合唱の練習で高い音を出そうとした瞬間、男子の声がひっくり返って教室に笑いが起きる。声変わりが起きるのは、思春期に男性ホルモンの働きでのどの喉頭(こうとう)が大きく育ち、中の声帯が長く厚くなるからです。男子は13〜15歳ごろに話し声が1オクターブかそれ以上も下がり、女子の声も少しだけ低くなります。かすれが何か月も続くときは、耳鼻咽喉科で診てもらうと安心です。
声の高さは声帯が震える速さで決まる

声帯は喉頭の中にある左右1対のひだ
声のもとになるのは、喉頭の中で左右から向き合う1対のひだ、声帯です。息を吐くときに左右のすき間を狭めると、通り抜ける空気で声帯が細かく震えます。この震えが空気の波になり、口や鼻で響きを足されて外へ出たものが声です。喉頭は首の前で触れる喉仏(のどぼとけ)のすぐ奥にあり、声帯はその軟骨に囲まれて守られています。
長く厚い弦ほど低い音で鳴る
声帯の働きは、ギターやバイオリンの弦によく似ています。長くて太い弦はゆっくり震えて低い音に、短くて細い弦は速く震えて高い音になる。声の高さも、声帯が1秒間に何回震えるかで決まります。この回数をヘルツ(Hz)で表したものが声の基本周波数で、数字が小さいほど低い声です。
1957年の看護学雑誌に載った解説は、日本人の声帯の長さを男性で平均12.5ミリ、女性で9.4ミリと紹介しています。大人の男女で話し声に1オクターブほどの差が出るのは、主にこの長さの違いによるという説明でした。
8歳の男の子と女の子はほぼ同じ高さ
子どものうちは、声の高さに男女の差がほとんどありません。フィンランドの研究チームが6歳から大人までの374人の話し声を測った研究(1978年)では、8歳の男の子が平均259ヘルツ、女の子が253ヘルツでした。電話の声だけでは男の子か女の子か当てにくいのも、うなずける数字です。差が大きく開くのは、思春期に入ってからでした。
声変わりはなぜ起きる?

喉頭が大きく育って前に張り出す
声変わりの正体は、喉頭という器官そのものの成長です。思春期に入ると喉頭を囲む軟骨が大きくなり、前に張り出してきます。相模原協同病院の病児保育室だよりは、このとき周りの筋肉が引っ張られて声帯が長くなり、厚みも増すと説明しています。楽器にたとえるなら、弦を張り替えるのでなく、楽器の胴ごと大きな型に作り替える出来事です。
引き金は男性ホルモンのテストステロン
喉頭を大きく育てる合図を出すのは、男性ホルモンのテストステロンです。米国の子ども向け健康情報サイトKidsHealthは、男の子の喉頭が女の子よりずっと大きく厚く育つのは主にこのホルモンの働きによると説明しています。男の子の体ではテストステロンが一気に増えるため、声の変化も大きくなるわけです。
喉仏が目立ってくるのも同じ成長
喉頭が大きく厚くなると、向きも少し傾きます。その結果、首の前に出てくるこぶが喉仏です。声が低くなることと喉仏が目立ってくることは、別々の変化に見えて、同じ喉頭の成長の表と裏にあたります。KidsHealthによると、喉仏の目立たない男性もいれば、目立つ女性もいます。どこまで出るかは、喉頭がどれだけ育つかしだいです。
声は男性ホルモンにとても敏感
声がホルモンにどれほど素直に反応するかを示す記録もあります。フィンランドの研究では、病気の治療で男性ホルモンの薬を使った女の子たちの声が、ほかの男性らしい変化が何も出ないうちに低くなりました。研究チームは、男性ホルモンの治療中は声の高さを測って見守るよう勧めています。声は、体の中のホルモンの変化をいち早く映す計器のような存在です。
声帯の長さだけでは説明しきれない

205人を測ると伸び方はほぼ一直線だった
「声帯が急に伸びるから声が下がる」という説明は、よく見かけます。ところが、米国ボストンの小児耳鼻咽喉科のチームが生後1か月から20歳までの205人の声帯を測った研究(2014年)では、少し違う姿が見えました。声帯の震える部分の長さは、1歳未満で4〜5ミリ前後。そこから年に約0.5ミリずつ、ほぼ一直線に伸びていたのです。
17歳の平均は男子14.0ミリ、女子12.3ミリ。この研究では、男女の差は統計で確かと言えるほど大きくありませんでした。
厚みや中の層の変化も効いている
研究チームは、思春期の急な変化は長さだけでは説明できず、声帯の層のつくりなど別の要素も調べる必要があると結論づけています。声帯は表面の粘膜から奥の筋肉まで何層にも重なっていて、思春期にはこの重なり方も大人の形に変わっていきます。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者が2021年に発表したコンピューターの模型の実験では、声帯の大きさが声の高さに、厚みが声の音色に強く効いていました。声変わりは、弦が少し長くなるだけの話ではないようです。
声変わりはいつ始まる?

