2011年3月11日、千葉県浦安市などの埋立地では、道路の割れ目から黒っぽい水が砂といっしょに噴き上がりました。液状化は、地下水に満たされたゆるい砂が地震で揺すられ、砂粒どうしの支え合いが外れて液体のようにふるまう現象です。雨の日のぬかるみは土に水が足されて起きますが、液状化では水は一滴も増えていません。
液状化のとき地面の中で何が起きている?

ふだんは砂粒が重さを支えている
水を多く含んだ砂の地盤では、砂粒どうしが接して上の重さを支え、そのすきまを地下水が満たしています。家や道路の重さを受け持っているのは水ではなく、かみ合った砂粒の骨組みです。水はすきまを埋めているだけで、ふだんは目立つ仕事をしていません。
揺すられた砂は詰まろうとする
ゆるく積もった砂は、強く揺すられると粒が動いて、もっと詰まった並び方へ落ち着こうとします。ところが、すきまの水は一瞬では外へ逃げられません。詰まろうとする砂に押されて、地下水の圧力が急に高まります。
水圧が砂粒を浮かせてしまう
水圧が上の重さと釣り合うほど高まると、砂粒は互いに押し合う力を失い、水の中に浮いたような状態になります。こうなると地面は、砂の混じった重たい液体と変わりません。気象庁の解説の言葉を借りれば、「水と砂粒が一体となり液体のように」なった状態です。
行き場を失った水が地上へ噴き出す
高い圧力の水は、地面の割れ目など弱いところを見つけて地上へ上がってきます。このとき砂も運ばれてくるため、水が引いたあとには砂の山が残る。これを噴砂(ふんさ)と呼びます。地中の砂が抜けた分だけ、地面は沈んだりへこんだりします。
雨のぬかるみは土の中で何が起きている?

粘土やシルトが水を吸ってやわらかくなる
ぬかるみの主役は、砂よりずっと細かい粘土やシルト(砂と粘土の中間の細かさの土)です。雨がしみ込むと、細かい粒のあいだに水が入り込み、粒どうしがすべりやすくなります。土に含まれる水の割合が上がるほど、こねた粘土のように形を変えやすい土になるわけです。
水の割合で土の状態が決まる
土の中の水の重さを土の粒の重さで割った値を、含水比(がんすいひ)といいます。粘土は含水比が低いと硬く、上がるにつれて粘土細工のように変形する状態へ。さらに上がると流れ出すようになります。その境目は液性限界と呼ばれ、土の試験で決まった方法で測られています。
※ 液性限界・塑性限界(えきせいげんかい・そせいげんかい)とは、土が液体のように流れ始める含水比と、粘土細工のように形を変えられる状態から硬い状態へ移る含水比のことです。JIS(日本産業規格)で試験方法が決められています。
砂場の砂はぬかるみにならない
粘り気のない砂は、水を含ませて手のひらで転がしても、ひも状にまとまりません。土の試験ではこうした土を「塑性を示さない」土として扱います。砂は粒が大きくすきまも広いので、雨水は下へ抜けていきます。雨上がりの砂場が泥だらけにならないのはこのためです。
ぬかるみと液状化の違い

雨でぬかるまない砂が、地震では液体のようになる。逆に、雨でぐちゃぐちゃになる粘土は液状化しにくい。二つを並べると、ほとんどの行で答えが入れ替わります。
| 雨のぬかるみ | 地震の液状化 | |
|---|---|---|
| 起きやすい土 | 粘土・シルト | ゆるく積もった砂 |
| 水はどこから | 雨が上からしみ込む | もともと地下にある地下水 |
| 土の中の水の量 | 増える | 増えない |
| きっかけ | 雨が続くこと | 強い揺れが続くこと |
| 続く時間 | 土が乾くまで | 揺れの最中から水が抜けるまで |
| あとに残るもの | 足あと・わだち | 噴砂・沈下・傾き |
いちばん大きな違いは「土の中の水の量」の行です。ぬかるみは水が足されてやわらかくなり、液状化は同じ量の水が圧力を持つことで起きる。水が逃げてしまえば、液状化した砂は再び地面に戻ります。
液状化しやすいのはどんな土地?

