くしゃみで目が閉じるのは、くしゃみという反射が顔の筋肉までまとめて動かすからです。鼻の刺激を受けた延髄(えんずい)の「くしゃみ中枢」は、呼吸の筋肉やのどと一緒に顔の筋肉にも指令を出します。まぶたを閉じる筋肉もその中に入っているため、意志とは関係なく閉じてしまいます。「開けたままだと目玉が飛び出す」という話は昔からの言い伝えで、確かな裏付けは見当たりません。
くしゃみは鼻から始まる反射

目が閉じる理由を知るには、くしゃみそのものの流れを追うのが近道です。くしゃみは鼻に入った異物を追い出すための反射で、目の動きも、その流れの途中に組み込まれた一場面です。
鼻の刺激は三叉神経で延髄へ届く
ほこりや花粉が鼻の粘膜に触れると、粘膜に通っている三叉神経(さんさしんけい)がそれを感じ取ります。花粉症では、体から出たヒスタミンが三叉神経の先端にくっつき、信号が生まれる。信号の行き先は、脳の根もとにある延髄のくしゃみ中枢です。
中枢の指令は呼吸・のど・顔へ同時に飛ぶ
くしゃみ中枢からの指令は、ひとつの筋肉ではなく複数の神経へ一斉に送られます。行き先は横隔膜や肋間筋(ろっかんきん)といった呼吸の筋肉、声を出すのどの筋肉、そして顔の筋肉です。日本医事新報の質疑応答でも、くしゃみはこの3か所が同時に動いて起こるという説明でした。
くしゃみが進む4つの段階
体の中で起きていることを順に並べると、おおよそ次の4段階です。
- 鼻の粘膜が刺激され、三叉神経が感じ取る
- 延髄のくしゃみ中枢が指令を出す
- 大きく息を吸い、のどを閉じて空気をためる
- 横隔膜が一気に押し上げ、空気と異物を吐き出す(このとき顔の筋肉も縮む)
この一連の動きは、ほんの一瞬で終わります。まぶたが閉じるのは最後の「吐き出す」場面で、顔の筋肉が縮むのと同じタイミングです。
まぶたを閉じるのは顔の筋肉

くしゃみ中枢の指令が届く「顔の筋肉」のひとつが、目のまわりを囲む筋肉です。目だけが特別に反応しているのではなく、顔全体の動きの一部として閉じています。
眼輪筋がぎゅっと縮む
まぶたを閉じるのは、目のまわりをドーナツ状に囲む眼輪筋(がんりんきん)という筋肉です。表情を作る筋肉の仲間で、顔面神経がその動きをつかさどっています。まばたきや、ぎゅっと目をつむるときに使うのもこの筋肉です。くしゃみの瞬間は、同じ筋肉が自動で強く縮みます。
考えるより先に体が動く
反射は、頭で「こうしよう」と決める前に脳幹のレベルで処理されます。熱いやかんに触れたとき、熱いと感じる前に手が引っ込むのと同じ種類の動きです。「今度こそ目を開けておこう」と構えても間に合わないのは、気合いが足りないからではありません。決める前に体が動いているからです。
何のために目を閉じるのか?

目が閉じるしくみに比べ、「何のために閉じるのか」という目的ははっきりしていません。岡山県立図書館が国立国会図書館のレファレンス協同データベースに残した調べものの記録では、3冊の本が3通りの説明をしていました。
吹き出す息から目を守るという説
あくびや笑いの研究で知られる心理学者ロバート・R・プロヴァインは、著書『あくびはどうして伝染するのか』で、目を閉じるのは爆発的な吐く息から目を守るための適応だとしています。せっかく吹き飛ばした異物やしぶきが、今度は目に入っては元も子もありません。まぶたはそのふたの役目をしている、という見方です。
鼻の通り道を広げるという説
医師の工藤孝文さんの『医者も驚いた!ざんねんな人体のしくみ』は、別の理由を挙げています。目を閉じると頬の筋肉が持ち上がり、それに引かれて鼻の穴が広がります。空気が通りやすくなり、異物を外へ出しやすくなるという説明です。
神経がまとめて動くだけという説
科学解説の本『いきなりサイエンス』は、目を閉じることに特別な目的を求めていません。刺激を受けた神経のネットワークが一緒に動いた結果の、自然な現象だという立場です。3つの説は互いに打ち消し合うものではなく、いくつかの理由が重なっている可能性もあります。
目を開けたままくしゃみはできる?

目を開けたままのくしゃみは、試すこと自体はできても、くしゃみの流れを乱しやすいようです。そして「目玉が飛び出す」という噂は、本によって扱いが分かれます。
指でまぶたを開けた実験
プロヴァインは自分で試しています。くしゃみの最中に指でまぶたを押さえて開けておいたところ、くしゃみが途中で止まってしまうことがあったそうです。目を閉じる動きは、くしゃみという一続きの動作の部品になっているのかもしれません。本人もこの研究はまだ続けている途中だと書いています。
「目玉が飛び出す」は本で言い分が違う
プロヴァインの本は、目を開けたままだと目玉が飛び出すという話を「民間伝承」として紹介しています。『いきなりサイエンス』は、くしゃみで心臓が止まる話と並べて都市伝説だと否定しました。一方で工藤さんの本は、飛び出す可能性があると書いていて、本によって言い分が違います。
少なくとも、3冊のうち2冊は言い伝えや都市伝説の扱いです。わざわざ目を開けたまま試すより、しぶきを手やひじで受け止めるほうが周りの人にとっては大事です。
くしゃみの速さは秒速4.5メートルほど
くしゃみの勢いは、思われているほど猛烈ではありません。2013年に発表された研究では、高速カメラでくしゃみの空気の流れを撮影しています。最大の速さは秒速4.5メートルほどでした。時速に直すと16キロほどで、自転車くらいの速さです。息の届いた距離も最大0.6メートルでした。
「秒速100メートル」は計算上の数字
くしゃみの速さとして、秒速100メートルといった大きな数字が出回ることがあります。同じ論文によると、これは単純化した条件で物理の原理から見積もった推定で、人のくしゃみを実際に測った値ではありません。ただし測れたのは6人分だけで、ほかの研究ではもっと速い値も報告されています。
まぶしいとくしゃみが出る人は4人に1人

