2017年1月1日の朝、日本の標準時は「8時59分59秒」のあとに「8時59分60秒」を刻み、それから9時0分0秒になりました。この余分な1秒が「うるう秒」です。原子時計がつくる正確な時刻と、少しずつ揺らぐ地球の自転とのずれが0.9秒を超えないよう、1972年から27回足されてきました。ところが2026年10月の国際会議で、2027年5月20日からはもう入れないことが決まっています。
うるう秒は朝9時の直前に入る

日本では「8時59分60秒」が現れる
うるう秒は、世界の時刻の基準である協定世界時(UTC)の6月末か12月末の最後に「23時59分60秒」として足されます。日本標準時はUTCより9時間進んでいるため、日本では7月1日か1月1日の午前9時の直前に現れる計算です。時報の「117」も、この1秒を入れて日本標準時に合わせてきました。
入れるかどうかは国際機関が決める
足すかどうかを決めるのは、地球の回り方を観測している国際機関「国際地球回転・基準系事業(IERS)」です。おおむね半年前に予告が出て、日本では情報通信研究機構(NICT)が日本標準時に1秒を挿入し、総務省が報道発表で知らせてきました。勝手に入るのではなく、毎回観測にもとづいて判断されていたわけです。
なぜ時計と地球はずれるのか

1秒の物差しは1967年に地球から原子へ
かつて1秒は、地球の自転や公転をもとに決められていました。1967年の国際度量衡総会で、セシウム133という原子が出す電磁波が9,192,631,770回振動する時間を1秒とする定義に切り替わります。原子の振動は地球の回り方よりはるかに安定しているので、時計の精度は一気に上がりました。
※ 原子時計とは、原子がもつ決まった振動の回数を数えて時間を刻む時計のことです。
地球の1日は86,400秒ちょうどではない
困るのは、地球の自転のほうが一定でないことです。月の引力で海がふくらむ潮の満ち引きは、海水と海底との摩擦を通じて自転にブレーキをかけています。1日の長さは長い目で見ると少しずつ延びていて、大気や海の動き、地球内部の動きでも短期的に揺らぎます。
1日が86,400秒より2ミリ秒長いだけでも、1年たてば約0.7秒の差になる計算です。原子時計は正確に進み続けるのに、太陽の位置で決まる「地球の時刻」は少しずつ遅れていく。この差を放っておくと、何百年か先には昼の12時に太陽が南にこない、という事態が起こりえます。
0.9秒を超える前に1秒足す
そこで1972年に始まったのが、地球の自転にもとづく時刻(UT1)とUTCとの差を0.9秒以内に保つしくみでした。差が0.9秒に近づきそうになると、UTCに1秒を足して地球の側へ寄せます。原子時計の正確さと、太陽を基準にした暮らしの時刻。その両方を立てるための折り合いが、うるう秒だったと言えます。
27回のうるう秒はいつ入った?

年代ごとの回数
うるう秒はどのくらいの間隔で入ったのでしょうか。総務省が2017年に公表した実施一覧から、日本時間の日付で年代ごとに数えると次のようになります。
| 年代(日本時間) | 回数 | 実施した年 |
|---|---|---|
| 1970年代 | 9回 | 1972年7月・1973年〜1980年の毎年1月 |
| 1980年代 | 5回 | 1981年・1982年・1983年・1985年・1988年 |
| 1990年代 | 8回 | 1990年・1991年・1992年・1993年・1994年・1996年・1997年・1999年 |
| 2000年代 | 2回 | 2006年・2009年 |
| 2010年代 | 3回 | 2012年・2015年・2017年 |
1970年代の欄には1980年1月1日の分も含めました。合わせてちょうど27回です。
1972年は1年に2回入った
始まった1972年は、6月末と12月末の両方に1秒が足されました。日本時間でいうと1972年7月1日と1973年1月1日です。そこから1980年まではほぼ毎年のペースで、1990年代も1年あまりに1回は入っていました。地球の自転が今より遅めだった時期で、ずれがたまりやすかったのです。
1999年から7年の空白
ところが1999年1月1日のあと、次のうるう秒は2006年1月1日まで7年も入りませんでした。自転が速めの時期にあたり、ずれがなかなか0.9秒に近づかなかったとみられています。年代別の回数を並べると、ペースが一定ではなく地球しだいで大きく変わってきたことが分かります。
2017年元日の1秒が最後になる
27回目は、冒頭の2017年1月1日(UTCでは2016年12月31日)です。そこから9年あまり、次のうるう秒は一度も予告されていません。2027年5月20日に廃止が始まるので、あの元日の朝9時直前の1秒が、史上最後のうるう秒になる見通しです。
足した1秒は積もって37秒に

