デンキウナギが自分の電気で倒れないのは、流れた電気の多くが体の外の水を回って戻り、一発の放電も2ミリ秒ほどで終わるからだと考えられています。発電器官は尾のほうへ長く伸び、脳や心臓は反対の頭側に収まっています。ただ、この魚が自分をどう守っているのかを正面から確かめた研究は、まだ見当たりません。
電気は体のどこで作られる?

筋肉から生まれた発電細胞
電気を作るのは「発電細胞(電気細胞)」と呼ばれる薄い円盤形の細胞です。もとは筋肉の細胞から進化したもので、縮む力の代わりに電気を生む役目を持っています。神経の末端からアセチルコリンが届くと、細胞の膜に電気の通り道が一斉に開きます。
※ アセチルコリンとは、神経の末端から出て、次の細胞へ「信号が来た」と伝える物質のことです。ヒトの筋肉を動かすときにも同じ物質が使われています。
1枚の電位差は100ミリボルト弱
1枚が持つ力は、驚くほど小さなものです。発電細胞の外側は内側に対してマイナスに帯電していて、その差は100ミリボルトに少し届かない程度とされています。乾電池1本の1.5ボルトと比べれば、15分の1にもなりません。
約6000枚を直列につないで数百ボルト
小さな電池でも、つなぎ方しだいで大きな電圧になります。主発電器官では約6000枚の発電細胞が直列に並び、その列が体の左右に35列ほど平行に走っていると説明されています。懐中電灯に乾電池を縦に詰めるのと同じ足し算で、数百ボルトに届くわけです。
発電器官は3つ、体の8割を占める

ひとかたまりに見える発電装置は、名前の違う3つの器官の集まりです。強い電気と弱い電気を、体の別々の場所で作り分けています。
主発電器官がいちばん強い電気を出す
スミソニアン国立動物園の解説によると、もっとも強いパルスを出すのは主発電器官です。獲物を動けなくするときは、1秒間に最大400発もの高電圧パルスを浴びせます。電気魚の研究で知られるケネス・カタニア氏の総説によれば、連射の速さは最大500ヘルツ。目にも止まらない電撃の雨です。
ハンター器官とサックス器官は強弱を分担
ハンター器官は、その3分の2ほどが強いパルスを、残りが弱い放電を受け持ちます。サックス器官が出すのは弱い電気だけ。弱い放電は狩りの最中に1秒10〜20回ほどのリズムで出され、周りの様子を探るセンサーとして働きます。
名前と受け持ちの対応は、次の表のとおりです。
| 器官 | おもな役割 | 電気の強さ |
|---|---|---|
| 主発電器官 | 狩りと護身 | 強い(高電圧パルス) |
| ハンター器官 | 約3分の2が狩りと護身、残りは探知 | 強い部分と弱い部分がある |
| サックス器官 | 周囲を探る、仲間とのやりとり | 弱い |
内臓は頭側の2割に収まる
3つの器官を合わせた大きさは、体の約8割です。全長2〜2.5メートルに育つ魚の、尾に向かう大部分が発電装置で占められています。脳や心臓、消化管といった魚らしい臓器は、頭に近い残りの2割ほどに詰め込まれています。電池と精密機器を、同じ箱の端と端に分けて置いたような配置です。
電流は水を回って戻る

尾から頭へ、そして水の中を通って尾へ
発電細胞の列で生まれた電流は、体の中を尾から頭の方向へ進みます。頭の側から水へ出た電流は、まわりの水を回って尾へ戻ることで輪が閉じるとされます。電気の通り道の半分は、体の外にあるわけです。
皮膚から水へ逃げる分が大きい
ウルグアイの研究機関で電気魚を調べるアンヘル・カプティ氏は、電流のかなりの部分が皮膚を通って水へ漏れていくと説明しています。そのぶん、中枢神経や心臓のそばを流れる電流は減ると考えられます。水中という環境そのものが、電気の逃がし場所になっているのです。
空気中なら1アンペア、水中では分散
空気中で回路をつないだとすると、電流は1アンペアに達し、500ボルトの電池に相当するとカプティ氏は見積もっています。水の中では電流の出口がいくつもあるので、電流は散らばって小さくなります。電圧は高いのに電流は低い。この組み合わせが、本人の身を守る方向に働いている格好です。
なぜ小魚だけがしびれる?

