ほくろはなぜできるのか、シミとの違いは色ではなく細胞だった

目を閉じた泣きぼくろの女性のイラスト からだの話
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ほくろはシミが濃くなったものではなく、色素をつくる細胞そのものが皮膚の一か所に集まってできた小さなできものです。シミが「色がついた状態」なら、ほくろは「細胞のかたまり」。盛り上がるほくろや毛の生えるほくろがあるのも、この違いから説明できます。形や大きさの変化が気になるときは、自己判断せず皮膚科で相談してください。

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  1. ほくろとシミはどこが違う?
    1. シミとそばかすは色が乗っているだけ
    2. ほくろは色をつくる細胞が増えている
    3. 茶色い点を4つ並べて比べる
  2. 肌の色を均一にするメラノサイトの仕事
    1. メラニンは紫外線をさえぎる日傘
    2. 散らばっているから肌の色はそろう
  3. ほくろの細胞はなぜ一か所に集まる?
    1. 母斑細胞は小さな集団をつくる
    2. なぜ固まるのかはまだ分かっていない
    3. 医学的には良性の腫瘍という扱い
  4. 平らなほくろと盛り上がったほくろは何が違う?
    1. 細胞がいる深さで3つに分かれる
    2. 年を重ねると盛り上がって色が淡くなる
  5. 深いところの色素は青く見える
    1. 青色母斑は色素の種類でなく深さの違い
    2. 赤ちゃんのおしりの青あざも同じ理屈
  6. ほくろはいつ、なぜ増える?
    1. 生まれつきのほくろは少数派
    2. 思春期以降に増え、妊娠中は濃くなることも
    3. 日に当たる場所にできやすい
  7. 診てもらう目安はどこにある?
    1. ABCDEという5つの頭文字
    2. 新潟県立がんセンターは7ミリ以上を挙げる
    3. 迷うものはダーモスコピーで見分ける
  8. 足の裏のほくろは危ない?
    1. 4分の1が足の裏という数字の意味
    2. 後からできたほくろは原則として悪性化しない
    3. 悪性黒色腫は10万人に年1〜2人
    4. 傷つけてもがんの原因にはならない
  9. 「ほくろ」は母のカスという意味だった
    1. 平安時代までは「ははくそ」
    2. 「ははくろ」を経て室町時代に「ほくろ」へ
  10. ヨーロッパではほくろを顔に貼っていた
    1. 「蠅」と呼ばれたつけぼくろ
    2. 白い肌を引き立てる黒い点
  11. ほくろの研究から見えてきたこと
    1. ほくろの毛が太い理由は2023年に報告された
    2. ほくろの多い人はテロメアが長い傾向
    3. 50個を超える人は少しだけ注意
  12. 参考
  13. 関連記事

ほくろとシミはどこが違う?

ほおにそばかすのある女の子のイラスト

シミとそばかすは色が乗っているだけ

顔の茶色い点は、どれも同じ仲間に見えがちです。けれどシミ(老人性色素斑)やそばかす(雀卵斑・じゃくらんはん)は、皮膚の一番外側の表皮に色素がたまった状態にすぎません。色素をつくる細胞の数そのものが増えているわけではないので、基本的に平らなままです。紙の上に色が乗っている様子を思い浮かべると近いでしょう。

ほくろは色をつくる細胞が増えている

ほくろは医学の言葉で母斑細胞母斑(ぼはんさいぼうぼはん)、または色素性母斑と呼ばれます。色がついているだけのシミと違い、色素をつくる細胞が一か所に集まって増えたものです。たとえるなら、色をつくる工場がそこだけ何十軒も建ち並んでいる状態。細胞が積み重なるぶん厚みが出て、盛り上がるほくろも生まれます。

※ 母斑(ぼはん)とは、皮膚の一部に色や形の変化がまとまって現れたもののことで、いわゆる「あざ」を含む広い呼び名です。ほくろはその一種にあたります。

茶色い点を4つ並べて比べる

年齢とともに出る盛り上がったいぼも、ほくろと間違えやすい仲間です。正体と深さで並べてみると、ほくろだけが性質の違う存在だと見えてくるはずです。

見た目の名前正体ある深さ盛り上がり
そばかす
(雀卵斑)
体質的にできる色素の沈着。細胞は増えていない表皮なし
シミ
(老人性色素斑)
紫外線を浴び続けた場所に色素がたまったもの表皮基本はなし
ほくろ
(母斑細胞母斑)
色素をつくる細胞そのものが集まったかたまり表皮と真皮の境目から真皮まであるものとないもの
年齢とともに出るいぼ
(脂漏性角化症)
表皮の細胞が厚く積み重なったもの表皮あり。表面がざらつく

