電線にずらりと並ぶスズメが平気なのは、両足が同じ1本の電線にのっていて、足と足のあいだに電気を押し流す「差」がほとんどないからです。この差を電位差といい、差がなければ電流は体に流れません。人が危ないのは、地面に立ったまま電線に触れると、電線から体を通って地面へ抜ける通り道ができてしまうためです。
電気は「差」があるところにだけ流れる

電位差は電気の「高低差」
電気が流れるには、電位の高いところと低いところの差が要ります。水が高いところから低いところへ流れるのと同じで、高低差がなければ水は動きません。電気の世界ではこの高低差を電位差と呼び、その大きさをボルトで表します。電圧が高いとは、押し流す力の差が大きいという意味です。
同じ1本の電線の上は差がほぼゼロ
電線の鳥を思い出すと、両足は数センチしか離れていない同じ電線の上です。電線そのものが何千ボルトであっても、右足と左足の位置の電位はほとんど同じになります。押し流す差がないので、鳥の体に電流が入っていく理由がありません。高い電圧の電線にとまっても無事でいられる、単純なしくみがここにあります。
電流は通りやすい電線を選んで進む
もうひとつの理由は、通りやすさのちがいです。金属の電線は電気をとてもよく通し、鳥の体はそれに比べてずっと通しにくい。電流は抵抗の小さい道を選ぶ性質があるため、わざわざ鳥の脚を回り道せずに電線をまっすぐ進みます。鳥は電線の上で、電気の流れからすっかり外れた場所にいるわけです。
電柱の電線は何ボルト?

発電所から家まで電圧を段階的に下げる
発電所でつくられた電気は、50万〜27万5,000ボルトという非常に高い電圧で送り出されます。電圧が高いほど、大量の電気を無駄なく遠くへ運べるからです。その後は変電所をいくつも経て少しずつ下げられ、15万4,000ボルト→6万6,000ボルト→2万2,000ボルトと段を降りていきます。
町の電柱の上は6,600ボルト
最後の配電用変電所で6,600ボルトまで下げた電気が、町の電柱に張られた配電線を流れます。電柱の上にあるバケツのような箱は柱上変圧器で、ここで家庭用の100ボルトと200ボルトに変えてから各家へ引き込む仕組みです。スズメがとまっている電線にも、家庭のコンセントの数十倍の電圧がかかっている場合があります。
人が触れるとなぜ感電する?

地面とつながると通り道ができる
鳥と人を分けるのは、地面とつながっているかどうかです。地面の電位はほぼゼロなので、高い電圧の電線とのあいだには大きな差があります。地面に立つ人が電線に触れると、手から体を通って足から地面へ抜ける道ができ、その差にしたがって電流が一気に流れます。熊本県では、持っていた釣り竿が鉄道の架線に触れて感電した事故も報じられました。
数十ミリアンペアで命に関わる
体に流れる電流が0.5〜1ミリアンペアほどで、人はようやくピリッと感じます。10〜20ミリアンペアになると筋肉が勝手に縮み、握った電線を自分の意思で離せなくなることがあります。50ミリアンペアで呼吸や心臓の動きに異常が出るおそれがあり、100ミリアンペアでは心臓が止まりかねない危険な状態です。1アンペアのわずか10分の1で、命が左右されるのです。
心臓を通る経路がとくに危ない
同じ電流でも、体のどこを通るかで危険の度合いが変わります。厚生労働省の解説によれば、電気が入る場所と出ていく場所のあいだに心臓があると危険です。心臓が細かく震えて血液を送れなくなる心室細動につながるおそれがあるといいます。手から足へ抜ける経路は、その途中に心臓をはさみやすい形です。
触れなくても感電することがある

高い電圧は空気を飛び越える
電圧がとても高いと、電線に触れる前に空気を飛び越えて電気が流れる放電が起こります。厚生労働省は、クレーンの腕やワイヤーが送電線・配電線に近づくだけで感電するおそれがあるとして、離す距離の目安を示しています。低圧で1メートル以上、高圧で1.2メートル以上、特別高圧では2メートル以上です。
鯉のぼりや釣り竿は電線から離して
九州電力は春の注意事項として、鯉のぼりを電線から十分に離れた場所に立てるよう呼びかけています。電線にかかった鯉のぼりを竹竿で取ろうとしたり、電柱に登ったりするのは感電の原因になる行為です。何かが引っかかったときは自分で取らず、電力会社に連絡すれば取り外しに来てくれます。長い釣り竿を電線の下で振り上げるのも、同じ理由で避けたい動きです。
切れて垂れた電線には近づかない
台風のあとなどに切れて垂れ下がった電線は、見た目では電気が来ているかどうか分かりません。地面に落ちていても、触れたり近づいたりすれば感電するおそれがあります。見つけたらその場を離れ、自分で片付けようとせずに電力会社へ知らせるのが安全です。
感電してしまう鳥はどんな鳥?

