くしゃみで必ず目を閉じてしまうのはなぜか——開けられない反射

からだの話
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くしゃみが出そうになった瞬間、まぶたは自分の意志と関係なくぎゅっと閉じます。「開けたまま出すぞ」と身構えても、たいていは間に合いません。これは行儀でも気合いでもなく、鼻から始まった反射が顔の筋肉まで一気に巻き込むからです。

止めようとしても止まらないのはなぜでしょう。何のために閉じ、開けたままだと本当に眼球が飛び出すのか。くしゃみと目をめぐる素朴な疑問を、体のしくみからほどいていきます。

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くしゃみと目——まず結論を早見表で

くしゃみで目を閉じる女性

くしゃみと目にまつわる疑問は、大きく3つ。それぞれの答えを先に一言ずつ挙げておきます。

よくある疑問ひとことでの答え
なぜ目が閉じる?くしゃみの反射が、顔面神経を通じてまぶたの筋肉も一緒に動かすから
意志で止められる?反射なので基本は無理。ただし集中すれば開けたまま出す人もいる
目玉は飛び出す?ほぼ都市伝説。眼球は固定され、鼻の圧力も目には伝わらない

ここから、ひとつずつ理由をたどります。

目が閉じるのは「くしゃみ反射」の一部

脳のはたらきを調べる研究者

まぶたが閉じるのは、くしゃみという一連の反射のなかに、最初から組み込まれている動きです。目だけが単独で反応しているわけではありません。

くしゃみは鼻から始まる防御反射

鼻の刺激が脳の「くしゃみ中枢」へ届く

ほこりや花粉が鼻の粘膜に触れると、そこに張り巡らされた三叉神経(さんさしんけい)が刺激を受け取ります。その信号は延髄(えんずい)にある「くしゃみ中枢」へ送られ、ここが体に排出の指令を出します。異物を勢いよく吹き飛ばすための、いわば緊急ボタンです。

中枢から全身へ一斉に指令が飛ぶ

くしゃみ中枢はひとつの神経だけでなく、横隔膜・声帯・のど・顔の筋肉を動かす神経へ同時に信号を送ります。息を大きく吸い、声帯を閉じ、一気に吐き出す。この派手な動作が、コンマ数秒のうちに勝手に進みます。まぶたも、この一斉指令に含まれる一員です。

まぶたを閉じるのは顔面神経の担当

眼輪筋がぎゅっと縮む

目を閉じる指令は、顔面神経を通って目のまわりを囲む眼輪筋(がんりんきん)へ届きます。この筋肉が縮むと、まぶたが上下から閉じます。まばたきや強く目をつむるときと同じ筋肉が、くしゃみでも自動で働いているわけです。

くしゃみが進む順番

信号が体をめぐる流れを、ざっくり並べると次のようになります。

段階体で起きていること
きっかけ鼻の粘膜が刺激され、三叉神経が感知する
指令延髄のくしゃみ中枢が全身へ号令をかける
ため込む大きく息を吸い、声帯を閉じて空気をためる
吐き出す横隔膜が一気に押し上げ、空気と異物を放出する
同時に顔面神経が眼輪筋を縮め、まぶたが閉じる

なぜ自分の意志で止められないのか

くしゃみをする赤ちゃん

「今度こそ目を開けて確かめよう」と思っても、まぶたはたいてい先に閉じてしまいます。理由は、この動きが意識を経由しない反射だからです。

ひとつの反射が別の反射を呼ぶ

頭で考えるより先に起きている

反射は、脳の判断を待たずに脊髄や脳幹のレベルで処理されます。熱いものに触れて、痛いと感じる前に手が引っ込むのと同じしくみです。くしゃみでまぶたが閉じるのも、「閉じよう」と決める間もなく体が先に動いています。

反射どうしが連動している

くしゃみの反射と、まぶたを閉じる反射は、神経のうえで隣り合ってつながっているとされます。片方が動くともう片方も引きずられて動く。こうした反射の連動があるため、目を閉じる動きだけを切り離して止めるのが難しいのです。

赤ちゃんも目を閉じてくしゃみする

まねではなく生まれつきの反応

生まれて間もない赤ちゃんも、くしゃみのときにはしっかりまぶたを閉じます。まだ誰かのくしゃみを見て覚える機会もないうちからそうなるので、この動きは学習ではなく、生まれつき備わった反射だと考えられています。大人が無意識にやっているのも、その延長というわけです。

