現象は、黒板だけに見られるものではありません。信号機の「青信号」も、実際の色は緑色に近いのに「青」と呼ばれ続けている、よく知られた例のひとつです。
いつも目にしている黒板も、よく見れば緑色なのに「黒板」と呼ばれる、ちょっと不思議な存在です。次に黒板を見るときは、その名前の裏にある明治と戦後、2つの時代の歴史を思い出してみると、見慣れた教室の風景が少し違って見えるかもしれません。


