道ばたの銀杏(ぎんなん)も公園のどんぐりも、落ちていれば自由に持ち帰ってよいわけではありません。民法では、木から落ちた実も木の持ち主のものと考えます。公園や街路樹なら自治体のもの。山の栗やきのこを無断で持ち帰れば、「森林窃盗」という犯罪に問われるおそれもあります。銀杏は食べすぎによる中毒にも注意が必要です。
※ この記事は一般的な制度・健康情報の解説です。実際の可否や対応は場所・状況によって異なり、最終的には公園や森林の管理者、医療機関などへの確認が必要です。
落ちた木の実は誰のもの?

木から離れた実も「木の持ち主」のもの
民法には、木の実のような「天然果実(てんねんかじつ)」の行き先を決めた条文があります。第89条によると、天然果実が元の木から離れた時、それは「収取する権利を持つ人」のものになります。その権利を持つのは、普通は木の持ち主です。枝から落ちた瞬間に、その実も木の持ち主のものになるという考え方です。
※ 天然果実とは、果物や木の実・牛の乳のように、物の使い方に沿って自然に生み出される産物のことです。収取(しゅうしゅ)は「収穫して自分のものにすること」を指します。
地面に落ちても持ち主は変わらない
実が地面に転がっても、それだけで持ち主がいなくなるわけではありません。財布を道に落としても持ち主の物であるのと同じで、落ちた銀杏やどんぐりにも、もともとの持ち主がいます。「落ちている=誰のものでもない」という感覚は、法律の考え方とは少しずれているのです。
木の実が誰のものでもない場面はまれ
民法には「持ち主のいない動産は、自分のものにするつもりで手にした人のものになる」という決まりもあります。ただ、日本の土地には普通は所有者がいて、そこに生える木にも持ち主がいます。山奥の木の実であっても、拾った人のものになる場面は思ったより少ないと考えておくのが無難でしょう。
公園のどんぐりは拾っていい?

都立公園の条例は「植物の採集」を禁止
公園の木もその実も、公園を管理する自治体のものです。東京都立公園条例は公園内でしてはいけない行為を並べていて、その中に「植物を採集しまたは損傷すること」が入っています。違反した人には、5万円以下の過料(かりょう)を科すという定めもあります。
※ 過料とは、行政上のきまりに違反した人に科されるお金の制裁のことです。刑罰の「罰金」とは別の仕組みです。
どんぐり拾いがとがめられにくい理由
それでも、子どもが数個のどんぐりを拾って注意されることはまずありません。量が少なく、木を傷めるわけでもないため、実際には黙認されていることが多いと考えられます。とはいえ「許されている」のとは違い、ルールの上ではグレーな行為です。
たくさん集めるなら管理事務所に一声
工作や園の行事などで大量に集めたいときは、公園の管理事務所に前もって聞いておくと安心です。条例の中身や管理者の方針は公園ごとに違うので、同じどんぐり拾いでも扱いが変わることがあります。入口の看板の注意書きにも、さっと目を通しておきたいところです。
街路樹の銀杏を拾うと罪になる?

歩道に落ちた銀杏も自治体のもの
歩道のイチョウ並木は、道路を管理する国や自治体が植えた街路樹です。先ほどの民法の考え方に沿えば、枝になっている実も歩道に落ちた実も、管理する自治体のものになります。弁護士ドットコムニュースの解説(2013年)も、落ちた銀杏は原則として自治体の所有物だと説明していました。
枝からもぐのと落ちた実を拾うのは別
同じ解説によると、木から離れていない実を無断で採るのは窃盗罪にあたると考えられます。落ちた実の場合は、自治体がまだ手放していないといえるかどうかが分かれ目です。手放していなければ、占有離脱物横領(せんゆうりだつぶつおうりょう)の問題になりうるとされています。
※ 占有離脱物横領とは、落とし物など持ち主の手を離れた物を、自分のものにしてしまう罪のことです。
回収されない実なら拾ってよいという見方
一方で、自治体が落ちた銀杏を集める予定もなく放っておかれているのがはっきりしている実なら、拾っても罪にはならないという見方も示されています。ただし、条例や方針は自治体ごとにまちまちです。いちばん確実なのは、道路や公園の管理者に前もって聞いておくことでしょう。
山の栗やきのこは採ってもいい?