砂・ゆるさ・地下水の三つがそろう場所
国土交通省北陸地方整備局の解説は、液状化しやすい条件を三つにまとめています。浅いところに砂の層があること。その砂がふんわりたまっていて締まっていないこと。そして砂の層が地下水に満たされていることです。一つでも欠けると、液状化は起きにくくなります。
深さ20m以内の、粒のそろった砂
気象庁大阪管区気象台の資料では、液状化しやすいのは深さ15〜20m以内のしまりのゆるい砂層とされています。粒の大きさは直径8分の1〜2分の1ミリほどの細かい砂から中くらいの砂です。粒の大きさがそろっているほど、液状化の可能性は高くなるといいます。
埋立地や昔の川の跡は要注意
典型は、海を埋め立てた土地や、川の流れが変わって埋まった旧河道(きゅうかどう)です。砂丘の縁や、沼・湿地を埋めて宅地にした土地も当てはまります。新潟県の三つの地震で液状化した範囲を地形ごとに見ると、旧河道では約30%、盛土地で10%強が液状化しました。扇状地や台地では0〜0.4%にとどまっています。
同じ砂でも古い地盤は落ち着いている
1964年の新潟地震では、同じ砂の地盤でも古町(ふるまち)地区の被害はほとんどありませんでした。昭和の初めに埋め立てた信濃川沿いと違い、古町は江戸時代以前からの中州で、地震までに300年以上たっていました。積もった砂は長い時間をかけて固まっていくため、300年が一つの目安になるという見方があります。
地震が来ればどこでも液状化する?

目安は震度5以上の揺れ
三つの条件がそろっていても、揺れが弱ければ液状化は起きません。北陸地方整備局の解説では、おおよその目安を震度5以上としています。浦安市の震度は5強でした。建物を壊すほどの揺れでなくても、地盤の条件しだいで広い範囲が液状化することがあります。
揺れが長く続くほど起きやすい
揺れの強さと同じくらい大事なのが、揺れている時間の長さです。砂は何度も揺すられるうちに少しずつ詰まり、そのたびに水圧が積み上がっていきます。強くても一瞬で終わる揺れでは、水圧が上がりきらないまま収まってしまいます。
一度液状化した場所でもまた起きる
揺すられて締まり、強くなりそうに思えますが、そうはなりません。2004年の中越地震と2007年の中越沖地震では、2回とも液状化の被害を受けた家がありました。液状化した砂は地下水の中で再びふんわり積もり直すため、締め固まるわけではないようです。
1964年の新潟地震で世界に知られた

横倒しになった4階建てのアパート
1964年6月16日の新潟地震では、新潟市川岸町の鉄筋コンクリート4階建ての県営アパートが傾きました。建物は形を保ったまま、最後は横倒しになっています。海岸から1.5kmほど内陸の建物です。壊れずに倒れたその姿が、地盤そのものが崩れたことを世界に印象づけました。
同じ年のアラスカ、さらに江戸時代にも
新潟地震の3か月前、3月28日にはアラスカでマグニチュード9.2の地震が起き、液状化が報告されていました。それでも人の少ない土地より、都市の真ん中で起きた新潟の被害のほうが衝撃は大きかったのです。これをきっかけに、液状化の研究が本格的に始まりました。
もちろん、液状化は1964年に始まった現象ではありません。江戸時代の三条地震(1828年)にも液状化を思わせる記録があり、遺跡の発掘現場からも噴砂の跡が次々に見つかっています。名前を知らなくても、昔の人は地面から砂が噴き出す光景を目にしていたはずです。
浦安市では市域の約86%が液状化した

全国で約2万7千件の宅地被害
2011年の東日本大震災では、9都県で約2万7千件の宅地が液状化の被害を受けたと国土交通省はまとめています。震源から遠い東京湾岸や利根川沿いでも被害が広がり、熊本地震や北海道胆振東部地震でも同じような被害が出ました。液状化は、震源の近くだけの問題ではありません。
噴き出した土砂は約7万5千立方メートル
浦安市の資料によると、液状化は約1,455ヘクタール、市域の約86%で起きました。昭和40〜50年代に造成した埋立地の全域です。地上に噴き出した土砂は約7万5千立方メートルにのぼり、家屋の被害は9,185棟に達しました。内訳は全壊24棟・大規模半壊1,560棟・半壊2,185棟・一部損壊5,416棟でした。
下水管23.2kmが砂で詰まった
被害は家だけにとどまりません。液状化した土砂で下水管が延べ23.2kmにわたって詰まり、マンホールは約700基が壊れて、約1万1,900戸でトイレや排水の使用が制限されました。断水は約3万3千戸、ガスの供給停止は約8,600戸にのぼりました。
液状化すると家や道路はどうなる?

