テレビのリモコンや体温計、車のスマートキーを開けると出てくる、コイン形の小さな電池。その表面に刻まれた「CR2032」という文字列は、メーカーが適当に振った製品番号ではありません。左から順に読んでいくと、電池の中身・形・大きさが、そのまま書き込まれています。
いわば型番そのものが、電池の短い自己紹介文。読み方さえ覚えれば、売り場で「どれを買えばいいか」も一目で見分けられるのです。
早わかり——「CR2032」は左から中身・形・サイズの順に読む

実はこの5文字、一字ずつが別々の役割を担っています。CからRへ、そして数字へ——左から順に意味を分解すると、こうなります。
| 記号 | 表すもの | CR2032の場合 |
|---|---|---|
| C | 電池の中身(正極の材料) | 二酸化マンガンリチウム(約3V) |
| R | 電池の形 | 円形(Round) |
| 20 | 直径 | 20.0mm |
| 32 | 厚さ | 3.2mm |
中身は二酸化マンガンリチウムだから電圧は約3ボルト、形は丸く、大きさは直径20ミリ・厚さ3.2ミリ。たったこれだけの情報が、5文字に畳み込まれているわけです。ここから一つずつ、その読み方をほどいていきます。
最初の「C」——電池の“中身”を表す文字

先頭のアルファベットは、電池の正極(プラス側)にどんな材料を使っているかを示す文字です。この一文字を見るだけで、その電池がおよそ何ボルトなのかまで見当がつきます。
Cは二酸化マンガンリチウムの印
電圧は乾電池の約2倍の3ボルト
「C」は、正極に二酸化マンガン、負極にリチウムを使ったタイプを表します。公称電圧は約3ボルト。単3や単4といった一般的な乾電池が1.5ボルトですから、およそ2倍の電圧を、はるかに小さな体で出していることになります。
※ 二酸化マンガンリチウム電池とは、正極に二酸化マンガン、負極に金属リチウムを使ったボタン形の電池です。小さくても電圧が高く、自然放電が少なくて長期保存に強いため、時計や電子機器のバックアップ電源に広く使われています。
よく似た「B」との違い
まれに「BR2032」という、Cが「B」に変わっただけの型番を見かけます。こちらは正極にフッ化黒鉛を使ったリチウム電池で、電圧はCと同じ約3ボルト。より高温に強い一方で容量はやや控えめという性格の違いがあり、産業機器などで使い分けられています。頭の一文字が違えば、中身の化学が違うというサインです。
頭文字が変わると中身が変わる
L・S・Pはそれぞれ別の化学
先頭の文字は「C」だけではありません。電卓や玩具でおなじみの「LR44」の「L」はアルカリ(約1.5ボルト)、腕時計に多い「SR」の「S」は酸化銀(約1.55ボルト)、補聴器用の「PR」の「P」は空気亜鉛(約1.4ボルト)を指します。同じ丸い電池でも、頭文字が違えば電圧も用途も別物なのです。
頭文字と中身の早見表
主な頭文字を、化学の種類と電圧で並べると次のようになります。売り場で見かける記号のほとんどは、この表のどれかに当てはまります。
| 記号 | 中身(正極の系統) | 電圧の目安 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| C | 二酸化マンガンリチウム | 約3V | CR2032 |
| B | フッ化黒鉛リチウム | 約3V | BR2032 |
| L | アルカリ(二酸化マンガン) | 約1.5V | LR44 |
| S | 酸化銀 | 約1.55V | SR44 |
| P | 空気亜鉛 | 約1.4V | PR44(補聴器用) |
2文字目の「R」——「丸い」という意味

2番目のアルファベットが表すのは、電池の形です。ボタン電池でよく見かける「R」は、その形が丸いことを示す記号にあたります。
RはRound(円・円筒)の頭文字
ボタン電池もコイン電池も“R”
「R」は英語のRound、つまり丸い形を意味します。上から見て円形をしていれば、薄いコイン形でも厚みのあるボタン形でも、記号はそろって「R」です。実は単3・単4のような筒形の乾電池も、円筒であることを表す「R」を型番に持っています(単3の正式名は「LR6」)。
角形や特殊な形には別の記号
丸くない電池には、別の文字が使われます。たとえば9ボルトの角形電池には、四角い形を表す「F」系の記号が割り当てられています。2文字目を見れば、その電池がおおよそどんな外形をしているのか見当がつくわけです。
「コイン形」と「ボタン形」の呼び分け
薄くて平たいのがコイン形
日常では丸い小型電池をまとめて「ボタン電池」と呼びがちですが、業界では直径に対して薄いものを「コイン形」と区別します。CR2032はまさにその代表で、直径20ミリに対して厚さは3.2ミリ。硬貨のように平べったい姿から、コイン形と呼ばれます。
厚みのある小粒がボタン形
一方、直径に対して背が高い、小さく厚みのあるタイプが「ボタン形」です。腕時計や補聴器に入っている、直径1センチほどの粒がこれにあたります。呼び名は違っても、型番の読み方のルールは共通しています。
「2032」の数字——大きさをミリで告げている

