1995年の阪神・淡路大震災では阪神高速道路が倒壊したことが記憶されていますが、地下を走る路線は地上の高架橋に比べて被害が相対的に小さかったとされています。「地下は地震に強い」と言われることがありますが、それはなぜなのでしょうか。日本の都市インフラと防災設計の視点から読み解きます。
地下鉄が地震に強い主な理由
| 理由 | 説明 |
|---|---|
| 地盤との一体化 | 地下構造物は周囲の地盤と一緒に動くため、地表より揺れが小さくなる傾向がある |
| 固有振動数の違い | 地下は地表と比べ、地震波の増幅が起きにくい |
| 構造の連続性 | トンネルは連続した筒状構造で、部分的な破壊に強い設計になっている |
| 耐震・免震技術 | 日本の地下鉄は阪神大震災以降、柱の補強・免震ゴムの設置など大規模改修が進んだ |
ただし「強い」は相対的な表現です。液状化・断層直下・老朽化した設備などの条件次第では地下でも大きな被害が生じることがあるのです。
地中構造の物理的な優位性
地盤と一体になって揺れる仕組み
地震が発生すると、揺れは地盤を通じて伝わります。地上の建物は基礎と地盤の境界で複雑に揺れますが、地下のトンネルや駅舎は周囲の地盤に埋め込まれた状態なので、地盤の動きとほぼ同じように動きます。この「追従性」が、建物を単体で揺らす地上構造との最大の違いです。
地震波は深い地盤を通過する際にエネルギーが分散・減衰する性質もあります。地表近くでは軟らかい地盤(砂や粘土)が地震波を増幅させることがありますが、一定の深さ以下では岩盤や固い地盤に囲まれているため、揺れが相対的に小さくなるのです。
阪神大震災後に進んだ耐震補強
1995年の阪神・淡路大震災では、神戸市営地下鉄の大開駅(おおひらきえき)で柱が崩壊し、駅舎が大きく沈下するという深刻な被害が発生しました。これは当時の設計基準が現在の耐震水準を満たしていなかったことが主因だったのです。
この教訓を受けて、国土交通省は地下鉄の耐震基準を大幅に引き上げました。既存の地下構造物に鉄板を巻きつける「鋼板巻き立て補強」や、柱を炭素繊維シートで覆う工法など、さまざまな耐震補強技術が開発・適用されてきたのです。
日本独自の都市防災設計
東京・大阪の地下鉄が持つ防災機能
東京メトロや東京都交通局は、大規模災害時の行動計画(BCP:事業継続計画)を策定しています。地下鉄が運行できない状態になっても、駅構内を帰宅困難者の一時滞在場所として活用する協定が自治体と結ばれているのです。
大阪の「なんばウォーク」や東京の「八重洲地下街」のような大規模な地下街は、災害時の避難経路や備蓄倉庫としても機能するよう設計されています。地下空間が交通インフラと防災インフラを兼ねる発想は、人口密度の高い日本の都市に特有の工夫と言えるのです。
液状化と浮き上がりという弱点
地下構造物には弱点もあります。地下水を多く含む砂地盤では「液状化」が起こり、地盤が泥状になることで地下トンネルが浮き上がったり、変形したりする可能性があります。東日本大震災では仙台市の下水道管が浮き上がる被害が複数報告されました。
また、水害時には地下空間が逆に危険な場所にもなります。地上から水が流れ込むと地下鉄の駅や地下街が浸水し、脱出が困難になるためです。地下の防災設計は地震対策と水害対策を両立させる必要があり、日本の都市インフラ設計者が常に向き合う課題です。
豆知識:世界で最も複雑な地下鉄網のひとつ
東京の地下鉄網は、東京メトロ9路線・都営地下鉄4路線に加え、JR線や私鉄との相互乗り入れを含めると世界でも有数の複雑さを誇ります。延べ路線長は300km以上、年間の旅客数は30億人を超えます。
これだけの規模を維持しながら地震の多い日本で安定的に運行し続けるためには、設計・建設・維持管理の各段階での継続的な技術革新が欠かせません。毎夜終電後に行われる保守点検作業は、都市インフラの安全を陰で支えているのです。
地下鉄のトンネルを走り抜けるとき、その壁の向こうに何十年もの耐震設計の積み重ねがあることを思い浮かべると、都市インフラへの見方が少し変わるかもしれません。


