静電気はなぜ冬に起きやすいのか——バチッと来る人と来ない人を分けるのは、靴の底

からだの話
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冬にドアノブへ手を伸ばして「バチッ」と来るのは、その季節だけ体が電気を作り出しているからではありません。電気の偏りそのものは一年じゅう起きています。冬に変わるのは、たまった電気の逃げ道のほうです。

空気が乾くと、行き場を失った電気が体の側に残ります。そこへ金属に触れれば、残っていたぶんが一気に流れて痛みになります。同じ部屋にいるのに平気な人がいるのも、この逃げ道の太さが一人ずつ違うからです。

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  1. 冬が効いているのは、三つの段階のうち二つ
  2. 電気は冬に生まれるのではなく、冬に居座る
    1. 電子の引っ越しは季節を選ばない
      1. こすれた瞬間、電子が片側へ移る
      2. 夏も起きているが、気づく前に消えている
    2. 湿気は、目に見えない通り道になる
      1. 表面に吸いついた水の膜が電気を通す
      2. 繊維によって「湿り気の持ち方」が違う
  3. 部屋が乾くのは、外の冷たい空気を暖めているから
    1. 相対湿度は、温度が変われば勝手に動く
      1. 空気が抱えられる水の量は、20度で3倍以上になる
      2. 外の60%は、室内で17%になる
    2. 冬の重ね着が、偏りを大きくする
      1. 帯電列で離れた素材どうしほど強く偏る
      2. 並びが近いものどうしなら、静かに済む
  4. 同じ部屋にいて、痛い人と平気な人がいる
    1. 帯電しているのは服で、体は巻き込まれている
      1. 静電誘導という、少し遠回りな仕組み
      2. 触れる直前に火花は飛んでいる
    2. 痛みを決めているのは、足元の抵抗
      1. 靴底の材質で、電気の通しやすさが百万倍以上違う
      2. 床のほうも、逃げ道の一部を担っている
  5. 痛くないように逃がす方法はある
    1. 痛みの正体は量ではなく、速さ
      1. 百万分の1秒か、ゆっくりか
      2. 革の財布、木の壁、コンクリート
    2. 服と部屋の側から減らす
      1. 湿度は50〜60%を目安に
      2. 柔軟剤が効くのは、電気を打ち消しているから
  6. あの「バチッ」は、ガソリンに火をつけられる大きさ
    1. 0.45ミリジュールという数字
    2. ところが、燃料に火をつけるには十分
    3. シートに触ってから、歩かない
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冬が効いているのは、三つの段階のうち二つ

静電気は「偏る・たまる・放たれる」という三つの段階を踏んで、あの一瞬にたどり着きます。冬という季節がどこに効いているのかを、段階ごとに分けて見てみます。

段階起きていること冬の効き方
偏る(帯電)こすれたり離れたりした瞬間に、電子が片方の物へ移るほとんど変わらない。夏でも同じように起きている
たまる(蓄積)逃げ道がないと、偏った電気がその場に残る大きい。乾いた空気には逃げ道がない
放たれる(放電)金属などに近づいた瞬間、たまったぶんが一度に流れる大きい。たまった量が多いほど強く痛む

つまり冬の静電気は、発生量が跳ね上がった結果ではありません。ふだんなら消えていくはずの電気が消えずに居座り、まとめて放たれているという話です。

電気は冬に生まれるのではなく、冬に居座る

摩擦で電気が偏ること自体は、季節とほとんど関係がありません。季節が変えているのは、偏ったあとの行き先です。

電子の引っ越しは季節を選ばない

こすれた瞬間、電子が片側へ移る

二つの物がこすれ合うと、片方から片方へ電子が移ります。電子を受け取った側はマイナスに、渡した側はプラスに偏ります。これが摩擦帯電です。密着していた服を勢いよく脱ぐときのように、くっついていた面が離れる動きでも同じことが起きます。こちらは剥離帯電(はくりたいでん)と呼ばれます。