原子時とのずれは37秒
うるう秒を足さない純粋な原子時計の時刻は「国際原子時(TAI)」と呼ばれます。UTCは1972年の出発時点でTAIより10秒遅れに設定され、そこに27回のうるう秒が加わりました。いまUTCはTAIより37秒遅れています。私たちのふだんの時刻は、原子時計そのものの時刻とは37秒ちがうのです。
GPSの時計は18秒先を行く
カーナビやスマホの位置情報に使われるGPSは、衛星の中で独自の「GPS時刻」を使っています。1980年1月6日にUTCとそろえて始まり、それ以降うるう秒を足していません。その後に入ったうるう秒は18回あるため、GPS時刻はUTCより18秒進んだままです。受信機は衛星から送られる差の情報を使い、画面ではUTCや日本時間に直して表示しています。
たった1秒で何が困る?

2012年、空港のチェックインが手作業に
人の暮らしには気づかないほどの1秒でも、コンピューターには大問題です。「60秒」という時刻をふだんは想定していないプログラムが多いからです。2012年6月30日(UTC)のうるう秒では、Linuxの不具合から航空会社向けの予約システムが約1時間止まりました。オーストラリアのカンタス航空などでは、職員が手作業で搭乗手続きをする事態になったと報じられています。掲示板サイトのRedditなども同じ日に不調に陥りました。
2017年元日にはネットの住所録がつまずいた
最後のうるう秒でも障害は出ました。ネット企業のクラウドフレアは、ドメイン名をIPアドレスに変換するDNSの一部が失敗したと公表しています。原因は、時刻の差を計算した値が「マイナス」になり、プログラムが想定外として止まったことでした。影響はピーク時でDNS問い合わせの約0.2%と小さかったものの、1秒の逆戻りが現実の障害につながると示す一件です。
1秒を薄めて配る「リープスミア」
こうした事故を避けるため、Googleは2008年から、うるう秒を一度に入れず時計の進み方をわずかに遅らせて吸収する方法をとってきました。「リープスミア(うるう秒を塗り広げる)」と呼ばれ、現在の方式はUTCの正午から翌日の正午まで24時間かけて1秒を薄めます。その間、Googleのサーバーの時刻は本来のUTCと最大で0.5秒近くずれる。それでも「60秒」が現れないぶん、止まるプログラムは出にくくなるという考え方です。
地球の自転は速くなっている?

2020年ごろから1日が短めに
長い目で見れば自転は遅くなる方向ですが、ここ数年は逆に速まる傾向が観測されています。2020年ごろからは1日が86,400秒より短い日が目立ち、2020年7月19日には約1.47ミリ秒短い日が記録されたと報じられました。うるう秒が2017年を最後に入っていないのも、この速まりで差がたまらなくなったためです。
1秒を「引く」うるう秒は前例がない
速まりが続けば、今度はUTCから1秒を抜く「負のうるう秒」が必要になります。この場合は「59秒」を飛ばして次の分へ進むことになり、これまで一度も実施されたことがありません。1秒足すだけで障害が出てきたのに、引く処理はほとんどのシステムで試されていない。時刻の専門家たちが最も心配したのはこの点でした。
温暖化が先送りしたという研究も
カリフォルニア大学サンディエゴ校の地球物理学者ダンカン・アグニュー氏は、2024年3月に科学誌ネイチャーで、極地の氷がとけたことが負のうるう秒を先送りしているとする研究を発表しました。とけた水が赤道側の海へ広がると、回る物体の重さが外側へ移り、フィギュアスケートで腕を広げたときのように回転が遅くなります。同氏の試算では、負のうるう秒が必要になるのは2028年ごろで、氷がとけなければ3年早まっていたとされます。
廃止は2027年5月20日から