重い家は沈み、マンホールは浮く
液体のようになった地面では、重いものは沈み、軽いものは浮きます。家は自分の重さで沈み込み、中が空洞のマンホールは浮力で地上へ押し上げられる。道路から突き出たマンホールの写真は、液状化を象徴する光景としてよく知られています。
100分の1の傾きでも暮らしにくい
家は均等には沈まず、片側へ傾くのがふつうです。これが不同沈下(ふどうちんか)です。1mにつき1cmという100分の1ほどのわずかな傾きでも、平衡感覚がおかしくなり、住み続けるのは難しいとされます。見た目には小さな傾きでも、毎日の暮らしには大きく響くのです。
杭で支えた建物も周りとの段差に悩む
深い固い地層まで杭を打ち込んだ建物は、液状化しても傾きにくくなります。ただし周りの地面だけが沈むと、建物との間には段差ができてしまう。建物につながるガス管や上下水道管がちぎれて、使えなくなる心配が残ります。
液状化が人を救ったという見方もある

新潟地震の死者は26人
新潟地震の死者は26人で、地震の規模の割には少なかったとされます。川岸町のアパートは横倒しになりましたが、中にいた人は無事でした。地盤が液体のようになったことで強い揺れが吸収され、建物はゆっくり傾いたと北陸地方整備局は説明しています。押しつぶされた家屋の下敷きになる被害は、阪神・淡路大震災に比べて少なかったのです。
噴き出した水が火事を防いだ?
地震は午後1時2分、昼食の支度で火を使う家が多い時間でした。製油所では大きな火災が起きたものの、市街地からはほとんど火の手が上がっていません。液状化で噴き出した水が消火に役立ったのではないかと考えられています。浦安市でも、東日本大震災での火災の発生はゼロでした。
砂浜の足あとは液状化と逆の現象

踏んだ足の周りの砂が白く乾く
波打ち際の濡れた砂を踏むと、足の周りだけ一瞬白く乾いたように見えます。よく締まった砂は、押されて変形するとかえって体積が増え、すきまが広がります。広がったすきまへ表面の水が吸い込まれるため、足元が乾いて見えるのです。この性質はダイレイタンシーと呼ばれ、1885年にイギリスの物理学者オズボーン・レイノルズが論文で示しました。
ゆるい砂は逆に縮んで水を押し出す
締まった砂は変形すると膨らみますが、ゆるく積もった砂は反対に縮もうとします。縮むときにすきまの水が押されて圧力が上がり、行き着く先が液状化です。波打ち際で白く乾く足あとと、埋立地で噴き出す泥水は、同じ砂の性質の表と裏なのです。
液状化を防ぐには三つの条件のどれかを外す

砂を固めるか、締め固める
「砂であること」「ゆるいこと」を変える方法としては、セメントなどの固化材を混ぜて固める地盤改良があります。砂の杭を押し込んだり、重りを落としたりして地盤を締め固める方法も使われてきました。土そのものを入れ替えるやり方も、対策の一つに数えられています。
地下水を抜いて水位を下げる
「地下水に満たされていること」を外すのが、排水の工事です。穴をあけたパイプを地中に差し込んだり、砕石を詰めた柱を立てたりして水を抜きます。中越地震のあとに排水工事をした家が、3年後の中越沖地震で液状化の被害を免れた例もありました。
対策は家を建てる前が安く済む
家が建ってから地盤に手を入れようとすると、使える工法は限られ、費用も大きくふくらみます。国土交通省は2020年に「地形区分に基づく液状化の発生傾向図」を公表しました。土地を選ぶ段階で、自治体の液状化ハザードマップとあわせて確かめておくと安心です。
ぬかるみは、水が増えて足が沈む地面でした。液状化は、水は増えないのに足場の支えだけが消える地面です。落ち着いた砂になるまで300年という見立てに従えば、昭和の埋立地はまだ若い土地といえます。しっかりした暮らしを「地に足がついた」と言いますが、その「地」がどうやってできたかまで知っておくことが、本当の意味で地に足をつけることなのかもしれません。
参考
- 国土交通省北陸地方整備局「液状化Q&A」
- 大阪管区気象台「地震一口メモNo.121 『液状化』について① しくみ」
- 浦安市「復興交付金事業計画の総合評価」
- 国土交通省「みなさん、液状化にはご注意ください!」(2020年12月16日)
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