同じ放電でも、本人と獲物では受け取り方がまるで違います。差を生むのは、流れる時間と体の大きさです。
放電は2ミリ秒で終わる
発電細胞の連鎖反応は、およそ2ミリ秒で走りきって終わります。カプティ氏によると、デンキウナギの体は大人の腕くらいの太さです。人の腕をけいれんさせるには200ミリアンペアの電流を50ミリ秒流し続ける必要があり、2ミリ秒の放電ではまるで足りません。
体長10分の1なら体積は約1000分の1
長さが10分の1の魚は、体積がおよそ1000分の1になります。獲物が受け取る電流は全体のごく一部でも、小さな体に対する割合で見れば大きくなるのです。だからしびれるのは近くの小さな生きもののほうだ、とカプティ氏は説明しています。
獲物と本人の条件を並べて比べる
獲物の側と本人の側を、同じ一発で見比べた表です。
| 比べる点 | 近くの小魚 | デンキウナギ本人 |
|---|---|---|
| 体の大きさ | 体長10分の1なら体積は約1000分の1 | 2メートル前後 |
| 電流の通り方 | 体を通り抜ける割合が大きい | 多くが皮膚から水へ逃げる |
| 重要な臓器の位置 | 体が小さく、逃げ場がない | 脳と心臓は発電器官から遠い頭側 |
| 受ける時間 | 連射を何十発も浴びる | 1発は2ミリ秒で終わる |
効いているのはどれか一つではなく、四つが同じ向きに重なっていると見られます。裏を返せば、条件が一つ変われば結果も変わりうるということです。
本当にまったく平気なのか

自分を守る仕組みは確かめられていない
カプティ氏は、なぜデンキウナギが自分は感電しないのかを扱った研究を知らない、と述べています。カタニア氏も2019年の総説で「高電圧から自分の神経をどう守っているのか」を未解決の問いに挙げました。ここまでの説明は筋の通った仮説であって、測って確かめた答えではないのです。
跳び上がると電気の逃げ道が狭くなる
水中にいる限り、電気は四方へ散っていきます。ところが体を水から出して相手に押し当てると、戻り道の抵抗が増えて相手にかかる電圧が上がることが、カタニア氏の測定で分かりました。逃げ道が狭くなったとき本人の体に何が起きているのかは、まだ測られていません。
弱い電気は自分で受け取っている
感電しないことと、電気を感じないことは別の話です。デンキウナギは自分が出した電気の場が物にぶつかって乱れるのを、皮膚の電気受容器で読み取っています。自分でライトを照らし、その影を自分で読む。そんな感覚の仕組みが、感電を避ける体と同居しているのです。
高い電圧で獲物の神経を操る

運動神経を外からたたいている
カタニア氏は、高電圧のパルスが獲物の運動神経の枝を外から働かせていることを実験で示しました。神経から筋肉への信号を止めるクラーレという薬を使った魚では、放電を浴びても筋肉が縮まなかったのです。電気が筋肉を直接ゆさぶるのではなく、神経に「動け」と命じているわけです。
2発の「ダブレット」で隠れた獲物を探す
獲物が物陰に隠れているとき、デンキウナギは間隔2ミリ秒ほどの2発だけのパルスを出します。浴びた魚は体がびくんと一度けいれんし、その動きで居場所を知られてしまいます。カタニア氏はこれを、近くの物に「生きているか」と問いかけるようなものだと表現しました。
体を丸めると電場は2倍以上
手ごわい相手には、体をC字に曲げて頭と尾で挟み込みます。電池のプラス極とマイナス極を近づけるような形で、挟まれた獲物の中の電場は2倍以上になることが多かったと報告されています。出力を上げずに、効き目だけを上げる戦い方です。
跳び上がって相手に押し当てる