車のシートから腰を浮かせた瞬間や、コートを脱ぎ捨てた瞬間に「来る」のは、この剥離が効いているためです。労働安全衛生総合研究所の解説も、不快なショックの発生源としてこの二つを挙げています。

夏も起きているが、気づく前に消えている

真夏にセーターを脱いでもパチパチしないのは、電気が偏っていないからではありません。偏った端から周囲へ流れ出てしまい、感じるほどの量まで積み上がらないのです。静電気は「たまった量」で痛さが決まります。生まれた量ではありません。

湿気は、目に見えない通り道になる

表面に吸いついた水の膜が電気を通す

空気中の水分は、物の表面にうっすらと吸着します。水は電気を通しやすい物質。この薄い膜が電荷の抜け道になり、偏った電気は積み上がる前に流れ出ていくのです。

目安として、湿度が40%を下回るあたりから静電気は頻繁に起き始め、65%以上あれば表面に導電性が現れて流れ出ていくとされています。静電気がとくに起きやすい条件としてよく挙げられるのは、湿度20%以下・気温25度以下という組み合わせです。冬の暖房した室内は、この条件にそのまま当てはまります。

繊維によって「湿り気の持ち方」が違う

同じ部屋に置いても、繊維が含む水分の量はまるで違います。取引の基準として定められた公定水分率を並べると、その差は一目瞭然です。

公定水分率(こうていすいぶんりつ)とは、繊維の重さを取引や表示で計算するときに使う、繊維ごとの標準的な水分量の割合です。JIS L 0105で定められています。

繊維公定水分率静電気の起きやすさ
毛(ウール)15.0%水分を抱えるので、単独では比較的おとなしい
綿8.5%同上。肌着に選ばれる理由の一つ
ナイロン4.5%合成繊維のなかでは湿りやすい部類
アクリル2.0%乾いていて電気を抱え込みやすい
ポリエステル0.4%ほとんど水を含まず、電荷が残りやすい

ポリエステルと毛では、水分の割合が40倍近く開きます。フリースやアクリルのセーターが冬の主役になる季節に静電気の話が増えるのは、乾いた空気と乾いた繊維がそろってしまうためです。

部屋が乾くのは、外の冷たい空気を暖めているから

冬の室内が乾くのは、暖房が水分を吸い取っているからではありません。もともと水分の少ない外の空気を暖めた結果、湿度の数字が下がっているだけです。

相対湿度は、温度が変われば勝手に動く

空気が抱えられる水の量は、20度で3倍以上になる

1立方メートルの空気が限界まで含める水蒸気の量を、飽和水蒸気量といいます。0度では4.85グラム、20度では17.31グラム。わずか20度の差で、器の大きさが3.5倍あまりに広がります。

天気予報でおなじみの湿度は、この器に対して中身が何割入っているかを示した割合です。中身が同じでも器が大きくなれば、割合の数字だけが下がっていきます。

外の60%は、室内で17%になる

外気が0度で湿度60%だとすると、空気1立方メートルに含まれる水蒸気はおよそ2.9グラムです。この空気をそのまま室内に取り込んで20度まで暖めると、器は17.31グラムぶんに広がります。中身は2.9グラムのままなので、湿度はおよそ17%まで落ちます。

加湿をしない冬の部屋が砂漠のような数字を示すのは、このためです。暖かくすればするほど、同じ空気の湿度は下がっていきます。

冬の重ね着が、偏りを大きくする

帯電列で離れた素材どうしほど強く偏る

繊維には、こすれたときにプラスへ寄りやすいものとマイナスへ寄りやすいものがあり、その並びが帯電列(たいでんれつ)です。マイナス寄りから順に、塩化ビニル樹脂・アクリル・ポリエステル・アセテート・綿・レーヨン・絹・ナイロン・毛・ガラス繊維という並びが知られています。

