シフォンケーキの起源と歴史 — 誕生の背景と豆知識まとめ

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シフォンケーキが生まれたのは1948年のアメリカです。考案したのはハリー・ベーカー(Harry Baker)というロサンゼルスのアマチュア料理家で、当時60代だった彼が20年かけて開発したレシピは長らく秘密にされていました。バターではなくサラダ油(植物油)を使うという当時としては革新的な手法が、あの独特の軽さを生み出しています。

シフォンケーキの歴史——年表

シフォンケーキが誕生してから世界に広まるまでの流れを整理します。

時期できごと
1927年頃ハリー・ベーカーがロサンゼルスでシフォンケーキの原型を開発。レシピは20年間秘密にされる
1948年ベーカーがレシピをアメリカの食品会社「ベティ・クロッカー(General Mills)」に売却。レシピが初めて一般公開される
1948〜1950年代「ベティ・クロッカー」の雑誌・レシピカードで広まり、アメリカの家庭に定着。「天使のケーキ」と並ぶ軽いケーキとして人気
1970〜80年代(日本)日本に洋菓子として伝わり、製菓学校や洋菓子店で取り上げられる
1990〜2000年代(日本)カフェブームとともに「ふわふわ食感」が評価され、カフェスイーツの定番に。家庭でも専用型を使って作られるようになる

シフォンケーキはスポンジケーキやバターケーキと比べると歴史が短く、20世紀に生まれた比較的新しい菓子です。

「シフォン」という名前と革新的な製法

サラダ油で作る初めてのケーキ

シフォンケーキの最大の特徴は、バターの代わりにサラダ油(植物油)を使う点です。一般的なバターケーキはバターをクリーム状にすることで空気を含ませますが、シフォンケーキは卵白を泡立てたメレンゲと油の組み合わせで軽さを出します。油は室温でも液体なので生地が固まりにくく、焼き上がりがしっとりして軽い口当たりになるのです。

バターの代わりに油を使うという発明

ハリー・ベーカーが植物油を使おうと考えた理由は明確には記録されていませんが、当時のアメリカでは健康志向の高まりや食用油の普及が背景にあったとされています。バターと卵だけに頼らずメレンゲを主役にすることで、スポンジケーキよりも軽く、かつしっとりした食感を実現しました。「油を使うケーキ」は当時の製菓常識に反していたため、ベーカーはこれを20年間秘密にしていたとも言われています。

「シフォン」はなぜ布の名前?

「シフォン(chiffon)」はもともと、薄くて透け感のある絹織物の名前です。繊維産業の用語でしたが、20世紀初頭のアメリカでは「軽くて滑らか、空気を含んだような」というニュアンスで料理用語としても使われるようになりました。マヨネーズやゼラチンを使った軽い食感のパイ「シフォンパイ」が先にあり、同じ「軽さ」の連想からケーキにも使われたとされています。

軽さと滑らかさを織物で表現した命名

食感を布の質感で表す命名は英語圏でも珍しい例です。「ベルベット」や「サテン」が滑らかさを表す比喩として使われるように、「シフォン」は薄くて軽い食感のメタファーとして定着しました。日本語でも「シフォン」という言葉は「軽やかで透けるような」イメージを持つため、ケーキの食感の表現として違和感なく受け入れられています。

シフォンケーキの広まりと日本での人気

レシピ公開から世界へ

シフォンケーキのレシピが世に出たのは1948年、ハリー・ベーカーが食品会社ゼネラルミルズ(ベティ・クロッカーブランド)にレシピを売却したことによります。同社はこのレシピを雑誌やレシピカードで積極的に紹介し、アメリカ全土の主婦に広めました。1950年代には「20年間秘密だったケーキ」というキャッチコピーが話題を呼び、人気を後押ししました。

息子による秘密公開がきっかけ

ハリー・ベーカーがレシピを売却した直接のきっかけとして、一説には息子への相続を考えたことが挙げられています。ただしベーカーが売却を選んだ理由については複数の説があり、詳細な経緯は確認されていません。確かなのは、1948年に「ベティ・クロッカー」が公開したことで初めて家庭でも再現できるようになり、シフォンケーキが急速に広まったという点です。

日本独自のシフォンケーキ文化

日本でシフォンケーキが広まったのは1970〜80年代以降で、洋菓子店や製菓学校を通じて知られるようになりました。大きな転機となったのは1990〜2000年代のカフェブームです。「ふわふわ」「もちもち」という食感が重視される日本のスイーツ文化と相性がよく、カフェのメニューに定着しました。

カフェブームと「ふわふわ」への評価

日本では「シフォンケーキ専門店」が各地に誕生するほど、シフォンケーキへの関心が高まりました。抹茶・ほうじ茶・黒ごまなど和素材を使ったフレーバーが開発され、日本独自の展開が見られます。また家庭でも専用の型(煙突型のアルミ型)が販売されるようになり、手作りケーキとしても人気が定着しました。「シフォン型」という言葉が一般に定着しているのは日本のシフォンケーキ文化の成熟を示しています。

豆知識——シフォンケーキの型はなぜ真ん中に穴があるのか

シフォンケーキの型は中央に筒(煙突)がある独特の形をしています。これは見た目の問題ではなく、焼き上がりの食感に直結した設計です。中心から熱が伝わることで生地が均一に膨らみ、外側と中央の焼き上がりのムラを防ぎます。

「逆さにして冷やす」製法の理由

シフォンケーキは焼き上がった直後に型ごと逆さにして冷やします。この独特の工程は、冷める過程でケーキが自重でしぼまないためのものです。油を使った生地は冷えると収縮しやすく、普通に冷やすと中心がへこんでしまいます。逆さにすることでケーキ自身の重さを利用して形を保ち、中心の筒がその間の支えになります。型の穴と逆さ冷却はセットで意味をなす設計です。

シフォンケーキは「型の形まで理由がある」菓子です。名前も製法も道具も、すべてが軽くてしっとりした食感を実現するために設計されています。1927年に一人のアマチュア料理家が始めた実験が、約100年後の今も世界中のカフェで提供されているのは、その設計の合理性があってのことでしょう。