ジンギスカンの起源と歴史——モンゴルにない「日本生まれの羊肉料理」

身近な食文化
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「ジンギスカン」という名前からモンゴル発祥を連想しがちですが、この料理は日本で生まれた羊肉料理です。モンゴルにジンギスカンという料理は存在せず、北海道を中心に発展した日本独自の鍋料理です。名前の由来についても諸説あり、「モンゴルの英雄チンギス・ハン(ジンギスカン)にちなんで命名された」という説が有力ですが、確実な記録は残っていません。

ジンギスカンの歴史——年表

日本における羊肉食とジンギスカン料理の変遷を整理しました。

時期できごと
明治時代政府が羊毛の国産化を推進。北海道に緬羊(めんよう)の牧場を設置し、羊の飼育が始まる
大正〜昭和初期軍の食料として羊肉が注目される。「緬羊奨励会」が羊肉の普及活動を開始
1931年頃「ジンギスカン鍋」という名称が文献に登場。凸型のドーム鍋で羊肉を焼く料理として記録される
戦後(1950年代)北海道でジンギスカンが庶民の食文化として定着。ビール園での提供が始まり、観光客にも広まる
1960〜70年代「サッポロビール園」をはじめとする施設でのジンギスカンが全国的に知られるように
現在北海道の郷土料理として定着。「タレ漬け」「生ラム」「マトン」など多様なスタイルが共存

日本における羊肉食の歴史は明治時代から始まりますが、「ジンギスカン」という料理スタイルが確立したのは昭和に入ってからのことです。

発祥——なぜ「ジンギスカン」という名前か

北海道の羊毛産業と羊肉料理の誕生

ジンギスカン料理の背景には、明治政府の羊毛国産化政策があります。日本は衣料用の羊毛をほぼ全量輸入に頼っていたため、国内で羊を育てて羊毛を自給しようとする政策が明治・大正期に進められました。北海道は広大な牧草地があり、羊の飼育に適していたことから、多くの緬羊(めんよう)牧場が作られていったのです。

羊毛を取った後の羊は食肉として活用されましたが、当時の日本人には羊肉を食べる習慣がありませんでした。羊肉の臭みを抑えながらおいしく食べる方法として、醤油・みりん・にんにく・しょうがで作ったタレに漬け込んで焼く調理法が生まれ、これがジンギスカンの原型になったとされています。

「ジンギスカン」という名前の由来

「ジンギスカン」という名称の由来には複数の説があります。最も広く知られているのは「モンゴルの英雄チンギス・ハン(日本語でジンギスカン)にちなんだ名前」という説です。羊の肉を焼く料理がモンゴルの遊牧民文化を連想させることから、このような命名がなされたと考えられています。

ただし、この名称の発案者や命名の経緯を示す確実な文書は残っていません。1931年に東京の料理店が「成吉思汗鍋(ジンギスカンなべ)」として提供したという記録や、陸軍が羊肉料理を「成吉思汗料理」と呼んでいたという記録など、複数の起源説が並立しています。

ジンギスカン鍋の特徴——ドーム型の理由

ジンギスカン料理に使う専用の鍋は、中央が盛り上がったドーム型(凸型)という独特な形が特徴です。この形には実用的な理由があります。

中央の盛り上がった部分で肉を焼き、その周囲にある溝や傾斜した部分に野菜を置いて、肉から出た脂と肉汁が流れ込んで野菜を煮ながら蒸し焼きにする——このような構造になっています。肉は余分な脂が落ちてさっぱりと焼き上がり、野菜は肉汁を吸っておいしくなる。一枚の鍋で肉と野菜を同時においしく調理するために生まれた形です。

このドーム型の鍋は北海道で独自に発展したとされており、一説には「兵士が鉄兜(かぶと)を使って肉を焼いた」というモンゴルの習慣をイメージして作られたとも言われています。ただしこの逸話も確認された記録はなく、後世に付け加えられたエピソードである可能性が高いでしょう。

豆知識——「タレ漬け」vs「生ラム」、北海道の2大スタイル

漬け込むか、漬け込まないか

北海道のジンギスカンには、大きく分けて2つのスタイルがあります。「タレ漬け(つけダレ)」スタイルと「生ラム(焼いてからタレをつける)」スタイルです。

スタイル特徴主な産地・地域
タレ漬けスタイルあらかじめ醤油ベースのタレに漬け込んだマトン(成羊)や羔羊(こひつじ)を使用。タレが肉に染み込み独特の風味札幌・滝川など道央・道北
生ラムスタイル漬け込まない生のラム肉を焼き、食べるときにタレにつける。肉本来の味を楽しむ函館・旭川など。近年全国で人気

「生ラム」のラムとは生後1年未満の子羊の肉のことで、マトン(生後2年以上の成羊)よりもクセが少なく柔らかいのが特徴です。かつては「マトン=ジンギスカン」のイメージが強かったですが、2000年代以降は生ラムが全国的に人気を集め、ジンギスカンブームの火付け役になりました。

モンゴルとは直接関係のない日本生まれの羊肉料理が、「ジンギスカン」というモンゴルの英雄の名前を借りて北海道の代表料理になった——この歴史の重なりが、ジンギスカンという料理名の面白さのひとつです。