男子は13〜15歳、女子は11〜13歳ごろ
相模原協同病院の病児保育室だよりは、声変わりの時期を男の子で13〜15歳くらい、女の子で11〜13歳くらいとしています。早い子は小学校の高学年で始まり、遅い子は高校生になってもまだ、ということもある。KidsHealthも、多くの子は11〜14歳の間に声が変わり始めると書いています。文部科学省の学習指導要領の解説も、多くの生徒が小学校高学年から中学校で変声期を迎えるという書き方です。
デンマークの730人では平均13.6歳
もっと細かい数字もあります。コペンハーゲンの学校に通う男の子730人を2006年から2014年まで調べた研究(2019年発表)では、声変わりの平均は13.6歳でした。精巣が大きくなり始めてから、およそ2年後に声が変わる計算です。声変わりは、思春期の変化の中でも後半にやってくる出来事だと分かります。
体格のいい子ほど早まる傾向
同じ研究では、年齢のわりに体格指数(BMI)の高い子ほど声変わりが早い傾向も出ました。デンマーク王立の少年合唱団の463人を調べた別の研究(2007年)では、8歳の時点で最も体の重いグループが、最も細いグループより早く声変わりを迎えやすいという結果でした。その確率はおよそ1.7倍です。この合唱団では1994年から2003年の10年間で、声変わりの年齢そのものも早まっていました。
どのくらい低くなる?

男子の話し声は250ヘルツ台から100ヘルツへ
声変わりで男子の声は「1オクターブ下がる」とよく言われます。先ほどのフィンランドの研究では、思春期を通して男子の話し声が100ヘルツまで下がっていました。250ヘルツ台からの変化なので、1オクターブ(周波数が半分)をさらに超える下がり方です。女子のほうは213ヘルツまでの下がり幅にとどまりました。
研究の数字を、男女別に書き出してみます。
| 8歳ごろ | 思春期のあと | 下がった幅 | |
|---|---|---|---|
| 男子 | 259ヘルツ | 100ヘルツ | 1オクターブより大きい |
| 女子 | 253ヘルツ | 213ヘルツ | 半音3つ分ほど |
子どものころはほとんど同じだった2人の声が、思春期を境に大きく分かれていく。表の左の列と右の列を見比べると、大きく動いたのはほぼ男子の側だけでした。
変わりきるまでに数か月から1年ほど
声が落ち着くまでの長さは、人によってかなり違います。相模原協同病院のたよりは、だいたい3〜11か月ほどの変声期を経て大人の声に移り、長い子は1年以上かかるという見立てです。KidsHealthも、すぐに変わる子もいれば何年かかけて変わる子もいると書いています。毎日聞いている家族より、久しぶりに会った親戚のほうが変化に気づきやすいのはこのためでしょう。
声が裏返るのはなぜ?

声帯の成長に筋肉の調節が追いつかない
声変わりの最中に声がかすれたり裏返ったりするのは、急に大きくなった声帯を、発声を調整する筋肉がまだ思うように扱えないからです。相模原協同病院のたよりが挙げる症状は、ガラガラ声・かすれ声・のどの痛み・痰(たん)が絡む・咳が出る、といったもの。風邪とよく似ていて、間違えられることもあるそうです。
初めて裏声が出る時期が折り返し点
声が急に裏声に跳ねるのは、声変わりがちょうど真ん中まで来たしるしと考えられています。英国の合唱研究者マーティン・アシュリー氏は、思春期の中ほどに初めて裏声の音が混じるようになると書いています。デンマーク王立の少年合唱団の研究も、この初めての裏声を「声変わり」の目印として数えていました。
無理に高い声や大きな声を出さない
この時期は声帯の震え方が不安定です。相模原協同病院のたよりは、かすれたまま無理に高い声や大きな声を出すと声帯を傷め、変声期が過ぎてもかすれ声が残るおそれがあると注意しています。声の調子が悪い日は、出る音域で小さめに歌うくらいがちょうどいいのです。
女の子にも声変わりはある?

