手元の鉛筆をながめてみると、その多くは六角形をしています。ところが、同じ筆記具でも色鉛筆はたいてい丸い軸です。毎日使っているのに、なぜ形が違うのかと聞かれると、案外すぐには答えられません。
この六角形には、書く道具ならではのしっかりした理由があります。しかも調べていくと、「鉛筆」という名前なのに芯には鉛が入っていない、という意外な事実にも行き当たります。身近な一本にひそむ工夫と歴史を、順にほどいていきましょう。
鉛筆の形と芯 早見表

六角形の謎から芯の正体まで、この記事の要点を先に表へまとめました。細かな理由は、このあと順にたどります。
| 疑問 | 答え |
|---|---|
| なぜ六角形か | 3点で持つと安定し、転がりにくいから |
| 色鉛筆が丸いのは | いろんな持ち方をし、太い芯を守るため |
| 芯の正体は | 黒鉛(こくえん)と粘土。鉛ではない |
| HBのHとBは | Hard(硬い)とBlack(黒い)の頭文字 |
六角形が持ちやすい理由

まず、いちばんの謎である六角形の理由から見ていきましょう。カギは、私たちが鉛筆を持つときの指の数にありました。
3点で持つから、3の倍数
親指・人差し指・中指の3点
鉛筆を正しく持つとき、私たちは親指・人差し指・中指の3本で支えています。この3本の指が、それぞれ軸の面にぴたりと当たると、鉛筆はぐらつかず安定します。だからこそ、面の数が3の倍数であることが望ましいのです。六角形は3の倍数のうち、もっとも扱いやすいかたちとして選ばれてきました。
なぜ三角でも十二角でもないのか
3の倍数なら、三角形や十二角形でもよさそうに思えます。しかし三角形では、角が少なすぎて手に食い込み、握ると痛くなってしまいます。逆に十二角ではどうでしょう。角が増えすぎて、もはや丸に近くなり、3点で支えている感覚がつかみにくくなるのです。痛くなく、それでいて3点をしっかり意識できる。その絶妙なバランスの答えが、六角形でした。
転がらないという利点
机から転がり落ちない
六角形には、持ちやすさとは別のうれしい効果もあります。それは、机の上で転がりにくいことです。丸い軸だと、少し傾いた机ではころころと転がり、そのまま落ちてしまいます。ところが六角形は、平らな面が机に接するので、途中でぴたりと止まってくれる。授業中に鉛筆を追いかけずにすむのは、この形のおかげでもあったのです。
作る側にも都合がよい
六角形は、鉛筆を作るメーカーにとっても好都合な形です。角の数が偶数だと、機械で大量に削り出しやすく、量産に向いています。角の数が奇数だと、加工が難しくなるといわれます。使う人には持ちやすく、作る人には作りやすい。両方の都合がうまく重なった結果が、あの六角形だったというわけです。
色鉛筆はなぜ丸いのか

では、同じ鉛筆でも、色鉛筆の多くが丸い軸なのはなぜでしょうか。ここにも、ちゃんとした理由が二つあります。
使い方がそもそも違う
いろんな向きで持つから
一つめの理由は、使い方の違いです。文字を書く鉛筆は、決まった3点持ちが基本でした。いっぽう色鉛筆は、絵を塗るために寝かせたり立てたり、さまざまな角度で持ちます。持つ向きが一定でないなら、どの向きでも指あたりのやさしい丸のほうが、かえって使いやすい。色鉛筆の丸軸は、自由な持ち方に寄り添った形なのです。
折れやすい芯を守るため
もう一つは、芯を守るという事情です。色鉛筆の芯は、黒い鉛筆のように高温で焼き固めていません。そのぶんやわらかく、太くて折れやすいのです。もし軸が六角形だと、芯から軸の表面までの距離が、場所によって長かったり短かったりします。丸い軸なら、芯のまわりを均等な厚みで包める。太くて繊細な芯を守るには、丸がいちばん都合がよかったわけです。
三角鉛筆という工夫
正しい持ち方を教える形
六角形や丸のほかに、三角形の鉛筆もあります。よく見かけるのは、字を習いはじめる子ども向けのものです。三角形は面が3つしかないので、そこに3本の指を素直に当てられます。自然と正しい3点持ちが身につくよう、あえて角を減らしているのです。角が少ないと痛くなりやすい弱点も、まだ力の弱い子どもの手なら気になりにくい。形の一つひとつに、ねらいが込められていました。
「鉛筆」なのに鉛じゃない

ここで、形から少し話をずらして、芯そのものに目を向けてみましょう。じつは「鉛筆」という名前には、大きな勘違いがひそんでいます。
芯の正体は黒鉛と粘土
※ 黒鉛(こくえん)とは、炭素からできた鉱物で、石墨(せきぼく)とも呼ばれます。ダイヤモンドと同じ炭素でできた仲間ですが、やわらかく、こすると紙に色を残します。
ダイヤモンドの親戚だった
鉛筆の芯は、鉛ではなく「黒鉛」と粘土を混ぜて焼き固めたものです。この黒鉛は、あのダイヤモンドと同じ炭素からできています。ただし黒鉛は、薄い層が重なった構造をしていて、その層がすべるように紙へ移る。だから軽くこするだけで、字が書けるのです。世界一かたいダイヤモンドと、やわらかい鉛筆の芯が親戚だとは、なんとも不思議な縁です。
昔、黒鉛を鉛とまちがえた
ではなぜ、鉛が入っていないのに「鉛筆」なのでしょうか。話は、黒鉛が使われはじめた昔にさかのぼります。当時の人々は、黒くて重たげなこの鉱物を、金属の鉛の一種だと思い込んでいました。英語でも「黒い鉛」と呼ばれ、鉛の筆を意味する言葉が生まれます。それが日本に伝わり、「鉛筆」と訳されたのです。名前の中に、昔の人の思い違いがそのまま化石のように残っていたのでした。
豆知識——HBのHとBは何の略か

最後に、鉛筆でおなじみの記号「HB」の意味を紹介します。あの2文字にも、ちゃんとした由来がありました。
硬さと濃さを表す記号
HはHard、BはBlack
鉛筆の芯の「H」は、英語で「かたい」を意味するHard(ハード)の頭文字です。数字が大きいほど、芯はかたく、線は薄くなります。いっぽう「B」は、「黒い」を意味するBlack(ブラック)から。こちらは数字が大きいほど、芯はやわらかく、線は濃くなります。ちなみに、HとBの中間にある「F」は、引き締まったという意味のFirm(ファーム)の頭文字でした。
濃さは粘土の量で決まる
この硬さや濃さは、芯にまぜる粘土の量で調整されています。粘土を多くすると、芯はかたく締まり、書いた線は薄くなります。逆に黒鉛の割合を増やすと、やわらかく、濃い線が引ける。同じ黒鉛でも、粘土との配合を変えるだけで、HからBまでの幅広い濃さが生み出せるというわけです。一本の芯の中に、こまやかな調合の技が詰まっていました。
何気なく握っている一本の鉛筆に、これだけの物語が詰まっています。指に合わせた六角形の工夫、黒鉛を鉛と見あやまった歴史、そして濃さを操る調合の知恵。六角形が選ばれたのは、けっして角の立った理由からではなく、使う人と作る人の双方に寄り添った結果でした。次に鉛筆を手に取るとき、その六つの面をそっとなでてみる。すると、いつもの筆記具に込められた工夫が、指先からじんわり伝わってきます。
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