この列で遠く離れた二つを重ねるほど、電子のやりとりは大きくなります。アクリルのカーディガンとナイロンのブラウス、ポリエステルのスカートとナイロンのストッキングは、その典型として挙げられる組み合わせです。

並びが近いものどうしなら、静かに済む

逆に、列の上で近い素材を合わせれば偏りは小さくなります。ポリエステルのスカートにポリエステルの裏地、綿のシャツにポリエステルのブルゾンといった組み合わせは、起きにくい例として紹介されています。素材を統一するのがいちばん確実で、同じ素材どうしなら電子の移動先がありません。

冬に着るものが増えるということは、この組み合わせの数も増えるということです。一枚なら起きなかったやりとりが、三枚重ねれば三か所で起きるわけです。

同じ部屋にいて、痛い人と平気な人がいる

静電気に強い体質、弱い体質という言い方をよく聞きます。ところが労働安全衛生総合研究所の解説は、その差が体質によるものではないと明言しています。分かれ目にあるのは、体にたまっている電気の量そのものです。

帯電しているのは服で、体は巻き込まれている

静電誘導という、少し遠回りな仕組み

電気をためこんでいるのは、実のところ衣服のほうです。人の体は電気を通す導体なので、帯電した服がそばにあると、体内の電荷が押しやられて電位が上がります。これを静電誘導といいます。地面につながっていなければ、その上がった電位は下がりません。

同解説は、この現象について「電気の専門家でも痛い目に遭わないと実感がわかない」と書いています。理屈のわかりにくさは、専門家でも同じということのようです。

触れる直前に火花は飛んでいる

帯電した体が金属に近づくと、指が触れるより前に空気を突き抜けて火花が走ります。痛みを感じたときには、放電はもう終わっているのです。電位と体感の関係には段階があります。1000ボルトではほとんど何も感じません。2000ボルトで指の外側に触れられたような感覚があり、3000ボルトになると針に刺されたように感じるとされています。

痛みを決めているのは、足元の抵抗

靴底の材質で、電気の通しやすさが百万倍以上違う

体にたまった電気は、ふだん靴と床を通ってゆっくり地面へ抜けています。その抜けやすさを決めているのが、靴底の材質です。同研究所によれば、天然ゴムやクロロプレンゴム系の靴底は1兆オーム(1012Ω)を超えることがあり、ポリウレタンエステルやニトリルゴム系では100万オーム(106Ω)以下になりやすいといいます。

前者を履いた人はビリビリと来て、後者を履いた人は平気。同じ床の上に立っていても、そこで差がつきます。ちょうどよいのは106〜108オームの範囲で、この程度なら0.1秒以内に、痛みを感じないまま電気が消えていきます。

足元の条件抵抗の目安体感
天然ゴム・クロロプレンゴム系の靴底1012Ω超電気が抜けず、金属でビリビリ来る
ちょうどよい範囲106〜108Ω0.1秒以内に、感じないまま消える
ポリウレタンエステル・ニトリルゴム系の靴底106Ω以下ほとんど帯電せず平気

床のほうも、逃げ道の一部を担っている

靴だけで決まるわけではなく、踏んでいる床も逃げ道の一部です。コンクリート・土・石材・木材といった天然素材の床なら、一般的な場所では問題にならないとされています。一方、養生のために敷いたビニールシートのような絶縁物の上では、その効果が消えてしまうのです。

同じ人が同じ服のままでも、玄関では平気で、部屋に上がった途端にパチッと来ることがあります。変わったのは体調ではなく足元です。

痛くないように逃がす方法はある

静電気そのものを消すのは難しくても、痛みだけを避けるのは難しくありません。同じ量の電気でも、流し方を変えれば感じなくなります。

痛みの正体は量ではなく、速さ

百万分の1秒か、ゆっくりか

静電気のショックは、百万分の1秒以内に数ミリアンペアの電流が体を通り抜けることで生じます。同じ電気でも、0.1ミリアンペア以下でゆっくり流せばショックは感じません。痛いかどうかを分けているのは、たまった量よりも、それが何秒かけて流れたかのほうです。