2022年の決定は「2035年までに」
うるう秒をやめる議論は、2000年代から国際電気通信連合(ITU)などで続いてきました。2022年11月の第27回国際度量衡総会は「UT1とUTCの差の上限を2035年までに引き上げる」と決議しています。新しい上限の値は決めず、少なくとも100年はUTCを連続させられる値を次の総会までに提案するよう求めました。
2026年10月の総会で前倒し
その次の総会が、2026年10月にフランスのヴェルサイユで開かれた第28回国際度量衡総会です。10月15日に採択された決議5で、「連続したUTC」を2027年5月20日から有効にすると決めました。決議は、2025年3月の専門家会合で負のうるう秒の確率が2035年までに30%に達すると見積もられたことを挙げ、重要なインフラの障害につながる危険が高いと述べています。2035年を待たずに前倒しした理由がここにあります。
許容は0.9秒から1時間へ
決議5は、UT1とUTCの差の上限を3,600秒、つまり1時間に広げました。これまでの0.9秒の4,000倍にあたり、数世紀にわたってUTCを連続させられる幅だとしています。地球の自転と時計はこれからも少しずつずれていきますが、そのずれを毎回1秒ずつ直すことはやめる、という決定です。
1時間ずれたら暮らしは困る?

「うるう時」が決まったわけではない
一部の報道は「今後は1時間単位の『うるう時』になる」と伝えました。しかし決議の準備に関わったNICTの井戸哲也氏は、決まったのは上限を3,600秒まで広げることだけで、達したときにどうするかはまだ何も決まっていないと説明しています。上限に届くのは数世紀以上先とみられ、その扱いは将来の世代にゆだねられた形です。
時差や夏時間のほうがずっと大きい
そもそも私たちは、太陽の位置と数十分ずれた時刻で暮らしています。日本標準時は兵庫県明石市を通る東経135度が基準で、東経約139.7度の東京では太陽が南にくるのが平均で約19分早くなります。夏時間を採る国では、1年の半分を太陽より1時間ずらして過ごしているほどです。1秒ずつのずれが何百年もかけて積もる程度なら、ふだんの生活で気づくことはまずありません。
天文学者は自前で補正する
影響を受けるのは、UTCを地球の向きの目安として使ってきた分野です。望遠鏡で星を追う天文学や、人工衛星の観測などがこれにあたります。ただ、IERSはUT1とUTCの差を観測して公表し続けるので、精密な計算が必要な人はその値で補正できます。うるう秒のおかげで「ほぼ地球の時刻」として使えたUTCが、純粋な原子時計の時刻に近づくということです。
UTCの並びは英語でも仏語でもない

CUTでもTUCでもなくUTC
協定世界時は英語で「Coordinated Universal Time」、フランス語で「Temps Universel Coordonné」です。頭文字を並べると英語ならCUT、フランス語ならTUCになるはずが、略称はどちらでもない「UTC」。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、どちらの語順にも全員の賛成が得られず、両方を避けた折衷案が採られたと説明しています。
グリニッジ標準時との違い
UTCとよく並べて語られるのが、ロンドンのグリニッジ天文台を基準にしたグリニッジ標準時(GMT)です。GMTはもともと太陽の動きで決まる天文学の時刻で、UTCは原子時計をもとにうるう秒で地球に寄せた時刻でした。両者の差は1秒未満に保たれてきたため、日常ではほぼ同じものとして扱われています。うるう秒の廃止で、この「ほぼ同じ」も何世紀か先には崩れていくことになります。
原子時計という完璧な物差しを手に入れても、人は太陽の下で暮らす時刻を手放しませんでした。うるう秒は、そのために続けた半世紀分の手作業です。27回の1秒を足し合わせても、まだ30秒に届きません。それでも空港を止め、ネットをつまずかせるには十分な長さだったのです。
2027年5月20日からは、時計は地球を待たずに進みます。次に誰かが時計と地球の帳尻を合わせるのは、早くても数百年後のことです。
参考
- BIPM(国際度量衡局)「Resolution 5 of the 28th CGPM (2026)」
- 総務省「『うるう秒』挿入のお知らせ」(2016年)
- スクリプス海洋研究所「Global Warming Influencing Global Timekeeping」(2024年)
- Google Public NTP「Leap Smear」
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