肌の色を均一にするメラノサイトの仕事

細胞のイラスト

メラニンは紫外線をさえぎる日傘

表皮の一番底には、メラノサイトという色素細胞が並んでいます。ここでつくられるメラニンは紫外線を吸収し、細胞の核を守る日傘のような役目を担うとされます。日に焼けて肌が黒くなるのは、この日傘を急いで増やした結果です。

散らばっているから肌の色はそろう

メラノサイトは皮膚全体にまんべんなく散らばり、まわりの細胞へ少しずつ色素を渡しています。日傘が一定の間隔で立っているようなもので、だから肌の色はむらなく見えるわけです。逆にいえば、この並びが崩れて一か所に固まったときだけ、点として目に飛び込んできます。

ほくろの細胞はなぜ一か所に集まる?

シャーレの中で集まった細胞のイラスト

母斑細胞は小さな集団をつくる

ほくろをつくっているのは、メラノサイトと同じ神経堤(しんけいてい)という組織に由来する母斑細胞です。メラノサイトが表皮の底に一列でばらばらに並ぶのに対し、母斑細胞は胞巣(ほうそう)と呼ばれる小さな集団をつくります。しかも表皮と真皮の境目から、さらに深い真皮の中にまで入り込みます。

なぜ固まるのかはまだ分かっていない

同じ由来の細胞が、なぜある場所でだけ集まって増えるのか。そのきっかけは、まだ完全には解き明かされていません。日光を浴びることや体質、ホルモンの変化が増え方に関わることは分かっていて、後半の章で順に見ていきます。

医学的には良性の腫瘍という扱い

細胞が集まって増えたものなので、ほくろは医学上「良性の腫瘍」に分類されます。物騒に聞こえる言葉ですが、際限なく広がるものではありません。MSDマニュアルの医療者向け版によると、多くは直径1〜10ミリ前後におさまります。ほとんどのほくろは治療のいらないできものです。

平らなほくろと盛り上がったほくろは何が違う?

皮膚の断面図のイラスト

細胞がいる深さで3つに分かれる

指でなぞって平らなほくろと、はっきり手に触れるほくろ。この差を生むのは大きさではなく、母斑細胞がいる深さです。皮膚科の教科書が採る分け方は、細胞の居場所による次の3つです。

分類母斑細胞のいる場所見た目
境界母斑表皮と真皮の境目平らで、明るい茶色から黒に近い色
複合母斑境目と真皮の両方茶色で、少しから大きく盛り上がる
真皮内母斑ほぼ真皮の中だけ肌色に近く盛り上がる。毛が生えることも

年を重ねると盛り上がって色が淡くなる

形成外科専門医の西嶌順子さんの解説によれば、ほくろは3〜4歳ごろに平らな黒い点として現れます。年齢とともに少しずつ盛り上がり、中年以降は色が淡くなっていくそうです。MSDマニュアルの医療者向け版にも、数十年のうちにやわらかくなったり色素が減ったりするという記述があり、母斑細胞が最後は脂肪や線維の組織に置き換わることもあるとされています。子どものころは黒い点だったのに、いまは肌色のふくらみになっている。そんなほくろは、この変化をたどってきたものでしょう。

深いところの色素は青く見える

おしゃぶりをくわえた赤ちゃんのイラスト

青色母斑は色素の種類でなく深さの違い

メラニンそのものは茶色から黒の色素です。ところが真皮の深い位置にあると、皮膚を通る光が途中で散らばり、青みがかって見えます。青灰色の点として現れる青色母斑(せいしょくぼはん)は、真皮の深くに色素細胞があるタイプのほくろ。色素が特別なのではなく、置かれた奥行きが違うだけと説明されます。

※ チンダル現象とは、細かい粒子に光が当たったとき、波長の短い青い光がより強く散らばって見える現象のことです。深いところの色素が青く見える理由は、この仕組みで説明されます。

赤ちゃんのおしりの青あざも同じ理屈

日本人の赤ちゃんに多い蒙古斑(もうこはん)も、色素細胞が真皮の深くにあるために青く見えるものとされています。色の正体は同じメラニンです。表面近くなら茶色、深くなら青。ほくろの色は、絵の具の種類ではなく奥行きの話だったことになります。

ほくろはいつ、なぜ増える?

