ファスナーはなぜ一度閉じると外れないのか——「チャック」「ジッパー」の正体

ファスナーのイメージ モノと道具の話
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ファスナーは、スライダーでいったん閉じてしまえば、布を横にどれだけ引っ張っても外れません。ところがスライダーを動かせば、するりと開く。この「引いても外れないのに、動かせば開く」という不思議は、歯の連なりに隠れた仕掛けのおかげです。

毎日なにげなく使う道具ですが、その中身はよくできた精密機械でした。小さな歯がどうかみ合っているのか、そして「チャック」「ジッパー」という呼び名は何が違うのか。順に見ていきます。

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ファスナーの正体

ファスナー

登場する部品は、たった4つ。先に名前だけ押さえておくと、このあとの仕組みがぐっと飲み込みやすくなります。

部品役割
エレメント(務歯)かみ合う小さな歯
スライダー手で持って動かす部分
テープ歯を並べた土台の布
上止・下止両端でスライダーの飛び出しを止める

なぜ横に引いても外れないのか

ジッパー付き保存袋

ファスナーの強さの秘密は、ずらりと並んだ小さな歯にあります。まずはこの歯の正体からです。

主役は「務歯(エレメント)」

務歯(むし)とは、ファスナーの両側にずらりと並んだ、かみ合う小さな歯のことです。英語ではエレメントと呼ばれます。

小さな歯が交互にかみ合う

務歯は、頭と胴のあいだにくびれのある、小さな凸凹の形をしています。閉じると、左右の歯が一つずつ交互に、隣の歯のくぼみへはまり込みます。歯車がかみ合うように組み合うので、横から引っ張っても抜けません。あの頑丈さは、一個いっこの歯の形が生んでいたのです。

上止・下止が飛び出しを止める

歯の列の両端には、上止・下止という小さな金具がついています。これがスライダーの行きすぎや飛び出しを防ぎ、歯が端からほどけないよう押さえています。地味ですが、なくてはならない縁の下の力持ちです。

スライダーは「Y字路」だった

通り道がY字型

手で動かすスライダーの中は、じつはY字路のトンネルになっています。閉じる向きに動かすと、左右から来た2列の歯がY字の合流点で引き寄せられ、一つずつかみ合っていきます。スライダーが通ったあとには、しっかり閉じた列だけが残るという仕組みです。

逆に引けば歯が分かれる

では、開けるときは何が起きているのでしょうか。スライダーを逆向きに動かすと、今度はその形がかみ合った歯を左右へ引きはがしていきます。つまり一つのスライダーが、閉じる役と開ける役を兼ねているわけです。小さな金具ひとつに、二つの仕事が仕込まれていました。

「ファスナー」「チャック」「ジッパー」の違い

巾着袋

ところで、この道具には呼び名が三つあります。じつは、どれも同じものを指しています。違うのは、名前の生まれた場所と由来だけです。

呼び名は3つとも同じもの

ファスナーは「留めるもの」

「ファスナー」は、英語の fasten(留める・固定する)に由来します。文字どおり「留める道具」という意味で、日本ではこれが一般的な呼び名になりました。三つのなかでは、いちばんまじめな名づけといえます。

ジッパーは「閉じる音」

「ジッパー」の由来は、なんと音です。1921年、アメリカのメーカーが、閉めるときの「シューッ」という擬音「Zip」から名づけたとされます。英語圏では今もこのジッパー(zipper)が主流です。閉じる音がそのまま名前になった、愉快な例でした。

「チャック」は日本生まれ

巾着からもじった名前

外来語に見える「チャック」は、実際には日本生まれの言葉です。1927年、広島の尾道(おのみち)でのことでした。口をきゅっと締める「巾着(きんちゃく)」をもじった「チャック印」を売り出したところ、これが評判になりました。そこから「チャック」という呼び名が全国に広まったといわれます。いちばん英語っぽいのに、いちばん和製、というわけです。

呼び名由来主に使う地域
ファスナー英語 fasten(留める)日本の一般名
ジッパー閉じる擬音「Zip」英語圏
チャック巾着をもじった商品名日本(和製)

だれが発明したのか

靴ひも

これほど便利なファスナーですが、はじめから完成形だったわけではありません。実用になるまでには、20年以上の歳月がかかりました。

靴ひもの不便から生まれた

ジャドソンの原型(1891年)

ファスナーの起源は、1891年にさかのぼります。アメリカのホイットコム・ジャドソンが、いちいち靴ひもを結ぶ面倒をなくそうと考えた留め具が、そのはじまりとされています。ただ、この初期型はよく外れて、実用にはほど遠いものでした。

サンドバックが実用化(1913〜14年)

使える道具に仕上げたのは、ギデオン・サンドバックでした。1913年から翌年にかけて改良を重ね、歯どうしがしっかりかみ合う現代型の原型を完成させます。今わたしたちが使う金属ファスナーの形は、このとき生まれたのでした。靴ひもの悩みから、20年あまりの歳月がかかっています。

日本とYKK

「チャック印」の財布から世界最大へ

日本で最初にファスナーを使った製品は、1927年に作られた「チャック印」の財布だといわれます。その後、YKK(吉田工業として創業)が品質を磨き、いまや世界じゅうの衣類やかばんに使われる最大手へと育ちました。身近な小さな歯の多くに、日本のものづくりが関わっているのです。

豆知識——ファスナーと上手につきあう

困る男性

仕組みが分かると、トラブルの理由も見えてきます。よくある2つの困りごとを、しくみの側から見てみましょう。

なぜ布を噛むと動かなくなるのか

Y字の通り道がふさがれる

服の裏地などがスライダーに巻き込まれると、あの動かなさが襲ってきます。生地がY字路の入り口をふさいでしまい、歯が通れなくなるからです。ここで力まかせに引くと、布はますます奥へ食い込みます。あわてず、少し戻してから布をそっと引き出すのがコツです。

閉めても開いてしまうときの理屈

かみ合わせのゆるみ

スライダーを通したそばから、後ろで歯が開いてしまう。これは、務歯のかみ合わせがゆるんだり、スライダー自体がすり減ったりしているサインです。歯の側ではなくスライダーの傷みが原因のことも多く、そこを直すと復活する場合があります。仕組みを知っていると、どこが悪いのか見当をつけやすくなります。

毎日なにげなく上げ下げしているファスナー。その一回ごとに、何十もの小さな歯が寸分たがわずかみ合い、そしてまた静かに離れていきます。指先ひとつで動く、手のひらの中の精巧な歯車だったわけです。

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