金魚の記憶が3秒しかない、という話を裏づける研究は見つかっていません。実験で確かめられているのは、その反対の姿です。合図と餌の結びつきを6日ぶりでも覚えていた例があり、少なくとも3か月は覚えているという見方もあります。レバーを押して餌を出し、餌の出る時刻に合わせて動いた金魚もいました。この記事では、その実験を順にたどります。
「3秒」の出どころは分からない

「3秒」を示した論文は無い
「金魚の記憶は3秒」という数字には、元になった実験や論文がありません。英国の自然誌BBC Wildlifeも、金魚は少なくとも3か月は覚えていられるとして、この話をはっきり否定しています。英語圏でも「three second memory」の名でよく知られた俗説で、日本だけの思い込みではありません。それほど広まった話なのに、測った人の名前がどこにも出てこないのです。
小さな金魚鉢の言いわけとして広まった
この俗説には、ちょっと都合のいい使われ方がありました。すぐ忘れるのだから、狭い金魚鉢をぐるぐる回っても退屈しない、という理屈です。2008年にオーストラリアで実験をした15歳の生徒も、この話が小さな水槽で飼うことの言いわけになっていると考え、確かめてみようと思ったと語っています。結果は、後の章で紹介するとおりです。
金魚はどれくらい覚えている?

少なくとも3か月という見方
BBC Wildlifeは、金魚の記憶は少なくとも3か月続くと紹介しています。覚えられるのは「いつ・どこで・どうすれば餌がもらえるか」の組み合わせです。時刻と場所を一緒に覚えるこの学び方は「時間場所学習」と呼ばれ、多くの人が意外に思う能力だと書かれています。3秒どころか、季節がひとつ変わるくらいの長さです。
1か月後も水中コースを泳ぎ切った
米国の科学番組「怪しい伝説(MythBusters)」でも、この俗説が取り上げられました。出演者のジェイミー・ハイネマンが金魚に色の模様を見分けさせ、水中の障害物コースを通る練習をさせたのです。1か月以上たってから水槽に戻すと、金魚は促されなくてもコースを泳ぎ切ったと紹介されています。
「5か月」は金魚の実験ではない
「魚は4〜5か月覚えている」という話もよく出てきます。元になったのは、イスラエル工科大学(テクニオン)の研究者が学会で発表した、養殖魚を海で育てる試みです。稚魚に水中スピーカーの音と餌を1か月ほど結びつけて覚えさせ、海へ放しました。4〜5か月後に同じ音を流すと、魚は戻ってきたといいます。
ただし報道では魚の種類が明かされておらず、金魚を使った実験ではありません。海に放す養殖魚なので、淡水の金魚とは別の魚と見るのが自然です。この数字をそのまま金魚に当てはめるのは早く、金魚については「少なくとも数か月」と言うのが確かなところです。
※ 条件づけ(じょうけんづけ)とは、ある合図と出来事を何度もセットで経験するうちに、合図だけで反応するようになる学習のことです。音を鳴らしてから餌をやると、音だけで寄ってくるようになる、といった現象を指します。
15歳が赤いブロックで確かめた

目印を入れて30秒後に餌をまく
2008年、南オーストラリア州アデレードの理数系の学校に通う15歳のローリー・ストークスさんが、飼っている金魚で実験をしました。餌の時間になると水槽に目印を入れ、30秒待ってから目印のまわりに餌をまきます。目印は赤いレゴのブロックだったと伝えられています。
はじめのうち、金魚が目印に寄ってくるまで1分以上かかりました。3週間続けると5秒を切るようになり、目印が水に入る前から近くで待つほどになったそうです。
6日ぶりでも4.4秒で集まった
次に、目印を使うのを6日間やめました。そのあと久しぶりに目印を入れると、金魚は4.4秒で集まってきます。休む前の3回の平均より速いくらいでした。もし3秒で忘れるなら、6日も見ていない目印に反応する理由がありません。
学校の自由研究なので、専門の雑誌で審査を受けた研究ではありません。それでも合図と餌の結びつきが1週間近く残ることを、身近な道具で示した点は見事です。後で触れる大学の実験とも、結果の向きはそろっています。
レバーを押して時刻まで覚える?

