しゃぶしゃぶの起源と歴史——モンゴルの羊肉料理が牛肉鍋になるまで

身近な食文化
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しゃぶしゃぶは、薄切り肉を熱湯にくぐらせて食べる日本の鍋料理です。「しゃぶしゃぶ」という名前は食べるときの動作音から来ており、1952年に大阪で生まれた比較的新しい料理です。起源をたどると、中国料理の「涮羊肉(しゃんやんろう)」にたどり着きます。

しゃぶしゃぶの歴史——年表

しゃぶしゃぶがどのように誕生し、日本に広まったかを整理しました。

時期できごと
13〜14世紀(元朝時代)中国・モンゴルで羊肉を湯にくぐらせて食べる「涮羊肉(しゃんやんろう)」が生まれたとされる
清朝時代(17〜20世紀)涮羊肉が宮廷料理として確立。北京の有名店「東来順(とうらいじゅん)」が名物料理に
1952年(昭和27年)大阪の料亭「スエヒロ」が「しゃぶしゃぶ」を命名・メニュー化。牛肉の薄切りを用いたスタイルを確立
1955年以降東京進出とともに全国に広まる。高度経済成長期に高級料理として人気を確立
1980〜90年代専門チェーン店の台頭により、一般家庭でも食べられる料理に
現代豚・鶏・鱈など多様な食材に展開。食べ放題スタイルも定番化

わずか70年ほどで「高級料亭の一品」から「家族の食卓の定番」へと変容したしゃぶしゃぶの歩みを見ていきます。

発祥——中国料理から「しゃぶしゃぶ」が生まれるまで

涮羊肉とモンゴルの食文化

しゃぶしゃぶの原型は、中国・モンゴル起源の「涮羊肉(しゃんやんろう)」とされています。「涮(しゃん)」は「さっと湯にくぐらせる」という意味の動詞で、薄切りの羊肉を熱湯にくぐらせてタレで食べる料理です。13〜14世紀の元朝時代にモンゴル軍が野営中の料理として考案したという説があり、後に清朝の宮廷料理として洗練されていきました。

北京の涮羊肉は現在も名物として有名で、特に「東来順(とうらいじゅん)」は清朝時代から続く老舗として知られています。日本のしゃぶしゃぶとの大きな違いは、羊肉を使うこと、ごまだれ・腐乳(ふにゅう)など独特のタレで食べることです。

「しゃぶしゃぶ」の命名と大阪からの発信

日本で「しゃぶしゃぶ」として確立したのは1952年、大阪・心斎橋の料亭「スエヒロ」です。中国の涮羊肉をヒントに、羊肉の代わりに牛肉の薄切りを使い、昆布だしのシンプルなスープでさっと煮るスタイルを開発しました。肉を湯にくぐらせる動作の音が「しゃぶしゃぶ」と聞こえることから、この名称が付けられたとされています。

当初は関西の高級料理でしたが、東京進出を経て全国的な知名度を獲得しました。牛肉文化がすでに根付いていた戦後日本に、薄切り・さっと煮という新鮮な調理法がマッチし、すき焼きとは異なるもうひとつの牛肉鍋として定着したのです。

しゃぶしゃぶとすき焼きの違い

よく比較されるしゃぶしゃぶとすき焼きの違いを整理します。

項目しゃぶしゃぶすき焼き
調理法薄切り肉を熱湯にくぐらせる肉・野菜を甘辛い割り下で煮る(または焼く)
スープ昆布だしのシンプルな湯醤油・砂糖・みりんの甘辛い割り下
タレポン酢またはごまだれ生卵
カロリー比較的低め(シンプルな煮汁)高め(甘辛い煮汁が絡む)
発祥1952年・大阪(スエヒロ)明治初期・東京(牛鍋が原型)

「あっさり食べたいならしゃぶしゃぶ、甘辛くしっかり食べたいならすき焼き」という使い分けが、今では定番の選択肢として定着しているのです。

冷しゃぶサラダのイラスト

豆知識——しゃぶしゃぶにまつわる話

「しゃぶしゃぶ」は商標登録されていた

「しゃぶしゃぶ」という名称は、発祥の店「スエヒロ」が当初商標登録をしていたとされています。しかし料理の名前として急速に一般化したため、現在では普通名詞として誰でも使える名称になったのです。料理の名前が商標から普通名詞へと変わった例として、「しゃぶしゃぶ」はコーラやナイロンと同じ経緯をたどった珍しいケースといえるでしょう。

〆の雑炊・うどんの文化

しゃぶしゃぶを食べ終えた後のスープには、野菜や肉のうまみが溶け出しています。このスープにご飯を入れて雑炊にしたり、うどんを加えて食べる「〆(しめ)」の文化は、日本の鍋料理に共通する楽しみ方です。スープの素材は昆布だし一本なのに、食べ進めるほどに複雑な旨みが増していく——この変化こそが、しゃぶしゃぶならではの醍醐味のひとつといえます。

中国のモンゴル料理に端を発したしゃぶしゃぶが、日本で牛肉と昆布だしに出会い、現在では世界中の日本食レストランで提供される料理になりました。食の旅は国境を越え、その先で新しい姿へと変わっていくものです。