「あの店は敷居が高い」。こう言うとき、多くの人は「高級すぎて入りにくい」という意味で使っています。
ところが、「敷居が高い」の本来の意味は、それとはまるでちがいます。じつは、お金や格とは関係のない言葉なのです。
「敷居が高い」とはどういう意味か
先に、本来の意味と誤用を整理しておきましょう。
| 問い | 答え |
|---|---|
| 本来の意味は? | 不義理や面目なさがあって、その人を訪ねにくい |
| 由来は? | 戸の下の横木「敷居」をまたぎにくい、という気持ち |
| 広まった誤用は? | 高級・上品すぎて入りにくい |
| どちらが多い? | 調査では誤用のほうが多数派 |
くわしく見ていきましょう。

本来は「不義理で行きにくい」こと
敷居は戸の下の横木
敷居(しきい)とは、引き戸や障子の下にある横木のことです。「敷居が高い」は、この敷居が高く感じられてまたぎにくい、という気持ちを表した言葉です。お金の話ではなく、心理的なためらいを言いあらわしています。

引け目があって訪ねづらい
ではどんなときに使うかというと、相手に不義理をしたり、迷惑をかけたりした後の場面です。「ごぶさたして敷居が高い」のように、引け目があって顔を出しにくい気持ちを指します。けっして、お店が立派すぎる、という意味ではありません。
広まった誤用「高級で入りにくい」
いつのまにか別の意味に
ところが今では、「高級すぎる」「上品すぎる」お店に入りにくい、という意味で使う人が増えました。たしかに「入りにくい」という感覚は重なるため、自然と意味がずれていったようです。本来は人間関係の話だったものが、お金や格の話に変わってしまったのです。

半数以上が誤用で覚えている
文化庁の調査でも逆転
この変化は、調査にもはっきりあらわれています。文化庁の2019年度「国語に関する世論調査」では、本来の意味で理解している人は約29%にとどまりました。いっぽうで、「高級で入りにくい」という誤用で覚えている人は、56%にのぼっています。いまや、本来の意味のほうが少数派なのです。

迷ったら言いかえる
「ハードルが高い」「気後れする」
もし「高級で入りにくい」と言いたいなら、別の言葉に置きかえるのが安心です。「ハードルが高い」「気後れする」「気軽には入れない」などが、誤解なく伝わります。本来の意味で使いたいときは、「顔を出しづらい」と言いそえると、ぐっと伝わりやすくなるはずです。

豆知識——「役不足」も同じ取り違え
意味が逆方向に取り違えられる言葉は、ほかにもあります。たとえば「役不足」は、本来「実力に対して役目が軽すぎる」という意味なのに、「力不足」と混同されがちです。「敷居が高い」も「役不足」も、似ているようで本来とずれた意味が広まった、よく似た例といえます。

「敷居が高い」は、もともと相手への引け目から生まれた、人情味のある言葉でした。意味の移り変わりそのものは自然なことですが、本来の使い方を知っておくと、言葉の奥行きが少し見えてきます。それが「お金の話」なのか「気持ちの話」なのかを意識するだけでも、言葉の使い方は少し豊かになります。