森の産物を盗むと「森林窃盗」
山の森林にも、個人や会社、国や自治体といった持ち主がいます。森林法197条は、森林でその産物を盗んだ人を「森林窃盗(しんりんせっとう)」とし、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を科すと定めています。山で拾った栗やきのこを無断で持ち帰れば、この罪に問われるおそれがあるわけです。
山菜・きのこから石や土まで対象
林野庁四国森林管理局の案内では、森林窃盗に問われうる産物として、樹木・山菜を含む草の仲間・きのこ・岩石・土砂が挙げられています。「木を切らなければ大丈夫」ではありません。足もとの石ひとつまで、森の産物にあたるのです。
国有林に入るときは入林届
四国森林管理局は、国有林に入る人に、事前に入林届を出すなどの手続きを求めています。個人や会社の山なら、持ち主の許しが必要です。山の持ち主が分からないときは採らずにおくのが、いちばん安全な選び方といえます。
保安林ではなぜ罰が重い?

保安林なら5年以下・50万円以下
水源を守ったり土砂崩れを防いだりする役割のために指定された森林を、「保安林(ほあんりん)」と呼びます。保安林の区域内での森林窃盗は、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。普通の森林より重い罰が定められているのは、守る役目を持つ森だからでしょう。
国有林のおよそ9割は保安林
四国森林管理局によると、国有林のおよそ9割が保安林に指定されています。保安林の中では、許可なく木を傷つけたり下草を採ったりすることも禁じられています。国有林で何かを採るなら、ほぼ保安林の中にいると考えておいたほうがよさそうです。
「懲役」は2025年から「拘禁刑」に
森林窃盗の罰は、以前は「懲役」と書かれていました。2025年6月1日に懲役と禁錮(きんこ)が廃止されて「拘禁刑(こうきんけい)」にまとめられ、森林法の条文も書き換わっています。古い案内では「懲役」のままのこともありますが、年数と罰金の上限は同じです。
隣の家から落ちてきた実を食べてもいい?

自分の庭に落ちても隣の人の実
隣の家の柿や栗が自分の庭に落ちてきたときも、考え方は同じです。木の実も枝から離れた時点で木の持ち主のものになるので、落ちた場所が自分の庭でも隣の人の実と考えられます。黙って食べるより、ひと声かけて了解をもらうほうが角が立ちません。
はみ出した枝は2023年から自分で切れる場合も
2023年4月の民法改正で、境界を越えてきた枝は、次のような場合に自分で切り取れるようになりました。
- 持ち主に切るよう頼んだのに、相当の期間内に切ってくれないとき
- 持ち主が誰か分からない、または居場所が分からないとき
- 急いで切らなければならない事情があるとき
あきる野市の案内では、「相当の期間」は基本的に2週間程度とされています。切るのにかかった費用も、基本的には木の持ち主に請求できるそうです。
枝の実をもぐのはやめておく
枝を切れるようになっても、そこについた実まで自分のものにしてよいわけではありません。枝の実をもげば、隣の人の物を勝手に取ったことになりかねないからです。「実が落ちて困る」というときも、まずは隣の人と話し合うのが近道でしょう。
銀杏の実を素手で触るとどうなる?

果肉の「ビロボール」でかぶれる
銀杏のくさい果肉の部分(外果皮)には、ビロボールという成分が含まれています。東京都保健医療局の「食品衛生の窓」によると、この成分はアレルギー性の皮膚炎のもとになるそうです。たくさん拾うほど、手が果肉に触れる時間も長くなります。
拾うときも下処理でも手袋を
銀杏を拾うときは、使い捨てのビニール手袋やゴム手袋をしておくと安心です。食べられるようにするには、水につけて果肉をふやかし、もみ洗いして種を取り出す方法がよく知られています。この下処理でも果肉に触れ続けるので、最後まで手袋は外さないでおきましょう。
銀杏は何個食べると中毒になる?

