切手のふちがギザギザなのはなぜか——「目打ち」のしくみ

社会と仕組みの話
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切手のふちのギザギザは、デザインではありません。あれは「穴を開けた跡」です。もともと切手はシートで印刷されていて、1枚ずつちぎり取るために、あらかじめ小さな穴が並べて開けられています。その穴の列が目打(めうち)です。

答えとしては、これでほぼ言い切れてしまいます。面白いのはその先です。最初の切手にギザギザは無く、人々ははさみで切り離していました。穴の数は今も1枚ずつ数えられていて、その数が違うだけで別の切手として扱われることもあります。

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ギザギザの正体は「切り離すための穴」

先に全体の答えを並べておきます。細部の話は、この表の各行を広げたものだと思って読んでいただければ十分です。

疑問答え
なぜギザギザ?1枚ずつ切り離すために穴を並べて開けてあり、その切り口が残るため
名前は?目打(めうち)。切手・印紙・収入証紙の周囲に入る連続した小穴のこと
最初からあった?いいえ。世界初の切手(1840年)には無く、はさみで切っていた
いつ付いた?イギリスで1854年から。日本は1872年(明治5)の桜切手から
穴の数え方は?20ミリメートルの中にある穴の数で示す。「目打12」のように書く
シール式のギザは?はがすだけなので切る必要はない。形だけ残した擬似的なもの

目打は切手だけのものではありません。収入印紙や収入証紙にも、同じ理由で同じ穴が並んでいます。

目打が無かった時代、切手ははさみで切っていた

切手が生まれてから14年ほど、切手にギザギザはありませんでした。ただの紙に絵柄が並んで印刷されているだけの状態です。

世界最初の切手には穴がない

ペニー・ブラックは「のり付き・穴なし」

世界最初の郵便切手は、1840年にイギリスで発行されたペニー・ブラックです。郵政博物館の解説によれば、この切手には裏のりは付いていましたが、目打はありませんでした。舐めて貼る仕組みは最初から完成していたのに、切り離す仕組みだけが抜けていたことになります。

窓口には、はさみが要った

そのため当時は、シートから必要な枚数をはさみで切り出していました。まっすぐ切れなければ絵柄に食い込みますし、急いでいる客をさばくにも手間がかかります。窓口でも家庭でも、切手を使うたびに刃物が必要だったわけです。

穴あけ機を思いついた人がいた

ヘンリー・アーチャーの特許

この不便を解決したのが、アイルランド出身の実業家ヘンリー・アーチャーだとされています。彼は切手のシートに穴を開ける機械を考案し、1848年に特許を出願しています。特許の年は資料によって1848年とも1849年とも書かれますが、いずれにせよ1840年代末の発明です。針をコの字型に並べ、1回の動作で1枚分の上辺と両側に穴を開ける方式で、これが後に櫛型(くしがた)目打と呼ばれる仕組みの原型になります。

4,000ポンドで買い上げられた仕組み

イギリス郵政はこの特許を1853年6月に4,000ポンドで買い上げたと伝えられています。アーチャーの原理をもとにした機械が作られ、1853年10月にはまず収入印紙に使われました。郵便切手への本格的な採用は1854年1月からで、このとき発行されたペニー・レッドが、世界で最初の目打入り切手になります。

日本の切手がギザギザになったのは明治5年

日本でも事情は同じで、最初の切手には目打がありませんでした。ギザギザが標準になったのは、郵便制度が始まった翌年のことです。

竜文切手から桜切手へ

1871年の竜文切手には目打が無い

日本最初の切手は、1871年(明治4)に発行された竜文切手(りゅうもんきって)です。名前のとおり竜が描かれ、額面は文(もん)で表示されていました。この切手にも目打は入っておらず、やはり切り離しは手作業です。

翌年の桜切手で「今の形」になった

転機は1872年(明治5)の桜切手でした。国立印刷局の解説では、この切手から切り取り穴(目打)と裏のりが必ず付けられるようになり、形やサイズも現在の普通切手とほぼ同じ仕様になったと説明されています。日本の切手が「今の切手らしい姿」になるまで、わずか1年しかかかっていません。

ギザギザが消えた時期もある

震災と戦争のときの切手

目打はいったん標準になった後も、絶対のものではありませんでした。関東大震災の後に急いで作られた震災切手や、終戦前後に発行された切手には、目打の無いものが存在します。設備や資材が足りない非常時には、切り離しやすさは真っ先に削られる要素だったようです。

「無いこと」が手がかりになる

裏を返せば、目打の有無はその切手が作られた状況を語ります。ギザギザが無い切手を見つけたとき、それは初期のものか非常時に刷られたものか。そんな見当をつける手がかりになるのです。