何のために閉じるのか——じつは諸説あり

目をこする女性

「なぜ閉じるか」というしくみははっきりしていますが、「何のために閉じるのか」という目的のほうは、実は決定的な答えがありません。有力とされる見方をいくつか紹介します。

目を守るため、という説

くしゃみの勢いは意外と穏やか

くしゃみの速さはよく「時速数百キロ」と紹介されますが、実際に測ると秒速4.5〜7メートル、時速にして16〜25キロほどとされます。新幹線のような速さではないものの、細かな飛沫(ひまつ)を勢いよくまき散らすには十分です。まぶたを閉じておけば、その飛沫や巻き上がったほこりが目に入るのを避けられます。

同じ刺激を目から浴びないように

そもそもくしゃみは、鼻に入った異物を追い出すための反応です。せっかく吹き飛ばした異物が、今度は目に飛び込んでは元も子もありません。目を閉じるのは、同じ刺激を浴び直さないための保険だという見方です。

顔の筋肉に引っ張られるだけ、という説

頬が持ち上がり、目も一緒に閉じる

くしゃみの瞬間は、顔全体の筋肉が強くこわばります。頬がぐいと持ち上がって鼻の穴が広がり、その連動でまぶたも自然に閉じる、という説明です。この見方なら、目を閉じること自体に特別な役目はなく、顔の大きな動きに巻き込まれた結果ということになります。どの説にも決定打はなく、複数の理由が重なっているのかもしれません。

「開けたまま」も「目玉が飛び出す」も検証

目を大きく開けて驚く女性

ここで、くしゃみと目にまつわる二つの噂を確かめます。ひとつは「開けたままはできない」、もうひとつは「無理に開けると目玉が飛び出す」というものです。

集中すれば開けたままでもできる

反射は上書きできる=絶対のロックではない

じつは、強く意識すればまぶたを開けたままくしゃみをすることも可能だとされています。かなりの集中は要りますが、まったく不可能ではありません。裏を返せば、目を閉じる動きは体を守るための絶対のロックではなく、あくまで自動で働く反射だということです。

「眼球が飛び出す」はほぼ都市伝説

眼球は筋肉と脂肪でしっかり固定されている

目を開けたままくしゃみをすると眼球が飛び出す、という話をときどき耳にします。けれども眼球は、まわりの筋肉や脂肪に支えられて、眼窩(がんか)という骨のくぼみにしっかり収まっています。少しくらいの圧では抜け落ちない造りです。

鼻の圧力は目まで伝わらない

さらに、目と鼻の間は薄い骨で隔てられていて、くしゃみで高まった鼻の圧力がそのまま目に伝わることはありません。医師も「目玉が飛び出すのは通常は考えられない」と説明しています。安心して、開いても閉じても好きなほうでくしゃみをして大丈夫、ということになります。

逆に「光でくしゃみ」——光くしゃみ反射

まぶしくて目を覆う女性

くしゃみと目は、「くしゃみ→目が閉じる」という一方向だけでつながっているわけではありません。逆に「まぶしい光を見るとくしゃみが出る」人も、けっこうな割合でいます。

まぶしいと出る人は約4人に1人

日本人の約25パーセントにみられる体質

急に明るい所へ出るとくしゃみが出る。この現象は光くしゃみ反射と呼ばれ、日本人では約25パーセント、およそ4人に1人にみられるとされます。家族そろって同じ体質のことも多く、優性遺伝で受け継がれると考えられています。心当たりがある人は、親か子のどちらかも同じかもしれません。

神経の「配線ミス」のような説明

有力とされる説明はこうです。強い光を受けると、瞳を縮める指令が出ます。このとき、すぐ近くを通る三叉神経も巻き込まれて刺激され、くしゃみのスイッチが入ってしまう。光を感じる神経とくしゃみの神経が近くを走っているための、いわば配線の混線です。ただし、はっきり証明されているわけではなく、しくみの細部は今も研究途上とされています。

くしゃみの一瞬に、鼻と目と顔の筋肉は、示し合わせたように同時に動いています。まぶたが閉じるのは我慢の足りなさでも作法でもなく、体があなたに断りなく進めてしまう段取りのひとつ。開けていようと閉じていようと、その裏では神経が律儀に順番どおり仕事をしているといえます。