追い詰められると水から身を乗り出す
脅威に迫られたデンキウナギは、水面から身を乗り出してあごを相手に押し当て、高電圧の放電を続けます。水に散ってしまう電気を、相手の体に集中させる方法です。跳び上がった個体から人の腕に流れた電流は、ピークで約43ミリアンペアと測られています。
フンボルトの「馬との戦い」は作り話ではなかった
博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトは1800年3月、南米で漁師たちが30頭ほどの馬やラバを池に追い込み、デンキウナギと戦わせた様子を書き残しました。5分のうちに2頭が命を落としたという記述は、長く誇張だと見られてきました。カタニア氏が2016年の論文で跳躍行動を確かめ、200年あまりたって目撃談に裏付けが与えられています。
そもそもウナギの仲間ではない

ナマズやコイに近いデンキウナギ目
名前に「ウナギ」と付いていますが、蒲焼きにするニホンウナギとは遠い魚です。分類上は南米の淡水にすむデンキウナギ目に属し、スミソニアン国立動物園はナマズやコイのほうが近い親戚だと紹介しています。細長い姿が似ていたため、そう呼ばれてきました。
空気を吸わないと溺れる魚
えらだけでは酸素が足りず、この魚は「絶対空気呼吸者」に分類されます。2分ほどおきに水面へ上がって空気を吸い込み、ひだの多い口の中の粘膜で酸素を受け取る仕組みです。魚なのに、水面へ出られない状態が続くと窒息してしまいます。
2019年に3種へ分けられた
長く1種とされてきたデンキウナギは、2019年に3種へ整理されました。スミソニアン協会のカルロス・ダビド・デ・サンタナ氏らが107個体の遺伝子と形を調べ、E. variiとE. voltaiの2種を新種として記載したのです。論文は同年9月10日付でNature Communications誌に掲載されました。
860ボルトを出したのはボルタデンキウナギ
最高記録の860ボルトは、新種のE. voltai(ボルタデンキウナギ)の全長1219ミリの個体で測られました。それまで知られていた記録は650ボルトほどなので、200ボルト以上の更新です。電池の発明者ボルタの名を冠した種が最強だったのは、できすぎた巡り合わせと言えそうです。
群れ猟と遺伝子、研究は今も進む

100匹を超える群れで小魚を追い込む
2021年、ブラジルのイリリ川のほとりの小さな湖で、100匹を超えるボルタデンキウナギが集まって狩りをする様子が報告されました。群れで小魚を囲い込み、2〜10匹が一斉に放電して襲いかかるのです。観察は2014年10月に72時間続けて行われ、狩りは夜明けと夕暮れの1日2回でした。
放電で稚魚に遺伝子が入った
細胞に短い電気パルスをかけてDNAを入れる「電気穿孔法(でんきせんこうほう)」は、実験室ではおなじみの方法です。名古屋大学のグループは、DNAを溶かした水にゼブラフィッシュの稚魚を入れてデンキウナギの放電を浴びせ、一部に遺伝子が入った印を確かめました。2023年12月にPeerJ誌で発表された成果で、自然の川でも起きているかはこれからの検証待ちです。
ゲルを重ねて110ボルトの電池
発電細胞の積み重ね方は、やわらかい電源の設計図にもなりました。2017年にNature誌に載った研究では、イオンの濃さが違うゲルを膜で仕切って重ね、およそ110ボルトの電圧を取り出しています。硬い電池を置きにくいペースメーカーのような体内の機器の電源として、期待が寄せられています。
860ボルトを出す魚が、自分だけは平然と泳いでいる。理由の候補はいくつも挙がるのに、決め手はまだ誰も示せていません。派手な電撃そのものより、その電撃に自分が壊されない仕組みのほうが、この魚のいちばん深い謎なのかもしれません。
参考
- Scientific American「How do electric eels generate a voltage and why do they not get shocked in the process?」
- Smithsonian’s National Zoo & Conservation Biology Institute「Electric eel」
- Catania「The Astonishing Behavior of Electric Eels」Frontiers in Integrative Neuroscience(2019年)
- de Santana ほか「Unexpected species diversity in electric eels」Nature Communications(2019年)
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