1日1時間だけ餌が出るレバー
1994年、ギーらの研究チームは、金魚の水槽にレバーを付けた実験を学術誌に発表しました。金魚がレバーを押すと餌が出る仕組みです。餌が出る時間帯を少しずつ狭め、最後は24時間のうち1時間だけにして、その状態を4週間続けました。
すると8匹の金魚は、餌が出る時刻が近づくとレバーを押す回数を増やしました。時計を見ているわけではなく、1日のリズムと餌の時間を結びつけて覚えたと考えられています。英国プリマス大学の実験として紹介されることも多い、有名な型の実験です。
餌が出なくなると数日で薄れた
この実験には続きがあります。餌の出る仕掛けを止めて6日間ようすを見たところ、時刻に合わせた押し方は数日しか続きませんでした。ここだけ読むと忘れっぽく見えるかもしれません。
けれども、ごほうびが来なくなった行動が減っていくのは、人や犬でも同じです。心理学では「消去」と呼ばれ、覚えたことを失ったのではなく、もう役に立たないと学び直した結果とされます。金魚は「いまは押しても出ない」ことまで、きちんと覚えたわけです。
なぜ忘れっぽいと思われた?

同じところを回る姿が誤解を呼ぶ
金魚鉢の中をぐるぐる泳ぐ姿は、毎回はじめての場所を探検しているようにも見えます。そこから「忘れるから飽きない」という説明が生まれたのでしょう。けれども泳ぎ回るのは魚にとって自然なふるまいで、記憶の長さとは関係がありません。
覚えているかが外から見えにくい
犬なら名前を呼べば尻尾を振り、猫なら餌の袋の音で走ってきます。金魚にはそうした分かりやすい表情がなく、覚えているかどうかが人の目には伝わりにくい生きものです。手ごたえの少なさが「何も考えていない」という印象につながったと考えられます。
実際には、いつも餌をくれる人が近づくと水面へ寄ってくる金魚は珍しくありません。人の姿や足音を、餌の合図として覚えている可能性があります。毎日世話をする人ほど、金魚の「覚えている」場面に気づきやすいはずです。
人の集中力は金魚より短い?

「8秒と9秒」が広まった2015年
金魚の記憶をめぐっては、人間のほうが忘れっぽいという話まで広まりました。きっかけは2015年、マイクロソフトのカナダ法人の消費者調査チームが出した報告書です。人の集中が続く時間は2000年の12秒から8秒に縮んだ、という数字が載りました。金魚の9秒より短いとして、米国の大手誌などが一斉に取り上げたのです。
出典をたどると数字が消えた
ところがこの数字は、報告書が自分で測ったものではありませんでした。出典は統計をまとめたウェブサイトで、2017年にBBCの記者が問い合わせても、裏づけは示されなかったといいます。注意が続く長さは作業の内容によって大きく変わるため、平均を1つの秒数で表すこと自体に意味がない、と指摘する研究者もいるほどです。
記憶の長さと集中の長さは別もの
金魚の3秒も、人の8秒も、覚えやすい数字だけが先に歩いた点で似ています。しかも金魚の記憶の長さと、人の集中の長さはそもそも別のものです。比べられること自体が、少しおかしな話でした。
3秒で忘れると言われてきた金魚は、6日ぶりの目印に4.4秒で集まり、餌の時刻に合わせてレバーを押していました。忘れっぽかったのは金魚ではなく、数字の出どころを確かめずに語り継いできた私たちのほうかもしれません。
参考
- Gee, Stephenson, Wright (1994) Temporal discrimination learning of operant feeding in goldfish (Carassius auratus). Journal of the Experimental Analysis of Behavior 62
- BBC Wildlife「Do goldfish really only have a 3 second memory?」
- Mental Floss「Do Fish Really Have a Three-Second Memory?」
- Practical Fishkeeping「Fish remember for four or five months, not three seconds」
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