くしゃみと目のつながりには、逆向きのものもあります。暗い部屋から日差しの下へ出たとたんにくしゃみが出る「光くしゃみ反射」です。
749人の調査で約25パーセント
鹿児島大学の口岩聡(くちいわ さとし)さんの研究室が紹介している調査では、749人のうち日本人のおよそ25パーセントにこの反射がありました。ただし、めったに起きない人や若いころだけ起きた人も含まれています。決まって起きる人は、そのうち半分ほどと見積もられています。
出るのは明るさを感じた1〜2回だけ
光くしゃみは、明るさを感じた瞬間に1〜2回出て終わるのがふつうです。花粉症のように延々と続くことはありません。きっかけになる光の強さは人によって大きく違います。真夏の直射日光でしか出ない人がいる一方、室内の照明くらいで出る人もいるほどです。
光くしゃみは親から子へ受け継がれる

光くしゃみ反射は家族の中でよく見つかり、優性遺伝で受け継がれると考えられています。親のどちらかにあれば、子どもにも現れやすいということです。
生後1か月前から出た例もある
1987年に米国クリーブランド・クリニックの神経内科医が、光くしゃみのある2つの家系を報告しています。そのひとつでは、報告した医師本人と娘2人が同じ体質でした。末の娘は、生後1か月にならないうちから明るい光でくしゃみをしていたそうです。同じ病院の神経内科医20人に尋ねると、4人がこの反射を持っていました。
名前は「ACHOO症候群」
光くしゃみ反射には、医学の世界でちょっとしゃれた名前が付いています。1978年に提案された「ACHOO症候群」です。英語の頭文字を並べたもので、ACHOOは英語でくしゃみの音「ハクション」を表す言葉でもある、というしゃれです。名前は大げさですが、害のない体質だとされています。
眉毛を抜くとくしゃみが出る家族も
同じ報告には、もうひとつ面白い観察が載っていました。光くしゃみのある家系の中に、光ではなく眉毛を抜いたり髪を引っぱったりしたときにくしゃみが出る人がいました。顔まわりの感覚を受け持つ三叉神経がどこかで関わっているのでは、と考える手がかりになっています。
光でくしゃみが出るしくみは?

光くしゃみのしくみは、まだ決着していません。1960年代から説がいくつも出されていて、どれかひとつが証明されたわけではない段階です。
目の神経と鼻の神経が混線するという説
よく紹介されるのは「混線」の説明です。1964年に米国の医師エヴェレットが、光で目の神経が刺激されると三叉神経まで刺激されやすくなるという考えを出しました。三叉神経は鼻の感覚も受け持つため、くしゃみのスイッチが入るというわけです。エヴェレットはこれと並べて、別の説も挙げていました。
瞳を縮める神経が鼻にも届くという説
口岩さんの研究グループは、解剖を手がかりに別の道すじを示しています。強い光を受けると、脳の中の「エディンガー・ウェストファル核」から瞳を縮める指令が出ます。グループはこの神経の一部が、鼻の粘膜を調節する神経の集まりにも届いていることをネコで確かめました。
瞳が縮むのと同時に鼻の粘膜の血管が広がり、鼻水も出てむずむずする。そのむずむずが三叉神経を刺激して、くしゃみになるという推定です。混線説とは、光から鼻までの道順が違います。
涙が鼻へ流れるという説
もっと身近な説もあります。まぶしい光で涙が出て、その涙が目頭から鼻へ流れ、鼻の粘膜を刺激するというものです。光からくしゃみまで数秒かかる人がいることも、この見方を後押しする材料として挙げられてきました。1987年の報告も、目の神経が直接くしゃみを起こすより、涙や目を細める動きを通して三叉神経が刺激される可能性が高いと考えています。
くしゃみの一瞬、鼻と目と顔の筋肉は示し合わせたように動きます。目が閉じるのはその段取りの一部で、まぶしさで鼻がむずむずするのは同じ神経のつながりを逆からたどった現象です。目を閉じても開けても、くしゃみの裏では神経がきちんと順番どおりに仕事をしています。
参考
- レファレンス協同データベース(国立国会図書館)「くしゃみをする時に目を閉じてしまうのはなぜか」
- 鹿児島大学 口岩聡 研究室「私たちの研究」(光くしゃみ反射)
- 日本医事新報「温度差によるくしゃみ誘発のメカニズムは?」
- Morris「ACHOO syndrome: Prevalence and inheritance」Cleveland Clinic Journal of Medicine(1987年)
- Tang ほか「Airflow Dynamics of Human Jets: Sneezing and Breathing」PLOS ONE(2013年)
関連記事