革の財布、木の壁、コンクリート

強く帯電してしまったときの逃がし方として、同研究所は具体的な方法を挙げています。革製の財布や手袋を手に持ち、それでドアノブなどの金属に一瞬触れるという手です。皮革の抵抗は108オーム程度で、ちょうどよい範囲に収まっています。

革製品が手元になければ、コンクリートや木の壁に数秒間手を触れるだけでも構いません。金属より先に、ほどよく電気を通すものへ触れておく。それだけで、あの一瞬は起きなくなります。

服と部屋の側から減らす

湿度は50〜60%を目安に

加湿の目標としてよく示されるのは50〜60%です。40%を切ると起きやすくなり、65%まで上げれば表面が湿って電気が流れ出ていく、という話の間を取った数字といえます。洗濯物の部屋干しでも湿度は上がるので、加湿器がなければそれで代えても構いません。

柔軟剤が効くのは、電気を打ち消しているから

柔軟剤の主成分は、水に溶けるとプラスに帯電するカチオン界面活性剤です。マイナスに帯電しがちな繊維の表面に電気の力で吸いつき、その偏りを打ち消します。繊維どうしのすべりがよくなって柔らかく仕上がるのも、同じ成分の働きです。

やわらかさと静電気の抑制は、別々の効能が並んでいるのではありません。繊維の表面を薄く覆うという一つの働きが、二つの形で表れているだけです。

あの「バチッ」は、ガソリンに火をつけられる大きさ

0.45ミリジュールという数字

人の体は、電気をためる部品としてみると100ピコファラッドほどの容量があるとされます。この体が3000ボルトに帯電したときにたくわえられているエネルギーは、計算すると0.45ミリジュールです。1グラムの水を1度あたためるのに必要なのが約4.2ジュールですから、その1万分の1ほどしかありません。

コンセントの100ボルトの30倍という電圧なのに感電死しないのは、そのためです。電圧は高くても、流れる電気の量そのものが極端に少ないのです。

ところが、燃料に火をつけるには十分

ところが、比べる相手を変えると話が変わります。ガソリン蒸気に火がつくのに必要な最小のエネルギーは、およそ0.2〜0.4ミリジュールとされています。指先で感じるあの0.45ミリジュールは、その値を上回る大きさです。

最小着火エネルギーとは、可燃性のガスや蒸気に火花で着火させるために必要な、最小限のエネルギーのことです。値が小さいほど、わずかな火花で燃え出します。

シートに触ってから、歩かない

セルフ式のガソリンスタンドにある静電気除去シートは、ショックを感じないよう抵抗を調整したうえで、体の電気を先に抜いておくための装置です。日本でセルフ給油が始まったのは1998年(平成10年)。2001年(平成13年)に新潟県のスタンドで静電気が原因とみられる火災が起き、同じ年の8月に消防庁から静電気対策の通達が出されました。

注意したいのは、シートに触れたあとの動きです。触れてから車のまわりを歩けば、衣服がこすれてまた帯電します。給油ノズルを握った手との間で放電し、気化したガソリンに引火した例も報告されました。

触るのは給油口を開ける直前。触ったら、そのままノズルへ。

「静電気に強い人」「静電気体質」という言い方は、日常の会話としてはよくできています。ただ中身を開けてみると、そこで語られているのは人の性質ではありません。靴底のゴムが何でできているか、床が木かビニールか、部屋の空気が何グラムの水を抱えているか。体質という一語にまとめていたものは、身につけている物と立っている場所の話へ、そっくり分解できてしまいます。冬のドアノブが手ごわく感じる年は、自分の体を疑う前に、足元を見てみるほうが早いのかもしれません。

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