ウォシュレットはTOTO、宅急便はヤマトホールディングスが持つ登録商標です。どちらもふだん何気なく口にする言葉ですが、ほかの会社が自社の製品やサービスにこの名前を付けて売ることはできません。身近なところでは、プチプチ・万歩計・テトラポッド・エレクトーン・QRコード・デコポンも同じ仲間です。
ふだんの言葉の持ち主はこの会社

9つの呼び名と持ち主と一般名称
一度は口にしたことがありそうな言葉を、持ち主と「だれでも使える呼び名」に並べてみます。左の列が一社だけの名前で、右の列が商品の種類そのものを指す名前です。
| ふだんの言葉 | 持ち主 | だれでも使える呼び名 |
|---|---|---|
| ウォシュレット | TOTO | 温水洗浄便座 |
| 宅急便 | ヤマトホールディングス | 宅配便 |
| プチプチ | 川上産業 | 気泡緩衝材 |
| テトラポッド | 不動テトラ | 消波ブロック |
| 万歩計 | 山佐時計計器 | 歩数計 |
| エレクトーン | ヤマハ | 電子オルガン |
| QRコード | デンソーウェーブ | 二次元コード |
| デコポン | 熊本県果実農業協同組合連合会 | 不知火(品種名) |
| マジックテープ | クラレ | 面ファスナー |
右の列ならどの会社も使える
温水洗浄便座や宅配便のような一般名称は、どこの会社が使ってもかまいません。けれど左の呼び名を他社が自社の商品に付ければ、商標権の侵害になります。同じような製品なのに呼び名が二つあるのは、この「一社だけの名前」と「みんなの名前」が並んで使われているからです。
登録商標とはどんな権利?

商品の目印を独り占めできる
商標とは、ある会社の商品やサービスをほかと見分けるための目印です。名前やロゴを特許庁に登録すると「登録商標」になり、登録した種類の商品について、その目印を独り占めして使えるようになります。宅急便がヤマト以外の配達サービスに使われず、ほかの会社のものが「宅配便」と呼ばれるのはこのためです。
右肩の®は登録済みのしるし
商品名の右肩に付く®は、英語のregistered(登録済み)の頭文字です。この名前が国に登録された商標だと示すマークで、カタログやパッケージでよく見かけます。QRコードの開発元であるデンソーウェーブも、自社のサイトでの表記は「QRコード®」です。
一般名称は誰のものでもない
「温水洗浄便座」や「歩数計」のように、商品の種類そのものを指す言葉を一般名称(普通名称)と呼びます。こちらは特定の会社の持ち物ではありません。商標が「その会社の名札」なら、一般名称は「売り場の品目名」にあたる言葉です。
ウォシュレットと宅急便はどう生まれた?

ウォシュレットは「Let’s Wash」の逆さ読み
TOTOのウォシュレットは1980年6月に発売されました。名前は「Let’s Wash(さあ、おしりを洗いましょう)」を逆さにしたものだと、TOTO自身が説明しています。2020年4月時点で国内外の累計出荷台数は5,300万台を超え、同じ年には「日本ネーミング大賞2020」で優秀賞に選ばれました。
他社の温水洗浄便座には別の名前がある
ウォシュレットと呼べるのは、TOTOの温水洗浄便座だけです。ほかの会社の製品にはそれぞれ独自の名前があり、LIXILは「シャワートイレ」、パナソニックは「ビューティ・トワレ」と名づけています。売り場ではまとめて「温水洗浄便座」の棚に並ぶのに、商品ごとに名前が違うのは商標の仕組みがあるからです。
宅急便は1976年1月に始まった
宅急便はヤマト運輸が1976年1月20日に始めた小口の配達サービスです。名前には「お宅に素早くお届けする」という意味が込められていて、もとは社内での仮の呼び名でした。いまはヤマトホールディングスの登録商標(登録商標第3023793号ほか)で、こちらも2020年に日本ネーミング大賞の優秀賞を受けています。
ゆうパックや飛脚宅配便のように、ほかの会社の同じようなサービスにはそれぞれ別の名前が付いています。まとめて呼ぶなら「宅配便」が正しい言い方です。
台所と荷造りの道具にも商標がある

サランラップとクレラップは別の会社の名前
台所の「サランラップ」は、旭化成グループが作って売っている食品用ラップの商品名です。日本での発売は1960年で、パッケージには®のしるしが付いています。同じ売り場に並ぶ「クレラップ」はクレハの商品名なので、どちらも一般名称としては「食品用ラップ」と呼ぶのが正確です。
プチプチは川上産業の商品名
荷物を包む「プチプチ」も、川上産業の登録商標です。1968年に創業した同社は、日本で初めて気泡緩衝材を売り出した会社だと説明しています。国内での占有率は5〜6割ほどとされ、業界の最大手です。
短くて覚えやすい名前は、「気泡緩衝材」より先に口から出てきます。一般名称が長くて言いにくいほど、商品名がそのまま種類の呼び名として広まりやすいことがよく分かる例です。
海辺・歩数計・楽器の名前も一社のもの

テトラポッドは不動テトラの商標
海岸や港で波を弱める四本脚のコンクリートブロックは、一般名称を「消波(しょうは)ブロック」といいます。「テトラポッド」はそのうち不動テトラの製品の名前で、同社の登録商標です。名前はギリシャ語の「4」と「脚」を組み合わせたものとされ、形をそのまま言い表しています。
万歩計は1965年の「万歩メーター」から
歩いた歩数を数える道具の一般名称は歩数計です。「万歩計」は山佐時計計器の登録商標で、同社は1965年に1号機の「万歩メーター」を発売しました。「1日1万歩」という目標の言い方もこの商品とともに広まったといわれ、名前そのものが健康づくりの合言葉になった珍しい例です。
エレクトーンはヤマハの電子オルガン
音楽教室でおなじみの「エレクトーン」は、ヤマハの電子オルガンの商品名です。英語の electronic(電子の)と tone(音)を合わせた造語とされ、楽器そのものの名前だと思っている人も少なくありません。1959年に生まれた最初の機種「D-1」は、2019年に国立科学博物館の未来技術遺産に登録されました。
デコポンは品種の名前ではない?