郵便まわりの決まりごとには、こうした明治由来のものが少なくありません。記号のなりたちについては郵便番号7桁の意味と、〒マークの由来でも触れています。

穴の開け方には何種類もある

ひとくちに穴を開けるといっても、シートのどこにどう針を落とすかで方式が分かれます。方式によって、仕上がりの見た目も少し違ってくるのです。

単線・櫛型・全型

3方式の違い

方式穴の入れ方特徴
単線目打縦と横を別々に入れる交差部分の穴がずれやすい
櫛型目打シートを一段ずつ、コの字型の針でアーチャーの原理。歯が櫛に似る
全型目打シート全体を一度で速いが大きな機械が要る

切手を集めている人がルーペで角を覗くのは、この違いを見ているからでもあります。四隅の穴の並び方に、方式の痕跡が残るのです。

今の主流はローラー式

現在よく使われているのは、1シート分の針を植えたローラーを転がして穴を開けるロータリー目打とされています。回転させながら連続して処理できるため、大量生産に向いた方式です。

穴ではないギザギザもある

ルレット目打

紙を丸く抜かず、短い切り込みを線状に入れて切り離しやすくする方式もあります。ルレット目打と呼ばれるものです。紙片が抜けないぶん、ふちは丸いギザギザにならず、細かい破線のような形になります。

ルレットとは、洋裁や製図で使う歯車状の道具のこと。紙や布の上を転がして、切り込みや印を線状に入れます。

厳密には「目打」ではない

もっとも、これを目打と呼ぶのは正確ではないとされています。目打はあくまで穴を指す言葉だからです。ふちのギザギザという見た目は同じでも、紙を抜いたのか切っただけなのかで、収集の世界では区別されています。

穴の数は「20ミリ」で数える

目打には、必ず数字が添えられます。穴の細かさを表す数値で、これが切手を識別する重要な手がかりになるのです。

目打数という数え方

基準は20ミリメートル

目打の細かさは、20ミリメートルの長さの中にいくつ穴があるかで表します。12個あれば「目打12」。横と縦で細かさが違う切手もあり、その場合は「13×13 1/2」のように、横×縦の順で書き分けます。1辺の長さではなく決まった長さあたりの密度で測る点が、この数え方の要です。

目打ゲージという道具

測るには目打ゲージという専用の道具を使います。目打数ごとの点や線が印刷された板で、その上に切手を重ね、穴の並びとぴったり合う段を探すだけの単純なものです。定規で穴を数えるより速く、細かい差も判別できます。

穴の数が違えば「別の切手」

絵柄が同じでも別種になる

ここが目打の面白いところです。印刷に差が無く、一見するとまったく同じ切手であっても、目打のピッチが違えば別種として扱われる場合があります。製造の時期や使った機械が変わったことの証拠になるからです。

ギザギザが値段を分ける

結果として、穴の数の違いが評価額を大きく分けることがあります。同じ絵柄の2枚が並んでいて、片方だけ扱いが違う。その理由が、目に見えないほどの穴の間隔だった、ということが起こるわけです。

郵趣(ゆうしゅ)とは、切手や郵便物を収集・研究する趣味のこと。単に集めるだけでなく、印刷や目打の違いを調べて分類する研究的な側面があります。

シール式切手のギザギザは、何のためにあるのか

最後に、いま一番身近な切手の話をします。台紙からぺりっとはがすシール式の切手です。

切る必要のない切手に残ったギザギザ

機能はもう要らない

シール式は台紙からはがして貼るため、そもそも紙をちぎる必要がありません。日本では1990年代からグリーティング切手などで広まり、いまでは記念切手の多くがこの方式です。初期のものには、ふちが直線で角が丸いだけの、ギザギザの無いデザインもありました。

それでも波型に抜かれている

ところが現在のシール式切手の多くは、わざわざふちを波型に型抜きしてあります。切り離すためではなく、目打があるように見せるための形です。これを擬似目打と呼びます。実用上は不要になった形が、切手らしさの記号として残ったわけです。

身のまわりを見渡せば、同じことは他にもあります。保存ボタンのアイコンが、もう誰も使っていないフロッピーディスクの形をしているのと、理屈は同じでしょう。

では、ギザギザの無い切手は切手らしくないのか。切る必要が消えてなお形だけを彫り残すほど、あの凹凸は切手の顔だったのか。手紙を出す機会そのものが減っていくなかで、次に封筒へ貼る1枚のふちを、指先で確かめてみたくなりませんか。

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