缶詰は、何年も常温の棚に置いておいても腐りません。さぞかし強い保存料が入っているのだろう、と思われがちです。
ところが、ふつうの缶詰に保存料はほとんど入っていません。長もちの秘密は、たった2つのシンプルな仕組みにあります。

缶詰が腐らない仕組み
まず、缶詰の仕組みと生い立ちを、ひととおり見わたしておきます。
| 問い | 答え |
|---|---|
| なぜ腐らないのか | 密封してから加熱し、中の菌を死滅させるから |
| 保存料は必要か | 基本は不要。仕組みそのもので腐敗を防ぐ |
| 発明したのは誰か | フランスのニコラ・アペール |
| いつごろの発明か | 1810年ごろ。きっかけはナポレオン時代の懸賞 |
では、仕組みから順に見ていきましょう。
腐らない仕組みは「密封」と「加熱」
食べ物が腐るのは菌のせい
そもそも食べ物が腐るのは、目に見えない微生物が中で増えるからです。細菌やカビは、栄養と水分、それに空気がそろうとどんどん繁殖します。腐敗やいやな匂いは、この菌の活動が生み出すものです。逆にいえば、菌さえ抑えこめば、食べ物は長くもちます。

菌を「殺して」「入れない」
缶詰がしていることは、とてもシンプルです。まず食品を缶に詰めて、すきまなく密封します。そのうえで缶ごと加熱し、中にいる菌を熱で死滅させるのです。封がされているので、外から新しい菌が入りこむこともありません。中の菌はいない、外の菌も入れない。だから常温の棚でも、何年も腐らずにいられるというわけです。
ちなみに、もし缶がパンパンにふくらんでいたら要注意です。それは封の内側で菌が増え、ガスを出したサインかもしれません。そうした缶は開けず、口にしないのが安全です。
生まれたきっかけはナポレオンの懸賞
軍の食料を保存せよ
缶詰の出発点は、戦争の食料問題でした。1795年、フランス政府は、食料を長く保存する方法に1万2千フランの懸賞金をかけます。遠くまで遠征する軍隊にとって、食料を腐らせずに運ぶことは死活問題だったのです。「腹が減っては戦はできぬ」を地でいく話でした。

アペールの瓶詰めから金属缶へ
懸賞にこたえたのが、菓子職人のニコラ・アペールです。彼は食品をびんに詰めて加熱し、しっかり栓をする方法を編み出しました。1810年にこの功績で賞金を受け取り、製法を本にして公開します。同じ1810年には、イギリスのピーター・デュランドがブリキ缶の特許を取り、保存容器はびんから丈夫な金属缶へと進化していきました。
「なぜ腐らないか」は当時わからなかった
おもしろいことに、アペール自身は「なぜ腐らないのか」を説明できませんでした。加熱して密封すれば食品がもつ、という事実は経験からつかんでいたものの、その理由までは分からなかったのです。腐敗が微生物のしわざだと突きとめたのは、のちの科学者パスツールでした。その発見は、缶詰が実用化されてから半世紀ほどもあとになります。経験が科学を追いこした、めずらしい発明だといえます。
豆知識——缶切りは缶詰の約50年あとに生まれた
缶詰の歴史で、いちばん意外なのが缶切りの登場です。缶詰そのものは1810年に生まれたのに、缶切りが発明されたのは1858年。じつに約50年ものあいだ、缶切りは存在しませんでした。

では、それまでどうやって開けていたのでしょうか。当時の缶は分厚い鉄製で、なんとハンマーとノミで叩き割るのが普通でした。しかもそれは、缶を作る側がすすめる「正しい開け方」だったというから驚きです。便利な発明がそろうまでには、ずいぶん時間がかかるものなのですね。
缶詰のなかでは、密封と加熱というたった2つの工夫が、いまも静かに働いています。棚の奥で何年も平気でいられるのは、200年前に生まれた知恵が、いまも変わらず効いているからです。