後半の4桁の数字が、この型番のいちばん実用的な部分です。ここには電池の直径と厚さが、ミリメートル単位で書き込まれています。
前2桁が直径、後2桁が厚さ
20は直径20.0ミリ
最初の「20」は、電池の直径がおよそ20.0ミリであることを表します。ちょうど1円玉(直径20ミリ)とほぼ同じ大きさ、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
32は厚さ3.2ミリ(末尾は小数点以下)
続く「32」は、厚さ3.2ミリを表します。数字をそのまま32ミリと読んでしまいそうですが、後半2桁は末尾が小数第一位、つまり「3.2」を意味します。3.2ミリを整数だけで書くために、小数点を省いて「32」と並べているわけです。
数字が読めれば“互換性”が見えてくる
CR2016・CR2025・CR2032は厚みだけが違う
この読み方が分かると、似た型番の関係も見えてきます。次の3つは頭の「CR20」まで共通で、最後の2桁だけが違います。つまり直径はすべて20ミリで同じ、違うのは厚さだけなのです。
| 型番 | 直径 | 厚さ |
|---|---|---|
| CR2016 | 20.0mm | 1.6mm |
| CR2025 | 20.0mm | 2.5mm |
| CR2032 | 20.0mm | 3.2mm |
薄い電池で代用すると接触不良に
直径が同じなので、CR2032の代わりにCR2025がはまってしまうこともあります。ただし厚さが0.7ミリ足りず、電池ホルダーとの接触が甘くなって動作が不安定になりがちです。逆に、指定より厚い電池を無理に押し込むのも禁物。型番の数字は、こうした「入るけれど適さない」組み合わせを避ける手がかりになります。
例外——「LR44」の「44」はサイズではない

ここまでで「数字は直径と厚さ」と説明しました。ところが、同じボタン電池でも「LR44」の「44」は、この読み方が通用しません。ここには型番の“もう一つの系統”が隠れています。
2桁の型番は別系統の呼び名
LR44の正式名は「LR1154」
国際規格での正式な型番は、実は「LR1154」です。この場合は「11」が直径11.6ミリ、「54」が厚さ5.4ミリを表しており、CR2032と同じ「直径+厚さ」のルールで読めます。日常でよく見る「LR44」は、これを短く言いやすくした通称のようなものなのです。
「44」は寸法のミリを直接表さない
つまり「LR44」の「44」は、直径4ミリでも厚さ4ミリでもありません。4桁で寸法を書くCR2032と、2桁の通称で呼ばれるLR44。この2系統が入り混じっているため、「数字=サイズ」という理解だけではときどき足をすくわれます。数字が2桁のときは、サイズの直読みができない——そう覚えておくと安全です。
同じ電池なのに名前が何通りもある
LR44=AG13=L1154…規格ごとの呼称違い
ややこしいことに、まったく同じサイズ・同じ中身の電池が、規格やメーカーによって別の名前で売られていることがあります。LR44の場合、次の呼び名はどれも同じ一つの電池を指すもの。パッケージの表記が違うだけで戸惑わないよう、代表的な別名を並べておきましょう。
| 呼び名 | 由来・体系 |
|---|---|
| LR44 | 一般に広く使われる通称 |
| LR1154 | 寸法を含む正式表記(11.6×5.4mm) |
| AG13 | アルカリボタン電池の商品向け通称 |
| 357・SR44 | 中身を酸化銀に替えた相当品 |
買うときは番号より直径と厚さで確かめる
別名が多い電池を買うときは、型番の丸暗記に頼らず、パッケージに書かれた直径と厚さの実寸を見比べるのが確実です。とくにLRとSRのように、サイズが同じで中身(電圧)が微妙に違う組み合わせは、機器によって向き不向きがあります。迷ったら、いま入っている電池の実物を持って売り場へ行くのがいちばんの近道です。
豆知識——型番が教える、寿命と誤飲の話

型番の読み方が分かると、電池選びだけでなく、安全にまつわる話にもつながっていきます。最後に、知っておくと役に立つ豆知識を2つ添えましょう。
3ボルト系が長持ちしやすい理由
頭文字が「C」のリチウム系は、電圧が高いだけでなく、使わずに置いておいても電気が減りにくいのが特長です。保存中に自然に失われる電気が少ないため、数年単位で電源を保ち続ける必要がある機器と相性がよいのです。マザーボードの時刻や設定を保つバックアップ電池にCR2032が定番なのは、この「置いておいても減りにくい」性質によるところが大きいとされています。
小さすぎる電池の落とし穴——誤飲
CR2032は硬貨ほどの大きさで薄く、乳幼児が口に入れやすい形をしています。万が一飲み込むと、電池と体液が反応し、短時間で内部にやけどのような損傷を起こすことも。危険性は高く、消費者庁なども強く注意を呼びかけているほどです。使用後の電池も交換前の新品も、子どもの手が届かない場所に保管しておきたいもの。小さくて便利な形は、裏を返せばそのまま危うさにもなります。
一見すると暗号のようなCR2032も、読み方さえ知っていれば、中身と形と大きさを律儀に名乗った名札にすぎません。次にリモコンが反応しなくなったら、裏ぶたを開けて刻印を確かめてみる。そこに並ぶ英数字が読めれば、売り場でどの一個を選べばいいかは、もう電池自身が教えてくれています。
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