マジックテープはなぜくっつくのか——「ひっつき虫」から生まれた発明

モノと道具の話
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マジックテープは、押し付ければくっつき、ビリッとはがせば何度でも使えます。あまりに身近で、なぜくっつくのかを考えることは少ないかもしれません。でも、その手本が野山の「ひっつき虫」だと知ると、見え方が少し変わります。あの厄介な植物の実が、世界中で使われる発明のもとになりました。

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くっつく仕組みと誕生のあらまし

マジックテープの正体は、ごく単純な引っかかりです。単純だからこそ丈夫で、くり返し使えます。くっつく原理から発明者まで、要点を先に一覧にします。

項目中身
くっつく原理片面の小さな「かぎ」が、もう片面の「輪」に引っかかる
手本服や犬の毛にくっつく植物の実「ひっつき虫」
発明者スイスの技師ジョルジュ・デ・メストラル
名前の由来ベルクロ=velours(ビロード)+crochet(かぎ)

なぜくっつくのか——かぎと輪のしくみ

マジックテープがくっつくのは、片面にびっしり並んだ小さなかぎが、もう片面の輪に引っかかるからです。仕組みそのものは拍子抜けするほど素朴です。

片面は「かぎ」、片面は「輪」

テープの片面には、先が曲がった硬い小さなかぎ(フック)が無数に並んでいます。もう片面は、やわらかい糸の輪(ループ)がびっしり広がった面です。二つを押し合わせると、たくさんのかぎがいっせいに輪をつかまえます。ひとつの引っかかりは弱くても、何百何千と集まることで、面全体ではかなりの力に耐えるのです。

はがせるのに何度も使えるわけ

便利なのは、強く留まるのに簡単にはがせることです。面ごと垂直に引っ張ると全部のかぎで踏ん張りますが、端からめくるように引くと、かぎが一列ずつ順番に外れていきます。あの「ビリビリ」という音は、かぎが次々に輪から外れる音です。かぎは弾力のある素材ででき、外れても元の形に戻るため、何度くっつけてもへたりにくいというわけです。

「ひっつき虫」を手本に生まれた

このしくみは、ゼロから考え出されたものではありません。お手本になったのは、野山で服にくっつく植物の実、いわゆる「ひっつき虫」でした。

犬の毛についた実を顕微鏡でのぞいた

発明のきっかけは、1941年のある狩りの日でした。スイスの技師ジョルジュ・デ・メストラルは、帰り道で自分のズボンと愛犬の毛に、ゴボウの仲間の実がびっしりついているのに気づきます。顕微鏡でのぞいてみると、実の表面には先が曲がった小さなかぎが無数にあり、布や毛の輪にしっかり食い込んでいました。この「やられた」という体験こそが、発明の出発点になったのです。

顕微鏡をのぞく人のイラスト

完成までに約10年かかった

思いつきはすぐでも、布で再現するのは簡単ではありませんでした。自然のかぎを人工の生地でどう作るか試行錯誤が続き、本格的な開発は1948年ごろから約10年に及びます。1951年に特許を出願し、1955年に特許を取得しました。製品名は、フランス語のvelours(ビロード)とcrochet(かぎ)を組み合わせて「ベルクロ」と名づけられます。

「マジックテープ」も「ベルクロ」も実は商標

正式な一般名は「面ファスナー」

ところで「マジックテープ」という呼び名は、誰でも自由に使える一般名ではありません。「マジックテープ」は日本の会社クラレの登録商標で、「ベルクロ」はベルクロ社の商標です。どちらも特定の会社の商品名であって、製品そのものの正式な総称ではないのです。この留め具の一般名は「面ファスナー」といいます。テレビや新聞で「面ファスナー」という耳なれない言葉が使われるのは、特定の商標を避けるためです。

豆知識——宇宙でも活躍した留め具

無重力の宇宙船で道具を留めた

面ファスナーは、地上だけのものではありません。アメリカの宇宙開発でも重宝され、月をめざしたアポロ11号では、機内のあちこちに合計で約3,300平方インチ分(およそ畳1.3枚ぶん)が貼られていたといわれます。無重力では、手を離した道具がふわふわ漂ってしまいます。壁や宇宙服に面ファスナーを付けておけば、ペンでも工具でも、ぽんと留めておけるわけです。火に強い特別なタイプも、NASAの求めに応じて作られました。

宇宙服を着た宇宙飛行士のイラスト

世界中で使われる留め具が、足元にからみつく雑草の実から生まれた——厄介ごとの中にこそ、発明の種は転がっているのかもしれません。自然をよく見ることは、いまも昔も、ものづくりのいちばんの近道なのでしょう。