品種名は「不知火」
頭がぽこっと出っ張った柑橘のデコポンは、品種の名前ではありません。品種名は「不知火(しらぬい)」で、清見(きよみ)とポンカンをかけ合わせて生まれました。「デコポン」は熊本県果実農業協同組合連合会が持つ登録商標で、香川県も「条件付きで利用が許されている名前なので注意が必要」と案内しています。
同じ果物でも名前が変わる
デコポンの名前で売るには、糖度や酸味の基準を満たすなどの条件があるとされます。そのため同じ不知火でも、条件の外で出荷されたものは「不知火」の名前で店に並ぶのです。果物の売り場で二つの名前を見かけたら、中身は同じ品種かもしれません。
QRコードは技術を開放し名前を残した

1994年にデンソーウェーブが開発
スマホ決済や電子チケットで毎日のように使うQRコードは、デンソーウェーブが1994年に開発した二次元コードです。バーコードより多くの情報を速く読み取れるように作られ、最初は自動車部品の生産や出荷を管理する「電子かんばん」で使われました。名前はいまも同社の登録商標で、一般名称としては「二次元コード」と呼びます。
規格どおりなら誰でも無料で使える
デンソーウェーブはQRコードの特許を持っていますが、規格に沿ったQRコードには権利を行使しないと明言しました。1999年にJIS(日本産業規格)、2000年にISOの国際規格になり、使うのにライセンスも使用料も要りません。
技術は誰にでも開きながら、「QRコード」という名前は自社の商標として手元に残す。普及を優先しつつ出どころははっきりさせる、ほかの商標とは少し違う守り方です。
有名になりすぎた商標はどうなる?

商品名が種類の名前になる「普通名称化」
商品名が広まりすぎると、その言葉が「特定の会社の商品」ではなく「その種類の商品」を指すと受け取られるようになります。こうして商標が目印の力を失うことを、普通名称化(ふつうめいしょうか)と呼びます。それまで世の中に無かった新しい商品ほど、呼び名が商品名しか無いので起きやすいとされる現象です。
エスカレーターはもとオーチス社の商標
いまでは誰もが使う「エスカレーター」は、もとはアメリカのエレベーター会社オーチスの商標でした。広く使われるうちに商標としての働きを失い、いまでは「動く階段」を意味する一般名称に変わっています。生まれたときは一社だけの名前だったという点で、ウォシュレットたちと同じ出発点に立っていたわけです。
普通名称になると他社を止められない
日本の商標法では、普通名称はそもそも商標として登録できません。登録済みの商標でも、普通名称として使われる場面には権利が及ばないと定められています。ヒットの証である「広まりすぎ」が、名前を守れなくなる原因にもなるのです。
会社は呼び名をどう守っている?

一般名称を添えて®を付ける
カタログや広告で「ウォシュレット(温水洗浄便座)」のように一般名称を並べて書いたり、®や「〇〇は△△社の登録商標です」の一文を添えたりするのは、この言葉があくまで一つの商品の名前だと示すためです。TOTOも自社の説明で「TOTOの温水洗浄便座の商品名に限ってウォシュレットと呼べる」とはっきり書いています。
放送では一般名称に言い換える
NHKは特定の会社の商品名が出るのを避けるため、ニュース原稿で商品名を言い換えてきました。「テトラポッド」は「消波ブロック」に、「ウォークマン」は「ヘッドホンステレオ」に、という具合です。放送の言い換えは商標を守るためのものではありませんが、商品名と一般名称を使い分ける場面の分かりやすい例です。
会話で使うのは問題ない

商標が問題になるのは商売の場面
ふだんの会話で「ウォシュレットが壊れた」と言う分には、何の問題もありません。商標が問題になるのは、他社が自社の製品を「ウォシュレット」と名乗って売るような場面です。この「使っていいか、いけないか」の線引きは、それだけで一つの奥深いテーマになります。
マジックテープも1960年からクラレの名前
靴やかばんに付いている面ファスナーを「マジックテープ」と呼ぶとき、それはクラレの登録商標を口にしています。日本で最初に売り出された面ファスナーで、1960年の発売です。いまはクラレのグループ会社クラレファスニングが作って売っています。
自分の商品名が「普通の言葉」になるのは、会社にとって大ヒットの勲章です。同時にそれは、名前を手放しかねない危うさでもあります。あまりに愛されたせいで、生みの親の名前だと気づかれなくなる。身近な登録商標たちは、そんなうれしくも少し切ない立場で毎日使われています。
参考
- TOTO「TOTOの登録商標『ウォシュレット』が『日本ネーミング大賞2020』優秀賞を受賞」
- 日本ネーミング大賞2020「宅急便」
- デンソーウェーブ QRコードドットコム「QRコードの歴史」
- 井上・五所「標識関係訴訟における需要者アンケート(2):「普通名称化」に関する実証研究」知的財産法政策学研究 Vol.64(北海道大学)
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