北海道では4年で19羽の希少なワシ類が死んだ
電線の鳥がいつも安全なわけではありません。釧路湿原野生生物保護センターの獣医師らの報告によると、2002〜2005年の4年間に北海道で19件の感電事故が確かめられ、どれも希少な猛禽類(もうきんるい)が1羽ずつ死んでいました。内訳はオオワシが10件で最も多く、オジロワシ・クマタカ・シマフクロウが続きます。冬に渡ってくるオオワシが多いため、事故は11月から3月に集中していました。
翼が電線と鉄塔をつないでしまう
事故の8割近くは送電鉄塔で起きていました。死んだ鳥の脚には強いやけどが残っており、鉄塔の腕金にとまった状態で翼が電線に触れたと考えられています。電気は電線から翼と体を通り、脚から鉄塔、さらに地面へと抜けました。地面とつながった鉄塔が、人間の場合の「足もと」と同じ役をしてしまったわけです。
大きな鳥ほど危ない理由
北海道では、6万6,000ボルトなど比較的低い電圧の送電設備で事故が多く起きていました。こうした設備は電線と鉄塔の間隔が短く、翼を広げると2.2〜2.5メートルにもなるオオワシなら簡単に両方へ届いてしまいます。電圧のより高い設備は間隔も広くとるため、かえって事故は起きにくいと報告されています。スズメには無縁でも、ワシには届いてしまう距離なのです。
鳥を守るための電柱の工夫

安全な止まり木を別に用意する
ワシたちは獲物を探すため、見晴らしのよい高い場所にとまる習性があります。木の少ない場所では、電柱や鉄塔が格好の止まり木になってしまいます。そこで北海道電力は、配電柱の上に鳥が安全にとまれる止まり木を取り付けました。危ない場所には逆にとまれないよう障害物を置き、鳥を安全な場所へ誘う方法です。
カラス用の器具ではワシを止められない
それまで電柱には、カラスなど小型の鳥向けの止まり防止器具が多く使われていました。ところが体の大きなオオワシやオジロワシには、期待どおりの効果がありませんでした。保護センターでは大きな飼育ケージの中で本物のワシに試してもらいながら、形や色・大きさを一から設計し直した器具を開発しています。
アメリカでは152センチ離す
最も大切なのは、電位差のある金属どうしを鳥の体で届かない距離まで離すことです。イヌワシやハクトウワシがすむアメリカでは、電位差のある金属の間を最低152センチ空けて成果を上げているとされています。離せない場所で使われるのが、電線や金属部分を絶縁物で覆う方法です。
鳥が停電を起こすこともある

カラスの巣にまぎれた針金ハンガー
鳥と電気の関係には、逆向きの困りごともあるのです。九州電力によると、毎年3〜4月になるとカラスやカササギが電柱に巣をつくり始めます。木の枝の代わりに金属のハンガーを運び込むことが多く、それが高圧線に触れると付近一帯が停電してしまいます。ビニールハウスの留め金や1メートルほどの針金、花壇の小さなフェンスまで巣の材料に使われていたそうです。
使わないハンガーは部屋の中へ
九州電力は巣づくりが始まる春を事故防止の重点期間にしています。家庭でできる協力は、ベランダなどに置いたままの使わないハンガーを部屋の中に片付けることです。電柱にカラスの巣や引っかかった物を見つけたときは、最寄りの電力会社の営業所へ知らせるよう呼びかけられています。
電線の鳥が無事でいられるのは、度胸があるからではなく、通り道をつくっていないからでした。同じ鳥でも、翼が鉄塔に届けば命を落とします。危ないかどうかを決めるのは電圧の高さそのものより、電気の入り口と出口を体でつないでしまうかどうか。足もとが地面につながっている人間は、いつでもその出口を持ち歩いているのです。
参考
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「電撃」
- 齊藤慶輔・渡辺有希子「北海道における希少猛禽類の感電事故とその対策」日本野生動物医学会誌 11巻1号(2006)
- 資源エネルギー庁 エネルギー教育副教材「電気の道のりをさかのぼってみよう」
- 九州電力 熊本支社「春季公衆感電事故及び停電事故防止PRへの協力のお願い」(2016)
関連記事