毒の正体は4′-O-メチルピリドキシン
日本中毒情報センターによると、銀杏には4′-O-メチルピリドキシンという有毒成分が含まれています。ビタミンB6と形が似ていて、その働きを邪魔することで神経が異常に興奮し、嘔吐やけいれんが起こると考えられています。毒が昔から知られていた割に、この成分が突き止められたのは1980年代に入ってからでした。
焼いても煮ても毒は消えない
この成分は熱に強く、炒っても煮ても消えません。「よく火を通したから大丈夫」とは言えないのが、銀杏のやっかいなところです。殻ごと炒って塩をふる定番の食べ方でも、食べた数がそのまま体に響きます。
5歳以下で6〜7個の例も
何個までなら安全、という線は引けません。もともとビタミンB6が足りているかどうかで、中毒の起きやすさが変わるからです。日本中毒情報センターは、6〜7個食べてけいれんが出た5歳以下の子どもの例を把握しており、小さな子どもには食べさせないよう呼びかけています。
大人でも中毒は起きる
大人も安心はできません。東京都の「食品衛生の窓」には、41歳の女性が60個食べて中毒になった例が載っています。偏った食事や飲酒でビタミンB6が足りない状態だと、大人でも中毒を起こすことがあるとされています。
銀杏中毒の相談はいつ・誰から多い?

10年で281件、11月がいちばん多い
2013〜2022年の10年間に、日本中毒情報センターの「中毒110番」には銀杏の中毒を心配する相談が281件寄せられました。月別では11月の74件が最も多く、12月の58件と10月の57件が続きます。銀杏が店先に出回る時期と、相談が増える時期がぴたりと重なっているわけです。
相談の7割は5歳以下の子ども
281件のうち193件、およそ7割が5歳以下の子どもについての相談でした。なかでも1歳代が87件、2歳代が67件と、ごく小さな子が目立ちます。20歳以上の大人の相談も71件あり、その7割近くで吐き気や嘔吐などの症状が出ていました。
症状が出たら医療機関へ
同センターは、症状がある場合はけいれんがくり返し起こるおそれがあるとして、必ず医療機関を受診するよう呼びかけています。受診すべきか迷うときは、一般向けに24時間365日受け付けている「中毒110番」に電話で相談できます。
実のならないイチョウ並木もある?

御堂筋の新しいイチョウは雄の木
イチョウには雄の木と雌の木があり、銀杏がなるのは雌の木だけです。大阪の御堂筋では1933年から1937年にかけて、928本のイチョウが植えられました。大阪市は、新しく植えるイチョウには景観などを考えて雄の木を選んでいると説明しています。
イチョウは近い仲間のいない植物
日本中毒情報センターによると、イチョウは1科1属1種で、近い仲間の植物がありません。そのため、銀杏と同じ有毒成分を持つ植物はほかに知られていないそうです。あの中毒は、イチョウという木だけが持つ性質ともいえます。
茶わん蒸しの数個で症状が出た例は無し
同センターは、茶わん蒸しに入っている程度の銀杏を食べて症状が出た例は把握していないとしています。それでも小さな子どもには食べさせないほうがよい、というのが同センターの立場です。大人なら数を決めて味わえば、秋の味覚として十分に楽しめます。
「落ちているから自由に拾える」と思いがちな木の実にも、たいていは持ち主がいます。公園なら自治体、山なら森の持ち主、隣の庭なら隣の人。誰の木の実かを一瞬だけ考えてから手を伸ばし、銀杏は食べる数まで決めておく。その小さな手間で、秋の楽しみはぐっと安心なものになります。
参考
関連記事







