鉛筆の側面には、「HB」や「2B」といった記号が印刷されています。よく見る記号なのに、HとBが何の略かと聞かれると、案外答えにつまるものです。
この記号は、芯の硬さと濃さを言い表しています。意味がわかると、用途に合った一本を選べるようになり、鉛筆づくりの歴史まで見えてきます。
HとBが表すもの
まず、記号の意味を一覧で見ておきましょう。
| 記号 | 略 | 特徴 |
|---|---|---|
| H | Hard(硬い) | 芯が硬く、線は薄い |
| B | Black(黒い) | 芯が軟らかく、線は濃い |
| F | Firm(引きしまった) | HとHBの中間の硬さ |
| HB | Hard+Black | 中間でバランスがよい |
| 数字 | 程度の強さ | 大きいほどその性質が強い |
それぞれ、くわしく見ていきます。

記号の正体——Hard・Black・Firm
Hは「硬い」、Bは「黒い」
Hは英語のHard、つまり「硬い」の頭文字です。芯が硬いほど線は薄くなり、数字が大きい2Hや3Hほどその傾向が強まります。いっぽうBはBlack、「黒い」の頭文字で、芯が軟らかく濃い線が引けるのです。2B・3Bと数字が増えるほど、より濃くやわらかくなります。

見落とされがちな「F」
あまり知られていないのが、HとHBの間にある「F」です。これはFirm、「引きしまった」という意味の頭文字で、ほどよく硬めの書き心地を表します。HBより少しだけ硬く、すっきりした線になるのが特徴です。
濃さは「芯の中身」で決まる
芯は黒鉛と粘土でできている
そもそも鉛筆の芯は、黒鉛(こくえん)と粘土を混ぜて焼き固めたものです。黒鉛は紙の上をすべって黒い跡を残し、粘土は芯をかためる役目を持っています。この二つの割合を変えることで、硬さと濃さを自在に調整できるのです。

粘土が多いと硬く、黒鉛が多いと濃い
粘土の割合が多いほど芯は硬くなり、線は薄くなります。これがHのグループです。逆に黒鉛が多いほど芯は軟らかく、線は濃くなります。こちらがBのグループで、たとえばHBは黒鉛と粘土がおよそ七対三の割合です。
ずらりと並ぶ硬さの段階
JISでは6Bから9Hまで
日本の規格(JIS)では、鉛筆の濃さは6Bから9Hまでの17種類に分かれています。薄くて硬いほうから濃くて軟らかいほうへ、次のように並びます。
| グループ | 並び(薄い→濃い) |
|---|---|
| H系(硬い) | 9H・8H・7H・6H・5H・4H・3H・2H・H |
| 中間 | F・HB |
| B系(濃い) | B・2B・3B・4B・5B・6B |
数字が大きいほど、その方向の性質が強くなる仕組みです。デッサン用には、さらに濃い10Bまでそろえるメーカーもあります。

どの濃さを選べばいい?
ふだん使いとマークシートはHB・B
では、実際にはどの濃さを選べばよいのでしょうか。ふだんの筆記や事務には、濃すぎず薄すぎないHBやBが使いやすいとされます。試験のマークシートも、機械が読み取りやすいHBやBの鉛筆を指定することがほとんどです。

用途で変わる「向いた濃さ」
目的によって、向いている濃さは変わります。おおまかな目安は、次のとおりです。
| 用途 | 向いた濃さ |
|---|---|
| ふだんの筆記・事務 | HB・B |
| 小学校の学習(低学年) | 2B・B |
| マークシート | HB・B |
| 製図・細かい線 | H・2H |
| デッサン・スケッチ | 2B〜6B |
薄く硬い芯は細く正確な線に、濃く軟らかい芯は濃淡の表現に向いています。書きたい線を思い浮かべると、選ぶ濃さもおのずと決まってくるはずです。
国によって表し方が違う
海外では数字で表す
この記号は世界共通ではなく、国によって表し方が違います。たとえばアメリカでは、HとBの代わりに番号を使うのが一般的です。日本のHBにあたるのが「ナンバー2(#2)」で、テストのマークシートでよく指定される鉛筆です。同じ硬さでも、呼び名は国ごとにずいぶん変わります。

豆知識——黒鉛が足りずに生まれた製法
いまのように硬さを選べるのは、ある発明のおかげでした。鉛筆はもともと、イギリスで見つかった良質な黒鉛のかたまりを、細く削って作られていました。
ところが18世紀の終わり、戦争のあおりでイギリス産の黒鉛が手に入りにくくなります。そこでフランスのコンテが、質の劣る黒鉛を粉にし、粘土と混ぜて焼き固める方法を考え出しました。割合を変えれば芯の硬さを自由に変えられると分かり、これが今の細かい等級のもとになったのです。

「HB」や「2B」は、ただの記号ではなく、芯の硬さと黒さを言い当てた略号でした。その一文字が黒鉛と粘土の配合を指していると知れば、見慣れた筆記具も少し違って見えてきます。手元の一本にも、書き味を選びとってきた長い工夫が詰まっています。