腕に日焼け止めを塗る女性のイラスト

生まれつきのほくろは少数派

例外はあるものの、ほくろの多くは生まれたときには存在しません。MSDマニュアル家庭版も、多くの人では小児期から青年期にかけてできると説明しています。生まれつきのものは先天性色素性母斑と呼ばれ、後からできるほくろとは区別される存在です。

思春期以降に増え、妊娠中は濃くなることも

ほくろは思春期以降に数を増やし、体の成長に合わせて大きくなったり濃くなったりします。妊娠中にほくろの色が濃くなることがある点も、MSDマニュアル家庭版に書かれた変化のひとつ。体の時期によって見え方が変わるのは、それだけ生きた細胞の集まりだということでしょう。

日に当たる場所にできやすい

紫外線を浴びると、色素細胞にメラニンをつくれという号令がかかります。MSDマニュアル家庭版によれば、肌の色が薄い人では日光の当たる部分にほくろがよくできるとのこと。日焼け止めや帽子はシミ対策として知られていますが、ほくろの増え方にも関わっているわけです。

診てもらう目安はどこにある?

虫めがねをのぞく医師のイラスト

※ ここで紹介するのは医療機関が受診の目安として挙げている一般的な考え方で、自己診断のための基準ではありません。気になるものがあれば皮膚科で相談してください。

ABCDEという5つの頭文字

ほとんどのほくろは良性ですが、悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)との見分けは気になるところです。国際的によく使われる目安が、頭文字を並べたABCDEの5点。MSDマニュアル家庭版では次のように整理されています。

  • A(Asymmetry)=形が左右非対称
  • B(Border)=ふちがぎざぎざしている、ぼやけている
  • C(Color)=色にむらがある
  • D(Diameter)=幅がおよそ6ミリを超える
  • E(Evolving)=30歳以降に新しくできた、または変化している

新潟県立がんセンターは7ミリ以上を挙げる

日本の医療機関では、大きさの目安を7ミリ以上とするところもあります。新潟県立がんセンター新潟病院が診断のポイントに挙げるのは、次の4点です。

  • 全体の形が非対称で、ふちが凹凸不整
  • 黒・茶褐色・青などの色がまじり、濃さにむらがある
  • 大きさが7ミリ以上(生まれつきのものを除く)
  • 大きさや形が変わってきている

数字そのものよりも、「変わってきたかどうか」に目を向けると覚えやすいでしょう。

迷うものはダーモスコピーで見分ける

皮膚科では、ダーモスコピーという拡大鏡を使って良性か悪性かを見分けます。教科書でも、悪性黒色腫との区別にはこの検査が役に立つとされています。目で見て迷うものほど、専門の道具で判断がつくという構図です。

※ ダーモスコピーとは、皮膚の表面の光の反射をおさえ、内部の色素の並び方を拡大して観察する検査のことです。皮膚を切らずに調べられます。

足の裏のほくろは危ない?

足の裏のイラスト

4分の1が足の裏という数字の意味

新潟県立がんセンター新潟病院によると、日本人の悪性黒色腫は手や足の末端に多く、4分の1は足の裏にできます。この数字は「足の裏のほくろは危ない」と受け取られがちです。けれど意味するのは、病気が出るとしたら足の裏の割合が高いという部位の傾向。そこにあるほくろが危険という話ではありません。

後からできたほくろは原則として悪性化しない

同センターは、生まれた後にできた通常のほくろが悪性化することは原則としてない、とまで述べています。例外として挙げられているのは、数センチを超える生まれつきの大きなほくろです。そこからは非常にまれに悪性黒色腫が出ることがあるとされます。

悪性黒色腫は10万人に年1〜2人

そもそも日本人の悪性黒色腫は、人口10万人あたり年間1〜2人とされる珍しい病気です(同センター)。MSDマニュアルの医療者向け版でも、1つのほくろが悪性になる生涯のリスクは男性で約3,000分の1、女性で約1万分の1とされています。足の裏を見て不安になるより、大きさと変化という物差しを持っておくほうがずっと役に立つはずです。