下がるのは半音3つ分ほど
声変わりは第二次性徴の一つなので、女の子にも起こります。ただ、フィンランドの研究でも女子の話し声は253ヘルツから213ヘルツへの変化で、ピアノの鍵盤なら半音3つ分ほど。ドがラに下がる程度の差です。のどの見た目もほとんど変わらないので、本人も周りも気づかないまま終わることが多くなります。
喉頭が縦に伸びて声の幅が広がる
女の子の喉頭も育ちますが、伸び方が違います。1957年の看護学雑誌の解説は、女子の喉頭は主に縦に伸びるので声帯自体の変化は比較的少ないとしていました。相模原協同病院のたよりも、女の子は声帯がやや上下に伸びて声域が広がり、大人の女性らしい声になると説明しています。低くなるというより、響きが落ち着いて出せる音の幅が広がる変化です。
学校の音楽では変声期への配慮が決まっている

学習指導要領が心の面まで気にかけるよう求める
中学校の音楽の授業には、変声期について国の決まりがあります。文部科学省の中学校学習指導要領は、変声期の生徒を含む全ての生徒の心理的な面にも配慮するよう求めています。変声中の生徒には、適切な声域と声量で歌わせることも書かれました。2017年の改訂では、変声の最中だけでなく、その前後の生徒への配慮も加わっています。
性別によらず誰もが体験する成長の一つ
同じ解説は、変声を健全な成長の一過程であり、性別によらず誰もが体験することだと気づかせるよう書いています。変声前・変声中・終わりかけの生徒が一つの教室に混じり、それぞれが不安を抱えているかもしれないからです。合唱では発声だけでなく気持ちの面も考えてパートを分け、今の自分の声で歌うことを大切にする指導が求められています。
バッハの合唱団では17歳まで声変わりしなかった?

学校の記録から出された「17歳」
作曲家のバッハは、ドイツ・ライプツィヒの聖トーマス教会で少年たちの合唱団を率いていました。この合唱団の記録を調べた音楽学者スティーブン・ドー氏は1970年、1727〜49年の少年たちの声変わりの真ん中は平均17〜17歳3か月ごろだったという論文を出しています。1959年のロンドンの少年の13.3歳と比べ、昔はずいぶん遅かったという話として広まりました。
2年ほど多く見積もった可能性がある
ところが、この数字には疑問が出ています。前出のアシュリー氏の論文によると、ドイツの研究者アンネ=クリスティーネ・メッケ氏が2007年の本で、ドー氏の推計はおよそ2年多く見積もっている可能性があると指摘しました。すると15歳3か月ほどになり、今の研究で分かっている思春期の早まり方とも食い違いが小さくなります。
アシュリー氏はさらに、ソプラノを歌っていた少年がみな声変わり前だったという前提も疑っています。15歳の少年が、話し声は低くなっていても裏声でソプラノを歌っていた、という見方です。
声変わり後も高い声が続くなら耳鼻咽喉科へ

変声障害と呼ばれる状態がある
のどの形には問題がないのに、思春期を過ぎても子どものころの高い声のままで話し続ける状態があります。変声障害と呼ばれるもので、男性に多い悩みです。声帯は大人の大きさに育っていても、高い声を出す筋肉の使い方が習慣として残ってしまうのが一因と考えられています。低くなった自分の声になじめない、という気持ちの面が関わる場合もあるそうです。
治療は手術でなく発声の練習が中心
国際医療福祉大学東京ボイスセンターの渡邊雄介医師は、声帯にポリープなどの病変がない声の悩みは、手術でなく発声の練習で治すのが基本だと解説しています。変声障害に使われる方法の一つが、胸に手を当てて同じ高さで「アー」と声を出し続け、地声を鍛える練習です。声のかすれや出しにくさが長引くときは、内科より耳鼻咽喉科に相談するほうが近道になります。
声変わりは、のどの楽器がひと回り大きく作り替えられる数か月から1年ほどの工事期間です。裏返る声も、かすれる声も、工事中の音にすぎません。あなたの声が今の高さに落ち着いたのは、何歳のころだったでしょうか。
参考
- 文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 音楽編」
- 相模原協同病院 病児保育室「みどりっこだより」vol.38(2023年5月)
- Vuorenkoski V, et al. Fundamental voice frequency during normal and abnormal growth, and after androgen treatment. Archives of Disease in Childhood, 1978
- Busch AS, et al. Voice break in boys: temporal relations with other pubertal milestones and likely causal effects of BMI. Human Reproduction, 2019
関連記事