傷つけてもがんの原因にはならない

ほくろをひっかいたりカミソリで傷つけたりするとがんになる、という心配もよく聞かれます。皮膚科専門医が監修するクリニックの解説では、外傷でほくろががん化するという科学的な証拠は見つかっていないとされます。とはいえ傷から炎症が起きれば、赤みや出血で見分けがつきにくくなるもの。ほくろの毛が気になるなら、抜かずに根元から切るほうが肌にやさしい方法です。

「ほくろ」は母のカスという意味だった

十二単を着た平安時代の女性のイラスト

平安時代までは「ははくそ」

ほくろは平安時代まで、もっぱら「ははくそ」と呼ばれていました。目くそや鼻くその「くそ」と同じで、母の胎内にいたときについたカスと考えられていたのではないか、と『日本国語大辞典』は説明しています。850年ごろの仏典の注釈書にも、「ハハクソ」の読みが残っているそうです。

「ははくろ」を経て室町時代に「ほくろ」へ

中世に入ると、「ははくそ」と並んで「ははくろ」という言い方も現れます。1220年ごろの歴史書『愚管抄(ぐかんしょう)』には「ははくろ」の例があるそうです。それが「はうくろ」を経て「ほくろ」になったのは、室町時代のころとされています。「くそ」から「くろ」へ。呼び名のほうも、見た目の色に寄っていったようです。

ヨーロッパではほくろを顔に貼っていた

羽根飾りのついた舞踏会の仮面のイラスト

「蠅」と呼ばれたつけぼくろ

16世紀の終わりごろから、フランスでは顔に小さな黒い布を貼るおしゃれが広まりました。呼び名はムーシュ。フランス語で「蠅」を意味し、肌にとまった虫のように見えることから来ています。黒い絹のタフタやベルベットを切り抜き、樹脂の糊で貼りつけるものでした。

白い肌を引き立てる黒い点

もともとは傷跡を隠す実用品でしたが、やがて白粉を厚く塗った顔に黒を置き、肌の白さを際立たせる装いへ変わっていきます。形も丸だけでなく三日月や星型まで登場し、流行はフランスからヨーロッパ各地へ広がりました。消したい人がいる一方で、わざわざ貼りたい人もいた時代があったわけです。

ほくろの研究から見えてきたこと

フラスコを持つ白衣の研究者のイラスト

ほくろの毛が太い理由は2023年に報告された

ほくろから生える毛が太く長くなりやすいことは、経験的に知られてきました。カリフォルニア大学アーバイン校などの研究チームは2023年6月、その仕組みを科学誌『Nature』で報告しています。ほくろにたまった老化した色素細胞がオステオポンチンという分子を大量に出し、毛の幹細胞にあるCD44という受け皿に働きかけて毛の成長を促すという内容です。

実験は主にマウスで行われ、人のほくろの組織でも同じ分子の働きが確かめられました。研究チームは、よくある薄毛(男性型脱毛症)の新しい治療につながる可能性を挙げています。厄介者に見えていた一本の毛が、髪を増やす研究の入り口になっているのは面白いところでしょう。

ほくろの多い人はテロメアが長い傾向

2007年には英キングス・カレッジ・ロンドンのチームが、18〜79歳の女性1,897人を調べた結果を発表しました。全身のほくろの数が多い人ほど、白血球のテロメアが長い傾向が見られたといいます。ほくろが最も多いグループは、最も少ないグループより平均でおよそ150塩基対長かったそうです。ただしこれは相関で、ほくろが老化を遅らせるという因果を示したものではありません。

※ テロメアとは、染色体の端にある構造のことです。細胞が分裂するたびに短くなるため、細胞の老化を測るひとつの目安として扱われています。

50個を超える人は少しだけ注意

もっとも、ほくろが多いほど良いという話にはなりません。MSDマニュアル家庭版は、ほくろが50個を超える人では悪性黒色腫のリスクがわずかに高くなると記しています。多いなら多いなりに、ときどき全身を見渡して変化がないか確かめる。それくらいの付き合い方がちょうどよさそうです。

シミは肌に乗った色で、ほくろは肌に住みついた細胞の集まり。だからこそ、ほくろは子どもの時期に現れて年月とともに盛り上がり、やがて色を手放していきます。鏡の中の小さな点は、ひと続きの時間を生きてきた細胞の集落なのかもしれません。

参考

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